【ネクベト】


この場所に来れば何か起こる気がした。


『モエリス湖』に浮かぶ小島【マールブク島】。


真夏の夕日に照らされて金色に輝く葦舟から降り立つと、以前と同じように老神官が出迎えてくれた。


「お待ちしておりました。【タウィルトゥチ】」


「あなたに聞きたいことがあるの。【ネクベト】」


【ネクベト】は黒く輝くハゲワシの姿を現した。


もとは【ケンティ】という名の老神官は、もう長い年月【ネクベト】という【龍】と共にあったため、自分が【ケンティ】なのか【ネクベト】なのかもうどちらでも同じだった。


真夏の夕日に照らされて金色に輝く葦舟から降り立つと、以前と同じように老神官が出迎えてくれた。


「お待ちしておりました。【タウィルトゥチ】」


「あなたに聞きたいことがあるの。【ネクベト】」


【ネクベト】は黒く輝くハゲワシの姿を現した。


もとは【ケンティ】という名の老神官は、もう長い年月【ネクベト】という【龍】と共にあったため、自分が【ケンティ】なのか【ネクベト】なのかもうどちらでも同じだった。


「王に命じられたの。【龍人】ではない者が『不老不死』になることはできる?」


「『不老不死』か」


静かな声で穏やかな表情のまま、そう呟いた。


「全ての人にという訳にはいかないだろう」


「では?!」


「【視える者】や【聴こえる者】など【感じる者】であれば、あるいは」


「それはどうすれば!?…では、そうでないものを【感じる者】にすることはできますか?」


「そういう【龍質】を持つ者がいればできるかもしれんが、己が【龍人】になろうという時にそんなことを願う者がいるとは思えんな。【タウィルトゥチ】あなたは【ウアジェト】の【龍質】は何かご存知か?」


「【龍質】とは?」


「何が出来るのか、どう出来るのか、特有の能力【龍能】とも言う。」


「【ウアジェト】と一つになってから、王に命じられた長桑を広める仕事が格段に早くなりました。一度言えば理解してもらえるし、何というか私の持つ知識がそのまま相手に入り込む様な感じで、時には不思議なことがありました。」


あるノモスでいつものように神官達を集めて講義していた時の事。宿として部屋を借りていた年若い神官の1歳の娘が【タウィルトゥチ】の目の前で、生まれて初めて小さな口から発した言葉が


『熱や咳には葉を煎じ、傷やムカデにかまれた時などは葉や皮の乳汁を塗り、骨折には蒸した枝を添え木にし、体が冷たいものや目の暗いものにはその実を与え、吐血や重病人には根を煮詰めたものを飲ませよ』


という【タウィルトゥチ】が神官のみならず読み書きのできない民の間にも根付いてほしいと願い、呪文の様に言い続けている言葉だった。しかも、その赤子は講義に参加したこともなければ神官が自分の幼い娘に子守唄がわりに【長桑】の話をしたこともなかった。


「『伝播』それがあなたの【龍質】でしょう。それともう一つ。【龍人】になってから長桑の精の『抽出』が可能になったのでは?」


「『抽出』ですか。はい確かに。小麦粉を丸めたものに長桑の精を入れて、そのものを煮詰めたものより純度の高く飲みやすい丸薬を作ることができます。ただ、こればかりは他のものに説明してもできる事ではないので私だけができる秘術としています。」


「『抽出』と『伝播』か。【龍質】は【龍人】になるときの願望で決まると言われている。」


「確かにこの12年というもの、私にはそれしかなかったから。」


普通の人間が一生かけて成し遂げることができるかどうかということをやったという事実が自負となって胸中に改めて広がった。


「では、この『抽出』と『伝播』という力を使って、【龍質】そのものを他人に『移植』できるかもしれないとお考えですか?」


老神官はその通りというように深くゆっくりと頷いた。


「それでは早速試してみたいのですが、これまでの経験からして私自身のそれはできないように感じます。あなたの【ネクベト】の【龍質】は何ですか?」


「『毒』」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おばあちゃんと龍 2 @TAPETUMSHIMON

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ