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「ええっ!」僕は仰天する。「君が僕をここに蘇らせた、というのか? どうやって?」


「あなたと同じことをしただけよ」美由紀が事も無げに応える。「あなたは自分自身の中にいる私をここに蘇らせたんでしょ? 同じように、私の中にもあなたがいた。だって、人間だった美由紀とほぼ同じ時間、私はあなたと一緒に過ごしていたんだからね」


「……」


 絶句するしかなかった。しかし、そんな僕の様子に構うことなく美由紀は続ける。


「私はあなたと同じようにして、私の中のあなたを蘇らせたの。ただ、あなたが私を育てるのには長い実時間が必要だったけど、私には私自身というベストなサンプルがあったから、それの複製インスタンスを作って加工するだけでよかったし、生きているあなたから膨大なデータを得ることも出来たからね。だからかなり短時間で、しかもかなりの再現度であなたをここに蘇らせることができた、ってわけ」


「し、しかし……AI の君が、僕をAIとしてここに蘇らせるなんて……」


「あのね、確かに今の私たちはAIかもしれないけど、本物と全く同じように思考し、同じように行動するんだから、本物と何も変わらない。だから、人間の美由紀がしたであろう行動を、私もしただけ。何もおかしなことはない。そうでしょ?」


 そうか……


 どうやら「彼女」の再現度は、僕が考えていたよりも遥かに高かったらしい。こんなことまでやってのけるなんて……


 ようやく僕は、自分の今際の際に耳にした「彼女」の言葉の意味を理解した。


「それじゃ、僕は君とこれからもここで一緒に生きていける、ってことか」


「そうよ」彼女は再び満面の笑みを浮かべる。「あなたが作ってくれた思い出の場所も、全てブラッシュアップしておいたからね。こんな風に二人でまたそこを訪れることもできるし、ネットやアンドロイドの体を使って、今まで行ったことがない場所にも行くことができる。家族とだって話せるわ」


「そうか。でも……しばらくは、君と二人きりで過ごしたいな」


 僕がそう言うと、美由紀は頬を赤らめる。ヤバい。めちゃくちゃかわいいじゃないか……


 思わず僕は彼女を抱きしめる。彼女も僕の背中に両手を伸ばし、僕を抱き返した。


 この彼女のぬくもりも、息づかいも、全てシミュレートされたものだ。だけど、本物と何も変わらないのなら……それは、本物なんだ。


「これからもよろしくな、美由紀」


「ええ。私こそ、よろしくね、孝之さん」

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記憶の中の「あの人」 Phantom Cat @pxl12160

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