婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓

第一話 幸せの門出からの婚約破棄

「シャルロット!!君にはほとほと愛想が尽きた!!今日をもって婚約を破棄させてもらう!!今すぐここを去り給え!!」


 私シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは、謂れもない咎にて今まさに婚約を破棄されてしまいました。

 どうしてこうなったのかはわかりません。

 ですが……

 あなたでしたの?リーサ……


 そして私は屋敷に軟禁される事となったのです。








「シャルロットお嬢様。とてもお美しゅうございます。」

「ありがとう、ターラント。あなたとももうすぐお別れなのですね。」


 私は今日を以って、我がヴァーチュレスト伯爵家から正式に嫁ぐ事となります。

 今日は隣領のライアード辺境伯家次期当主のヴァナティー様と、婚約披露宴が行われるのです。

 結婚そのものはヴァナティー様の家督相続に合わせて行われるのですが、その前から共に過ごそうとヴァナティー様よりお言葉をいただき、ライアード家に行く事となったのです。


「シャルロット様。私ターラント・エンヴィーは、お嬢様にお仕え出来て本当に幸せでございました。」

「ターラント……。私もです。ターラントが居てくれて本当に良かった。礼を申し上げます。」


コンコンコン


 そんなやり取りを終わらせるかのように、ノックの音が聞こえてきました。


「はい、どうぞ。」

「失礼いたします。シャルロッテ様、お時間ですのでこちらへどうぞ。」


 ライアード家の執事の方でした。

 私はターラントに別れを告げて、披露宴会場へと向かいました。




 披露宴会場にはたくさんのお客様が、私共の門出を祝福にいらしていただけているようでした。

 その中には幼馴染のリーサの姿もありました。

 私はリーサに駆け寄ると、リーサも私に気付いたようで少しだけお話が出来ました。

 リーサも祝福を述べてくれて、私はとても良き日になると確信したのです。


 そしてついに主役のヴァナティー様が、お父上のライラック・フォン・ライアード辺境伯様といらっしゃいました。


 いつも以上に煌びやかな装いで、ヴァナティー様はご満悦のご様子でした。


「あぁ~。この度は我が不詳の息子。ヴァナティー・フォン・ライアードの婚約披露パーティーにお集まりいただき誠に感謝いたします。ライアードには来年の25歳の誕生日をもって家督を譲るものとします。」


 ライラック様の言葉に、会場中がどよめきに包まれました。

 それは、若くしてヴァナティー様が辺境伯となる事が発表されたからです。

 これから私は、辺境伯の正妻として恥ずかしくない生き方をしなくてはと、強く誓ったのでした。


「ヴァナティー・フォン・ライアードです。父上からのお言葉通り、この辺境伯領を守り、育て、そして飛躍させる。それが私の願いであり、目標です。そしてここに、私の伴侶となる女性を紹介したいと思います。シャルロット、こちらに。」


 ついにお呼びがかかりました。

 私は一歩、一歩と踏みしめ、ヴァーテュレスト家へ別れを告げる思いで、歩みを進めていました。


「シャルロット。いや、シャルロット・フォン・ヴァーチュレスト。君には本当に失望した……。我がライアード家の名を使い、やりたい放題だったそうではないか……。そんな者がライアード家にふさわしいと思うか?私は思わない。」


 私は意味が解りませんでした。

 これまで一度たりともライアード家の威信など借りた事は有りません。

 

「ヴァナティー様。私には何の事か全くわかりません。なぜそのような事をおっしゃるのです?」


 私は努めて平静を装って、ヴァナティー様に問いかけたのです。

 しかし返って来た言葉は、あまりにも理不尽な物でした。


「シャルロット!!君にはほとほと愛想が尽きた!!今日をもって婚約を破棄させてもらう!!今すぐここを去り給え!!」


 私の足元がガラガラと崩れ落ちる様でした。

 立ってもいられず、倒れかけたところにターラントがそっと支えてくれたので、何とかこれ以上の恥をかかずに済みました。

 そして私は、クスクスと嘲笑が聞こえる中、控室へと戻ったのでした。


 ただ、会場を後にする間際聞こえてきた話に、私はさらに追い打ちをかけられました。


「この度は誠に申し訳ありません。せっかくの祝いの席が台無しになってしまいました。しかしご安心ください。私の伴侶は既に決まっております。おいでリーサ……」


 リーサ……まさか……。

 そして私の意識はそこで途切れてしまったようです。

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