第4話 宣戦布告の後に……
「まずは事の発端だけど……この国の第1王子……次期国王が、ガッシュベル帝国のとある村を焼き払ったのが原因なんだ。」
「酷い……」
なぜそんなことを……
彼らがいったい何をしたというのですか?
「そうだね。でもその理由がもっと酷い。囲った女性が妊娠。隠すために村ごと焼いた。って話だからね。」
私は言葉を失いました。
かねてより良い噂は聞きませんでした。
ですがここまでとは思いもしませんでした。
「ではその報復戦争……にしてはおかしいですわ……。準備が良すぎますもの。」
「ここからはターラントからの方が詳しく聞けると思うよ。」
お兄様はターラントに目配せをすると、語り手をターラントへ譲りお茶を楽しんでおられました。
「まずは第1王子の件でガッシュベル帝国より内々に話が来たようです。そこで話し合いの結果、第1王子のガッシュベル帝国への婚姻および、領地明け渡しが決まったようです。」
まさか……
あぁ、なんという事なんでしょう……
「ですが、なぜライアード辺境伯家だったのですか?それが不思議でなりません。」
「お嬢様、ではなぜライアード家はこれほどまでの過剰戦力を集めていたのでしょう。」
なぜって……
なぜ?
もしかして先程コニーお兄様と話していた内容の事。
「辺境伯は国家転覆を目論んでおりました。正確にはライラック様がと言えば良いでしょうか。我がヴァーチュレス家にも出兵の要請が来ておりました。御屋形様は来月には出兵を決定するつもりでいらっしゃいました。むろんグリアボネス子爵家にも話はいっております。」
まさか……
そんなはずはない……
「グリアボネス家が要求したのはヴァナティー様への輿入れです。しかし正妻はお嬢様に決まっておりましたので、第2夫人という形ではありましたが。そこでお嬢様も昨年の誕生日の際に引き合わせがあったのです。」
やはりそうでしたか……
では恐らく私の輿入れも……
「そこで一計を案じた王国側が、第1王子の輿入れと同時に辺境伯家の取り潰しにする口実を得たのです。あとは知っての通りの結末となりました。」
つまりリーサは欲が出たのですね。
私の下にいるのが嫌で、正妻の座を。
ですがそれが今回裏目に出てしまったと……
「それでは次の目標は……」
「そうだね、この領とグリアボネス領が生贄になる番だ。」
「お父様は……っと、跳ね除けたばかりですね。」
なんと愚かしい事か……
実の父親ながら嘆かわしい。
そのような事でこんな大惨事を引き起こしたのですか。
「そもそも御屋形様は、このヴァーチュレスト家を継げるはずはなかったのです。本来は第2子であるガンラット様が次期当主となるはずでございました。ですが次期伯爵になることに拘った御屋形様は、一つの過ちを犯しました。辺境伯の力を借りて当主の座に落ち着いたのです。もちろんガンラッド様を亡き者にして……」
「そんな……お父様が?」
私はいろいろな意味でショックを受けました。
ですが腑に落ちる点もあります。
どうしてとても優秀なコニーお兄様を冷遇するのかを。
どうしてユースお兄様を溺愛するのかも……
「シャル。そう言う訳だ。このヴァーチュレスト家は呪われているんだ。だからこそ、ここで幕を下ろす事になる。だけどただやられるだけで終わる事は出来ない。そうでないと犠牲になるのは領民たちだからね。」
コニーお兄様……
私には出来る事が有りませんでした。
「と言う訳でこれから数日はとても騒がしくなるから、出来るだけここにいてほしい。」
「お父様には……。いえ、なんでもありませんわ。コニーお兄様、無理だけはなさらないでくださいね。」
それからのコニーお兄様の行動は迅速な物でした。
お父様が全く話にならないと分かると、領主館内をその日のうちに制圧して見せたのです。
既にほとんどのものは、コニーお兄様に継いでほしいと願っていた様です。
「コーネリアス。お前何をしているのか分かっているのか?」
「父上。分かっていてやっておりますよ。」
お父様とユースお兄様を拘束する事に成功したコニーお兄様は、縛られて床に座らされている2人を見下ろしていました。
それは既に勝敗が決した戦いのようでした。
「コーネリアス!!どうして僕のスペアのお前が偉そうにしているんだ!!次期当主の僕にふざけた真似をして!!おい誰かこいつを縛って牢屋へ連れていけ!!」
ユースお兄様も怒声もむなしく、誰一人として動こうとはしません。
むしろ、その言葉に嫌気がさしたのか、皆から殺気すら漏れる始末。
これがコニーお兄様とユースお兄様の人徳の違いなのでしょう。
「もう間もなくです。この地は帝国の領地となるでしょう。ヴァーチュレスト伯爵家の終焉です。」
「バ、バカな!!王都へは応援要請を行った。近いうちに王国の騎士団が来るはずだ!!それさえ間に合えば我々の勝ちだ!!それを何を血迷ったことを!!恥を知れ恥を!!」
お父様はコニーお兄様の言葉を信じる事はありせんでした。
ですが、その答えを知っている私には虚しく聞こえてしまいました。
そう、この生贄の地に援軍なんて来るはずもないのですから……
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