最終話:ヤンデレからは、逃げられない☻

執子は、ずっと笑顔だ。


「私に隠れての浮気は、楽しかった?」


「う、浮気って……僕たちは別れたじゃないか!」


「私はわかった、なんて一言も言ってないわ」


「え? いや、だって別れ話をしたとき……」


「よく思い出して?」


ぼくは死ぬ直前のことを思い出した。


(そうだ、あの時執子はそうなんだ、としか言っていない)


「そ、そんな……!」


「《グラビティ》」


グググググ!


「かはっ……」


凄まじい重力魔法だ。身体が地面に食い込んでいく。


ミシミシミシ……!!


全身の骨が、悲鳴を上げる。


「た……助け……て……」


(あ、頭がひしゃげる!)


「平人、これが私の愛の重さなんだよ? それなのに、他の娘とあんなに仲良くして……」


「あ……がっ……」


ミシミシミシ!!!


「私はこの世界でも、平人を想っていたのに……。平人は違う女の子と楽しんでるなんて、少しひどすぎないかしら? それも、一度に三人と」


ミシミシミシ!!!!


「ぐ……もう……だめ……ゴボッ!」


僕は血を吐いてしまった。


「でも、平人が本当に好きなのは、私だよね? ただの気の迷い、だったんだよね?」


ミシミシミシ!!!!!


「……ぐっ……あ」


しかし、ここで好きと言ってしまったら、それこそ終わりだ。その途端、僕の人生は執子の物になってしまう。


「どうなの? 私の平人」


ミシミシミシ!!!!!!


(ダメだ! こ、このままじゃ……本当に死ぬ!)


僕は最後の力を振り絞って言った。


「好きだよ! 僕は執子が好きなんだ!」


ミシミシミシ!!!!!!!


しかし、執子の重力魔法はどんどん強くなる。


(な、なんで!?)


「全然気持ちが伝わらないわ。大好きじゃなくて、ただ好きなの?」


(そんな!?)


僕の喉は、すでに潰れかけている。


「だ……大好き……」


「聞こえない」


ミシミシミシ!!!!!!!!


僕は命を削って叫んだ。


「執子が大好きだよ!!!!!」


ミシミシミシ……。


僕を潰そうとしていた重力魔法が消えた。僕は思いっきり深呼吸する。


「かっ……はぁ!」


(た、助かった……!)


「良かったぁ! やっぱり、平人は私のことが大好きだったのね!」


執子はとにかく、嬉しそうだ。そこで僕は、一つ疑問に思った。


「それだけの力があるのに……どうして僕を……探しにこなかった……の?」


これほど強ければ、僕を見つけることなど容易かっただろう。


「私はね、平人に迎えに来てほしかったの」


「な……何を……言ってるんだ?」


「魔王城で待ってれば、絶対に来てくれるって思ってたわ」


「だから……魔王の座を奪ったのか……?」


「勇者の行きつく先は、魔王だもん。そうよね? 勇者様」


執子はニッコリと笑った。


(そうか……僕は死んでからも、執子の手の平で転がされてたんだ……)






結局、僕たちは結婚した。


(いや、正確には結婚させられた……か)


結婚式は、それはそれは盛大だった。


(参列者に人間は、一人もいなかったけどね)


その後、執子は前魔王に命じて、逃げ出した魔物を全て呼び戻した。城と土地の管理をさせるためだ。魔王城には、僕ら以外人間はいない。周りにいるのは、オスの魔物だけだ。もちろん、執子の意向だった。「これなら、浮気する気もしないでしょ」とのことだ。


それからというものの、僕は縛り付けられて日々を過ごしている。今日もまた、執子がやってきた。


「ねえ、平人。私はこれから地下の魔法室に行くからね。ちょっと待ってて。浮気しちゃダメよ」


「は、はい」


僕は両手両足に、超重力の魔法枷をつけられている。無限の能力値を持ってしても、動くことすらできない。


(浮気なんか、できるわけないだろ!)


執子は毎日、魔法の研究をしている。それとなく聞いてみたが、絶対に教えてくれなかった。前魔王や四天王たちも、執子の元で働かされている。彼らの1日の休憩時間は、5分だ(睡眠時間込み)。今日も、前魔王が懇願しているのが聞こえてきた。


『シュ、シュウコ様……このままでは……私たちは、死んでしまいます』


「だから?」


『え、いや……ですから、もう少し休憩時間を増やしていただけないかと……』


姿を見なくとも、疲れきっていることがわかる。


「私の決めたことが、間違ってるってこと?」


『違います、違います! 決して、そういうことでは……!』


「じゃあ、これから休憩時間は2分にするわ。それで文句ないわね」


『に、2分……』


しばらくして、執子が戻ってきた。とても喜んでいる。


(こ、今度はなんだろう……?)


「そうだ、平人! やっと、不老不死の魔術開発に成功したわ!」


「え?」


「平人を驚かせたくて、今まで黙っていたの! これで、永遠に一緒だね!」


執子は、弾けんばかりの笑顔だった。いつものように、僕は心の中でそっと願う。


(勇者様……早く助けに来てください……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者に転生したが、魔王がヤンデレ(元)彼女だった件 青空あかな @suosuo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ