第10話 終幕
その後、彩音は梨乃のもとに駆けつけ、重傷を負った忍者装束の少女に治癒の術を施して治癒した。
次に俺たちは、すっかり回復した梨乃を先頭に、魔物たちの足跡を追って森の中を探索する。
すると一つの洞窟にたどり着いたので、俺たちはその洞窟へと踏み込んだ。
洞窟はあまり深いものではなく、すぐに終点へとたどり着いた。
洞窟の終点には、何やら禍々しくうごめく黒い靄があった。
地面と垂直に立ちのぼる直径三メートルほどの黒い円盤状の靄は、まるで何かの出入り口のようだ。
それを前にして、梨乃が俺に説明する。
「……これが『異界の門』。絶対に入らないでね、刀悧。この向こう側に行って帰ってきた人は、誰もいないから」
「……マジで?」
「……うん、マジで」
梨乃はそう言って、「異界の門」が地面と接するあたりにあった禍々しい宝珠を、苦無を使って破壊した。
すると「異界の門」は消え去り、その場はただの静かな洞窟となった。
梨乃は壊した宝珠の欠片を拾って、懐から取り出した巾着袋に入れる。
「……これで、魔物退治は完了。刀悧も彩音も、お疲れ様」
「はーっ、終わったぁ。今回は大変だったぁ。死ぬかと思ったよ」
彩音が大きく息を吐き出す。
それを見た梨乃が、淡く微笑む。
「……本当にね。ていうか刀悧がいなかったら、ボクも彩音もきっと今頃あの世に行ってるよ。小鬼退治だと思って来たら大鬼二体に遭うとか、運が悪すぎる」
「そういうことって、結構あるのか?」
俺が聞くと、梨乃はこくんとうなずく。
「……そりゃね。魔物発見の報告をするのは村の人とかだから、なくはない。村人が見たのが小鬼だけなら、依頼は小鬼退治になる」
そんな話をしながら、俺たちは洞窟を出る。
すると彩音が、洞窟を出たところで、俺に向かって深々と頭を下げてきた。
「刀悧さん。この度は本当に、ありがとうございました! 刀悧さんがいなかったら、私も梨乃も今頃、この世にはいませんでした」
「……ボクからも。ありがとう、刀悧。ボクが大鬼に頭からかじられずに済んだのは、刀悧が助けてくれたおかげ」
「い、いや、そんな。こっちこそおにぎりとたくあんと味噌汁を恵んでくれて、ありがとうございました。二人は命の恩人です」
俺もまた、彩音と梨乃の二人に向かってぺこぺこと頭を下げる。
日本人なものだから、こうして頭を下げるのは習性のようなものだ。
するとそれを見た彩音と梨乃が、くすくすと笑う。
「刀悧さんって本当に、変な人だね」
「……うん。でも、ボクは嫌いじゃない」
「それは私だってそうよ。──ねぇ、梨乃」
「……ん?」
彩音が梨乃に、何やら耳打ちをする。
梨乃はふんふんとうなずいてから、彩音に答える。
「……そんなの、ボクは賛成としか。刀悧次第だよ」
「そうだね。──ねぇ、刀悧さん」
そう言って彩音は、俺に向かって手を差し出してきた。
「もし良かったらなんだけど──これからも私たちと一緒に、浪人をやってくれませんか?」
さらに梨乃が、追随する。
「……ボクも刀悧と一緒なら、心強い。刀悧が嫌じゃなかったら、お願いしたい」
「もちろん浪人としての腕は釣り合わないから、ずうずうしいお願いをしているのは分かっているわ。報酬配分次第というなら、それも考える」
二人からそう言われた俺は、ふと考える。
今回は半ば、流れのままに二人についてきて、魔物退治をすることになった。
彩音の提案は、それを今後とも一緒にどうですかというお誘いだ。
さてどうしようかと考えるのだが──実のところ、あまり考えることもない気がした。
俺は二人のことを気に入っていたし、この世界のこともまだまだ知らないことのほうが多い。
この二人に、これから先も水先案内人をお願いできるなら、願ったり叶ったりだ。
「うん、分かった。むしろ俺のほうからお願いしたいぐらいだ。彩音、梨乃──これからもよろしく」
俺は彩音の手を取り、握手をする。
彩音は満面の笑顔を見せた。
「うん。よろしくね、刀悧さん」
「……ボクも、よろしく」
さらに梨乃も手を差し出してきたので、同じく握手をした。
──こうして俺は、二人の少女とともに、この異世界で「浪人」として生きていくことになった。
俺はこの後も、この異世界であれやこれやと厄介事に巻き込まれることになるのだが──それはまた、別のお話である。
幻想剣豪譚 ~刀と術の時代劇風ファンタジー世界に転移した俺は【剣豪】の力で悪を斬る~ いかぽん @ikapon
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