第2話 裏切りのリーサ

「お嬢様……。何かお食べにならなくては体に障ります。」


 婚約披露宴から数日が経ち、私はヴァーチュレスト家の屋敷に戻ってまいりました。

 屋敷に戻るや否や、お父様から自室での謹慎を言い渡されました。

 私が気を失っている間に、お父様はライラック様より事情の説明を受け、頭を下げ婚約の破棄を正式に受け入れたそうです。


「ターラント……。いえ、今は何も食べれそうにありませんわ……」


 この話はターラントから聞いた話ですが……




 リーサ……


 まさかリーサが私を陥れるとは思いもしませんでした。


 リーサ・フォン・グリアボネスとは、まだ幼いころからの付き合いでした。

 彼女の実家はグリアボネス子爵家で、我がヴァーチュレスト伯爵家の寄子の一つでした。

 私はリーサが大好きで、リーサと共にいられることを神に感謝していたくらいですから。

 大きくなるにつれてリーサはかわいらしい女性になっていきました。

 背はあまり伸びませんでしたが、その容姿はとても女性らしく、誰からも愛される愛らしい女性です。

 私とは正反対でしたわね……


 そんなリーサだからこそ、秘密裏に伝えたのです。

 私の婚約のを……

 リーサもまた私の婚約を自分の事のように喜んでくれました。


 ですが結果はこうなってしまいました。


 リーサはヴァナティー様の婚約者としてライアード家に移り住んだようです。

 でもなぜ、リーサが私を貶めるようなことを……

 それが分かりませんでした。



 それから一週間も経たないくらいでしょうか、ターラントが一通の報告書を私に手渡してきたのです。


「お嬢様。これはあくまでも私の一存で行った事。どんな責も受けます故、どうか御目通しください。」


 ターラントの報告書には信じがたい事が書かれていました。

 私はその報告書を嘘だと言って投げつけたくなりました。

 淑女としてあるまじき行為であると分かっています……

 ですが……

 ですがあまりにもひどい内容だったのです。


 リーサ……

 あなたはなんて人なの……




 報告書には、リーサの行っていた数々の悪行が列挙されていました。


 しかも私の名を使い、私の名のもとに行っていたのです。


 同じ学び舎で学ぶ仲間というべき学友に、陰湿ないじめなど……

 しかもその方は私を友と最初に呼んで下さった方です。

 ここ最近のご様子が変でしたので、何度か声をかけていたのですが、距離を置かれていました。

 他にも私を友と呼んでいた方々が、徐々に距離を置くようになったのを不思議に感じていました。

 しかし、リーサがそのたびに慰めてくれたので、なんとかこれまで頑張って来れたのです。

 ですが、その原因がリーサだったなんて……


 そして最後に記載された内容に私は気を失いかけました。


 昨年の私の誕生会の出来事が記載されていたのです。

 そこにはライアード辺境伯家の名代としてヴァナティー様がいらっしゃいました。

 その時も楽しく過ごさせていただいたのですが……

 その裏でリーサと逢瀬を……




 私はその報告書をそっとターラントに手渡しました。


「ターラント……燃やしてください。」


 ターラントは報告書を受け取ると、静かに部屋を出ていきました。

 自室に一人残された私に去来するはただただ悲しみばかりでした。

 この一年、私はただの道化でしかなかったのですから……



 それからの日々は地獄の様な毎日でした。


 私の軟禁は屋敷で済んでいたのですが、食事のたびにお父様と次期当主であるユースレスお兄様から責め立てられていたのです。


「なんてことをしてくれたんだ!!お前のせいでライアード辺境伯より叱責を受けたではないか!!」


 お父様は事実確認するつもりもないご様子でした。

 ただただ私を責め立てるだけ責め立て、満足すると自室へ戻りライアード家への貢物の準備を進めていたのです。

 ユースレスお兄様も同様に私を責め立てました。


「本当に困った妹だ……。いいか、僕とヴァナティー様は友人関係にあったんだぞ?それをお前のせいで台無しになったんだ。分かるか?長い年月かけて作り上げた信頼関係が一瞬にして瓦解したんだ……。全く使えない道具だ!!」


 ユースレスお兄様も早々に席を立ち、自室に戻られたご様子。

 いったい私が何をしたというのですか……

 そんな私をいつも慰めてくれるのはもう一人の兄、コニーお兄様でした。


「父上とユース兄上には困ったものだ。シャルがそんな事するはずがないのに。シャル、気にするな。私はいつもシャルの味方だから。」


 コニーお兄様……コーネリアスお兄様は本当に素晴らしい方です。

 ユースレスお兄様のスペアと言われても腐らずに、ご自身を高める努力を怠っておりませんもの。

 社交界でもその容姿のおかげで、引く手数多と聞き及んでおります。

 それでも自分は次男だからと、全てお断りになられているとか。

 そんなコニーお兄様が不憫でなりません。


 コニーお兄様と食事を続けていると、ターラントが慌てて食堂へ入ってきたのでした。

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