第3話 さようなら相原祐介


「ところでさ、なぜ今になって告ろうと思ったのか教えてくれないかな」


 ついに来たか。この質問は間違いなく来ると思ってたけど、できれば来ない事を祈ってた質問だ。


 なぜなら絶対に本当の事は言えないからだ。病気を知られてはならない。上手く嘘をつかなければならない。決してバレないように。


 しかも相手は人の心が読めると思えるくらい鋭い裕美だ。これは難しいぞ。


「20年間も音沙汰なしだったのに、突然こうするにはよっぽどの事があるんでしょ。遠慮しないで言って」


 僕は事前に用意して、徹底的に脳内シミュレーションしたセリフを話し始めた。今までずっと等身大で接してきた裕美相手にこんな事するのは初めてだ。


 一世一代の大芝居、上手くいってくれ。


「それなんだけど、別に特別な事情がある訳じゃないんだ。強いて言えば、少し前に死にそうな目にあってさ、歩いている時に車に轢かれそうになったんだ」

「それで?」


「もしかしたら僕は明日、本当に事故で死ぬかもしれない。だったら生きているうちに、やりたい事をやらなきゃ後悔するかなって思った」


 これなら事実に近い。全くの出鱈目じゃないから大丈夫だろう。


「本当にそれだけなの?」

「あとは、君との事に一区切りつけた方がいいと思ったんだ」

「どういう意味?」


「君よりも魅力的な女の子とは、その後一人も会えなかった。このままじゃ前に進めないんだ。そろそろ前に進みたくて」


 本当はもう前に進むのなんか絶対無理だ。でもこれはけっこうスムーズに口から出てきた。それは前に裕美の家の近くで偶然の出会いを期待してぶらついたときに、出会えてたら言おうと思ってたセリフだから。


「ふーん。変なの」

「それだけだよ」

「わかった。信じるよ」


「祐介、まだまだ話したい事いっぱいあるけど、このあたりでサヨナラしよう」

「えー? お願いだからもう少しだけ付き合ってよ。最後なんだから」

「私だって本当はまだ一緒にいたい。でもダメ。だってこれ以上祐介と一緒にいたらまた好きになっちゃいそうだから。ごめんなさい、それは出来ないの」


「わかった。僕も同じ気持ちだよ。残念だけどサヨナラだね」

 本当はこのとき僕は、とっくに再び裕美の事を好きになってたんだ。「好きだった」じゃなくて「目の前にいる今の君が好き」。過去形なんかじゃない。現在進行形だ。


「じゃあね。バイバイ!」

「ああ、裕美、絶対幸せになれよ。不幸になったら許さないからな!」

「ありがとね」


 僕は一度も振り返ることなくその場を後にした。本当は振り返って裕美の顔を、その姿をこの目に焼き付けておきたかった。でも……


 絶対にそれは出来ない。なぜなら次から次へと大粒の涙が溢れてきて止まらなかったから。


 裕美の前で泣いた事だってあった。全然カッコつけてこなかったから。でもせめて最後くらいカッコつけさせてくれ。


 今度こそ本当にサヨナラだ。今まで本当にありがとう。裕美。 

 僕は家に帰ると、自分が死んだ後に裕美に読んでもらうための手紙を書いた。

 母に、死んだ後に裕美に渡してもらおう。


「裕美へ

君がこの手紙を読んでいるという事は、僕はもうこの世にいないんだね。

この前会ったときは本当に楽しかった。遅すぎる告白を真剣に聞いてくれて本当にありがとう。


でも僕は、君に嘘をついた。

なぜ今になって告白したのか聞かれて、事故で死にそうになった話をしたでしょ。

あれは嘘だよ。本当は余命宣告を受けてたから。あの時点で3か月の命だった。


末期の膵臓癌だ。癌の王様なんて言われてる。まず助からない。

こんな事を伝えたら君と昔の思い出話が出来なくなるから、どうしても知られたくなかったんだ。


あと、あの日君に言えなかった事をもう一つ伝えたい。

それはあの時『君のことが好きだった』って過去形で話したけど、実は『目の前にいる今の君が好き』になってた。


だから、僕は君に『好きだから好きと言えなかった』のは20年前だけじゃないんだ。今回もまた言えなかった。2回目だったんだよ。


1回目はどうしても20年前の、君との『友達以上恋人未満』の関係を失いたくなくて言えなかった。


2回目である今回は、君に自分の人生、自分の幸せを生きて欲しかったから。

死にゆく僕にはそれを邪魔することは出来ない。本当は僕が裕美の事を幸せにしたかったけど、それは不可能だから。


どうか、こんな男がいたって事だけは決して忘れないで欲しい。それだけでいい。

どうかお幸せに。そしてありがとう。」



 もうこれで何も思い残す事はない。短かったけれど、それなりにいい人生だったよ。さようなら裕美。さようなら大切な家族、仲間達。そしてさようなら相原祐介。




◇◇◇◇◇◇



「好きだから、好きと言えなかった君へ~僕は再び「好きだ」と言えない恋をする」を読んでいただきありがとうございました。


 この小説は私が初めて作った作品です。現実の私とはかなり違う祐介君は妄想全開で書きましたが(ごくわずか実話も含まれています)、やはり無理が出たかもしれません。智也くんは実際の私に限りなく近いので、わりとスムーズに楽しく書き進められました。でも、本来の私はけっこう恥ずかしがり屋の草食系です。性欲が強いだけで。


 もし裕美のあざと可愛さに惹かれたり、祐介の不器用さに「しょうがないな~」なんて感じたら、ぜひ★評価や♡評価とフォローをお願いします。



 よろしければ、私の新作の長編小説「妻の代わりに僕が赤ちゃん産みますっっ!! ~妊娠中の妻と旦那の体が入れ替わってしまったら?  例え命を落としても、この人の子を産みたい」もお読みいただけると嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/works/16816927860596649713


 もう一つの長編小説「ひとり遊びの華と罠~俺がセックス出来なくなった甘く切ない理由」もおすすめです。

https://kakuyomu.jp/works/16816700429286397392

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

好きだから、好きと言えなかった君へ~僕は再び「好きだ」と言えない恋をする 北島 悠 @kitazima

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ