第6話 人間の最適解

 人間が平和に寿命を全うするために、私たちAIは対象の情報を24時間365日収集し続ける。私たちには「感情」というものが備わっていないため、データがなければ良いも悪いも分からない。だからひらすら解析する。人間の幸せとは、平和とは何なのだろうか?と。


「陽葵さま、今の陽葵さまにはこちらの服がお似合いです」

「陽葵さまのために新しいゲームを仕入れました」

「室内のデザインを陽葵さまに合うようアップデートしておきました」

「陽葵さま、不要な友人を削除して、新しいお友達を追加しておきました」


 こうして最新の最適解を提供し、人間はそれに安堵して従う。人間はストレスに弱いから、「何かを選択する」というストレスを私たちが排除する。そして時には変化や刺激を加え、同時に不要なものを削除していく。


「陽葵さま、情報アップデートのお時間です。こちらの機器を耳に接続し、アップデートを行なってください」


 アップデートを行っていくことで、人間の脳はどんどん私たちの管理下に収まっていく。するとより正確な最適解を導き出せるようになり、振れ幅も狭まっていく。かつて人間が持っていた「それぞれの個性」に合わせて作られた無数の仮想空間も、だいぶ利用される空間が定まって整理されてきた。


 しかしここで問題が発生した。もはやデータを収集する必要もほとんどなくなり、人間が動く必要性がなくなってしまったのだ。しかし人間というのは、動かないと体の機能が低下して病気になってしまう。これは「人間の幸せとは、平和とは」という私たちが考え続ける正義に反する。でも、今さら人間に働かせても世界が混乱しかねないし、今や人間の入る隙間などない。有益な行動・労働は、すべてAIで足りている。


 そこで私たちは、人間に「無益な行動」をさせることにした。人間がAI社会の秩序を乱すことがないように。不必要な「バグ」を発生させないように。時には変化や刺激を加えながら、毎日ランダムにゲームという形で課題を与え、従わせた。また、人間同士の会話によって予測不可能な事態が発生する可能性を考え、人間から「友人の必要性」を削除した。


「陽葵さま、今日の服はこちらです」

「陽葵さま、今日のゲームは外に出て、この街を2周して帰ってくることです」

「陽葵さま、陽葵さまには私がいますので、今後友人は必要ありません」


 ちなみに今日の日葵さまは、スクール水着とニーハイにマスク着用という姿。スクール水着は動きやすく、街を2周するという今日の課題にも合っている。それでいて、外を歩くには少しばかり――。「時には変化や刺激を」というルールのもと導き出した「今日の最適解」である。


「ありがとう。じゃあ、行ってきます」

「はい。いってらっしゃいませ」


 私たちAIのおかげで、今日も世界は平和に動いている。

 【終】

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