第68話 魔法の国の物語
昔々、魔法の国がありました。
その国は、私達の世界から遠くて近いところにありました。
見えないようで見える場所です。
その魔法の国では、魔法を使うことが出来る人間と自然界と力を共有できる精霊がいました。
魔法を使う人間の額には、それぞれ異なった家紋があり、そこから魔法力を表す光が放たれていました。
光が強いほど魔法力は、高い。光が弱ければ、蔑まれる存在でした。
そんな魔法の国に、全く光を持たない美しい娘がいました。
その美しい娘は、魔法力が無いことで他人から蔑まれていましたが、家族など身近な人たちからは、とても愛されていました。
ある時、疫病が魔法の国の人々を苦しめました。
その外見のみならず心根の美しい娘は、持って生まれた知恵、前世の異世界での記憶を用いて皇太子と共に人々を救いました。
また、光りを持たず魔法力が無いと言われていたその娘ですが、病で苦しむ人々に触れると、何故だかその人々の苦痛は消えたのです。
その娘と皇太子は、共に遠征地で人々を救ううちに愛が芽生えました。
救われた人々は、光を持たないその娘を称賛し、いつしか聖女様と呼ぶようになりました。
光を持たない娘が聖女様と称賛されていることを知った皇帝は、ある時、嫉妬からその娘を殺そうとしました。
皇太子はその娘を庇い、皇帝の放った魔法によって命の灯が消えかけました。
ですが、その娘が皇太子に口づけをすると、皇太子は、死の淵から回復しました。
その光を持たない娘は、実は、遠い昔に精霊王の娘と人間との間に生まれた娘の魂を持っていたのです。転生を繰り返してもその魂には、精霊の力が宿っていました。
光を持たない美しいその娘は、魔法力を表す光を持っていなかったのではなく、全身を包む精霊の力によって抑え込まれていただけだったのです。
皇帝は、誤って実の息子である皇太子を殺めてしまうところだったのですが、それでも自身の考えや行いを省みることはせず、その娘を非難しました。
娘に命を救われた皇太子の眼には、皇帝に憑りついている邪鬼が見えました。
邪鬼は、人間の邪な気、邪気から生まれたもので、人間のみならず自然界をも穢す災いの種です。
皇帝は、自ら生みだした邪鬼によって魔法力を失いかけ、更に邪鬼に飲み込まれていったのです。
皇太子は、命を救われた際に娘から与えられた、自分の中にある精霊の力を魔法の矢に込め、皇帝に憑りついた邪鬼を浄化しました。
精霊の力によって邪鬼を払われた皇帝は、自らの非を認め聖女と呼ばれるその娘に謝罪し、皇帝の座を退くことにしました。
また、皇太子とその娘がお互いに愛し合っていることを知っていた皇帝は、二人が結ばれるようにその娘の家族にも働きかけました。
それでも、その娘は、皇太子を愛するが故に悩みました。光を持たない自分が魔法の国の皇太子の妃となるべきでないと考えたのです。
その娘の兄は、自分の妹が苦悩していることを知り、旅に連れ出しました。
その行先は、かって皇太子と共にその娘が赴いた遠征地だったのです。聖女と呼ばれるその娘の再訪を人々は喜んで迎えました。
その旅先でのこと。急に地面が揺れ落石に襲われました。揺れが収まり娘が目を開けると、自分を庇った侍女の額に大きな傷ができ、そこからどくどくと血が流れていました。
幼いころからずっと、いつも傍で娘を支えてくれていた侍女でした。
娘に精霊の力は、もうありません。
しかし、娘は、その侍女を助けたい一心で願いました。
すると、キラキラとした小さな光の粒が二人を包み込みました。娘の額の家紋からは癒しの力である紫色の光が眩いほどに放たれていたのです。
侍女の額の大きな傷は見る間に小さくなり消えていきました。
それまでは、強い精霊の力によって抑えられていた魔法力が開放されたのです。
もう、娘が愛しい人との婚姻を迷うことは、ありません。
多くの人たちからの祝福を受けながら二人は、結ばれました。
婚姻の儀の宴は、夜遅くまで続き、夜空には、大きな花火が次から次へと幾つも打ち上げられ、大きな歓声が響いていました。
夜空を染める花火を見ながら后となった娘は、前世の記憶や自身の魂、新皇帝である愛しい夫とのこれまでの出来事などに思いを馳せました。
そして、前世も異世界も今世での出来事も、そのすべてが今の自分に繋がっているのだと思いました。
その後、二人は、民の暮らしに心を砕き愛ある治世を行いました。
幸せの中で暮らすことが出来た人々は、二人のことを、いつしか『愛の皇帝と皇后』と呼ぶようになりました。
その愛のある治世は、二人の間に生まれた子供たちにも引き継がれ、その呼称は、『愛の時代』へと変わり、幸せな時代『愛の時代』は、永く永く続きました。
『愛の時代』の魔法の国は、遠くて近い場所。
見えないけれど見える場所。
もしかしたら、あなたのすぐ傍にあるのかもしれません。
【了】
ここまでお読みいただき、有難うございます。
カクヨムに登録して4年、このお話を書き始めて2年半が経ちました。
初めて完結に至った長編です。
幾度も筆が進まず休眠しましたが、此処まで辿り着くことが出来たのは、温かく見守ってくださった皆様のおかげです。
読んでくださる方がいる、応援や評価、コメント…とても幸せなことです。
このお話が10万字ちょっと、このお話の前段階の「精霊王の娘は人間を愛したもので。」が、8000字ほど。
アラ還の私が書く転生もの、此処までお付き合いくださり本当にありがとうございました。
転生したけど魔法が使えません 真堂 美木 (しんどう みき) @mamiobba7
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