彩り豊かなつららの姫
長月瓦礫
彩り豊かなつららの姫
吹雪で雪が舞い上がり、視界が一瞬にして白に染まった。
両腕で顔を覆い、風が収まるのを待つ。
寒さは感じない。夢の中だからだろうか。
身体を膨らませたハリセンボンが回っている。
氷の針がきらきらと輝いており、まるで宝石を背負っているようだ。
雪が収まると、氷でできたトンネルが出現した。奥は暗く、先は見えない。
看板には上向きの矢印が描かれている。
後ろは雪にまみれ、戻れそうにない。
「先に行くしかないか」
ふかふかな雪道だが、トンネルまでほんの数歩しかない。歩幅を小さくして雪を楽しむ。
トンネルは一面氷で覆われていた。
天井からつららが垂れ下がり、先端から雫が垂れる。
垂れた雫は積み重なり、アイスクリームの雪だるまが生まれていた。
「繝倥う縺輔s縲√#繧√s」
雪だるまは頭を寄せ合って、聞き取れない言葉で会話していた。
バニラにチョコレートにイチゴ、様々な味がいた。
「縺ュ繧薙↑いに縺翫o繧峨↑いわ」
どう頑張っても聞き取れない。諦めて俺はトンネルを進んだ。
滑らないようにゆっくりと、地面を踏みしめながら歩く。
トンネルを抜けると、そこはアイスクリームの城だった。ドーム状のアイスがいくつも重なり、不思議な模様を描いていた。
焼き菓子でできた城門は歯応えがありそうだ。
ずっしりと構えていた。
両脇にコーンをかぶった雪だるまの兵士がいた。彼らもアイスクリームでできていた。
スプーンを片手に、丁寧にお辞儀する。
焼き菓子の城門が開くと、赤いじゅうたんがまっすぐ伸びていた。
この先に女王様がいる。彼女は俺を待っている。
夢の中だから、いつでも会える。
姿を変えて様々な表情を見せる。
ここは夢だ。訪れるたびに姿を変える。
ついに扉が開かれた。
部屋の中心は少し高くなっていて、玉座が置いてあった。
淡いグリーンのワンピースを着た千春が座っていた。茶色のリボンとあわさって、チョコミントアイスみたいだ。
ただ、椅子があまりにも大きすぎて、座っているように見えない。
段ボール箱の中に収まっている猫みたいだ。
「なに笑ってんのよ」
椅子から立ち上がり、大きな金色のスプーンで俺の頭を叩いた。
人を小馬鹿にしたような態度は一度も見たことがない。
夢だから、ありえないものを目にすることができる。
ハリセンボンは回っている。
体中をめぐる毒のようにぐるぐると回っている。
「チョコミント味、好きだったよな」
その魅力は最後まで理解できなかった。
チョコレートを組み合わせたところで、ミントの辛さは抑えられない。
誰が何のために生み出したのか、未だに分からない。
「何を思って作ったんだろうな、これ」
「さあ? なぜでしょうね?」
彼女は手のひらを上に向け、肩をすくめた。
「けど、猫缶を美味しいという横アリアーティストもいるわ。
人の好みなんて追求し始めたら止まらなくなるじゃない!」
その話を持ち出されたら、何も言えない。
彼らの味覚は常軌を逸している。比べ物にならないのは分かっているはずだ。
「チョコミント、今も好きか?」
「うん、今も好き」
袖がカップになり、チョコミントアイスが生まれた。
金のスプーンは小さくなり、手ごろな大きさになった。
笑顔を浮かべながら、アイスをほおばっていた。
千春の笑顔はだんだんぼやけていき、俺はついに目が覚めてしまった。
視界の端で凍りついたハリセンボンがまわっていた。朦朧とした脳内を嘲笑うようにまわっていた。
彩り豊かなつららの姫 長月瓦礫 @debrisbottle00
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