第5話 伯爵家の終焉

 お父様を強制引退に追い込んだコニーお兄様は、掌握した暗部の情報をもとに計画を立てておられました。

 内容は領民の安全の確保でした。

 いかに領民を安全に外に逃がすか……

 それは領都だけに留まらず、領内全ての町村の事もです。


 それがいかに無謀な作戦か、私が言うまでもありません。

 ですが、コニーお兄様はそれをしてのけようというのです。

 こればかりは神に祈るしか出来ない自分が恨めしい……


 暗部の情報をもとに算出した時間はあと3日。

 時間的余裕などもう残されてはおりませんでした。




「良いか皆!!今の僕には君たちの力が必要だ!!だから僕に力を貸してほしい!!出られる人間だけで良い!!この手紙を持って馬を飛ばしてくれ。そして近隣の町村の長を説得してほしい。頼む!!」


 お兄様は領都の中心部で頭を下げていました。

 この家はこの後没落が待っています。

 今さらこの頭に何の価値があるか分かりません。

 ですが私も同じく皆様に頭を下げました。


 一人、また一人とこの場を後にしていきました。

 そして残ったものは……

 全ての手紙を配り終えたターラントの姿でした。


 コニーお兄様の声が届いたのです。


 コニーお兄様は先んじて近隣の領主に手紙を早馬で送り出していました。

 我が領から出る難民の受け入れについてのお願いです。

 今回の件は王国側の責で始まった事。

 王国側も動くと確約をしていただけていました。

 そのあたりはターラントが動いておりましたので、間違いはないはずです。




「何とか間に合ったね……」

「さようでございますな。侵攻軍は今は二手に分かれこちらには4万の部隊が向かっております。」


 なんでこのようなことになったのか、私には未だに分かりません。 

 ただ、お父様が道を踏み外した事だけは分かります。

 そしてコニーお兄様がそのツケを精算していると。


「それじゃあ行こうか。父上と兄上もよろしいですね?」


 既に拘束を解かれたお父様とユースお兄様でしたが、事ここにきてやっと事態が飲み込めたようで、素直に指示に従っておいででした。

 お父様はずっと何かを呟いていました……


 全ての領民は、本日の朝には移動を開始しているようでした。

 そして本日昼にはこの領都に攻め入るでしょう。




「お母さま……大丈夫ですか?」

「私の事は心配いりませんよ。シャルロット、コーネリアスを頼みましたよ?」

「はい……」


 私たちは領都の見える丘の上に来ておりました。

 そこには先に脱出していた、お母様と御爺様、御婆様がすでに到着されていました。

 遅れて到着した私たちを出迎えてくれて、燃え行く領都を共に見つめていました。


「これで我がヴァーチュレスト家は終焉を迎えたと言う訳だな……。これがお前が選んだ道だ。なあ、カイエル。」

「私は……私は……。」


 御爺様の言葉にただ項垂れる事しか出来ないお父様を、お母様がそっと抱きしめていました。


「では御爺様、父上参りましょう。」


 こうして私たちは領地を離れ、王都の屋敷へと向かったのでした。


 王都へ向かう途中で立ち寄った街では、領民に出会う事が出来、御爺様もコニーお兄様も大変喜んでおいででした。

 自分が立てた計画が上手く行った事を安堵したようでした。


 ターラントの元には随時情報が集まっているようで、今現在の様子を聞くことが出来ました。


 どうやらリーサは殺されずに済んだようです。

 掲げられた首頭の中に、その姿が確認されなかったから……

 ですが私にもその先の結末は予想出来ます。

 耐えがたい屈辱が待っていると……


 帝国軍はライアード辺境伯領・ヴァーチュレスト伯爵領・グリアボネス子爵領の3領を制圧の後に、治安維持軍を残し撤退したようでした。

 焼き払われたのは領主館のみで、そのほかの建物家財には一切攻撃を仕掛けなかったと報告を受けました。


 ターラントが齎した情報通り、王国・帝国で既に話が済んでいたという事を雄弁に語っているようなものです。



 いくつかの街を経て、私たちはついに王都へと到着する事が出来ました。

 我が領で仕えてくださっていた騎士たちも、今は20名にまでその数を減らしております。

 その大半は王国騎士団の下位騎士として従事しています。

 使用人たちも数を減らし、王都に腰を据えた者もいるようです。


「コニーお兄様。これから先どうなるのでしょうか……」

「それは明日の謁見次第だろうね。お取り潰しも覚悟かな。何ともまあ、損な役回りになったものだよ。」


 そう言いながら苦笑いを浮かべるコニーお兄様は、どこか晴れ晴れとしたご様子でした。

 その重責を肩から降ろし、心安げる時間がすぐそこに見えているのかもしれません。




そして翌日……

私たちヴァーチュレスト家は、運命の日を迎えたのでした。

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