第3話 火急の知らせ

「お食事中申し訳ございません。コーネリアス様……こちらを。」


 ターラントは私にではなく、コニーお兄様に何かを手渡していました。

 それは鳥便を使って運ばれた手紙に見えました。


「ターラント、これは事実かい?」

「さようでございます。これまでの事と合わせれば、間違いないかと……」


 いったい二人は、何の話をしているのでしょうか?

 二人の顔付きがいつもに増して真剣味を帯びて見えました。


「この事を父上には?」

「はい、お伝えしましたところ、笑って一蹴されました。あの辺境伯領が落ちるなどあり得ないと……」


 私はその言葉を聞いて、血の気が引く思いでした。

 辺境伯領……ライアード辺境伯領ではないのでしょうか?


「わかった。私からも一度父上に話をしよう。ごめんねシャル。食事はここまでのようだ。」


 コニーお兄様はそう言うと、足早にお父様の書斎へ向かっていかれました。

 ですが、いったい何が起こっているというのでしょうか?


「ターラント……」

「お嬢様。お話はお部屋でさせてください。」


 ターラントはそれ以上話すつもりが無い事が見て取れましたので、私も食事を終えて自室へ戻ることといたしました。




「ではターラント。聞かせてもらえますか?」

「お嬢様、気を確かにお持ちください。」


 自室に戻った私は、ターラントから話を聞くことにしました。

 しかし、それほどまでのお話なのでしょうか。

 私は気を強く持ち、一つ頷いて話を促しました。


「では、まず現状の説明を……。我がイシュバルド王国は、隣国のガッシュベル帝国の侵略を受けております。昨日12時をもって宣戦布告がなされました。」


 戦争の文字が私の頭をよぎりました。

 ガッシュベル帝国はライアード辺境伯領の隣……つまりはそういう事なのでしょうか。


「ターラント、続きを。」

「はい。敵兵力は先遣2万。本体6万。合わせて8万でした。対してライアード辺境伯が集められた戦力は、即応部隊の5千と民兵千の合わせて6千。辺境警備隊が1万の計1万6千。敵うはずもございませんでした。」


 兵力だけで5倍近い差が出来てしまっておりました……

 では辺境伯は……


「ご懸念の通り、ライアード辺境伯は領主館にて拘束の後、処刑が断行されました。ご子息及びご家族もまた……その首は今も領主館前に晒されております……。」


 リーサ……ヴァナティー様……


 だけどどこか少しだけほっとしてしまっていた自分がおりました。

 そんな自分が私は許せません……

 友の……友の死を悼むわけでもなく安堵にかられるなど。


 ですが、なぜ今になって帝国は宣戦布告などしたのでしょうか。

 それが不思議でなりませんでした。

 辺境伯といえど辺境警備が基本でした。

 既に帝国とは話が付き50年は戦争が無かったと聞き及んでおりました。

 しかしここにきて宣戦布告……

 何かあったとしか思えませんわ……


コンコンコン


「はい?」

「すまないシャル。ターラントはいるかい?」


 いらっしゃったのはコニーお兄様でした。

 私はターラントに目配せすると、ターラントが入り口のドアを開けてくれました。


「遅くにすまないね。ターラントに至急の用事があったものでさ。」


 そうコニーお兄様は言うと、ターラントに向き直り真剣な面持ちで話を始めました。


「ターラント、君の言ったとおりになったよ。」

「さようでございましたか……」


 二人の間ではほとんど話し合いは終わっているようでした。

 むしろ最終確認をされている。

 そう思えてなりませんでした。


「つまり今回の電撃作戦は王国側も知っていたって事なんだね?」

「さようでございますな。ライアード家が集めた兵力はあまりにも多すぎました。特に辺境警備隊など今は3千もあればことが足りますゆえ。おそらく国家転覆を狙っていたのでしょう。」


 え?いったい何を話しているのですか?

 私は全く聞かされていなかった話です。


「すまないシャル。今回の件はある程度は王国と帝国の取引でもあったんだ。僕もターラントから知らされた手紙で初めて知ったんだけどね。」

「ターラント、どういうことですの?」

「申し訳ございません、お嬢様。この事は漏らす訳にはゆかなかったのです。」


 そう言うとターラントは頭を下げて謝意を表しました。

 私も驚きはしましたが、それだけでした。


「シャル、ごめんよ。ターラントは元は国王付きの暗部の人間だ。御爺様が陛下と懇意にさせていただいたおかげで、退役したターラントをうちに引き抜いたらしいんだ。それでターラントには引き続きうちで暗部も兼ねてもらっていたってわけだよ。」


 それでターラントはあれだけの身のこなしをできるのですね。

 ですが、今回の件……

 ともすれば私が命を落としていたことになるのでは?

 そう思わずにはいられませんでした。


「ですがお兄様。なぜこのような事態になったのでしょうか?」

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