第2話 あざと可愛くてなにが悪いの?

 裕美は、僕がいかに鈍感なのかについて色々な思い出話を始めた。


「私さ……ずっと好き好きオーラ全開で出しまくってたのに、祐介ったらちっとも気づいてくれなかったんだもん」


「そんな事ないよ。好かれてる確信に近いものはあったんだ。でも確信に近いじゃだめで、100%絶対上手くいくくらいでないと怖くて告白出来なかった。それくらい好きだったんだ」


「祐介、初めて会った日の事覚えてる?」

「一生忘れられないよ」

「助手席は絶対美貴に譲りたくなかった。もうあの時点でかなり好きだったんだよ」

「そうだったんだ」



「渋谷に買い物に行った時の事は?」

「ごめん、何かあったっけ?」

「もう! やっぱり鈍感なんだから」


 裕美は僕の頭をちょっと小突いてから話を続けた。


「あの時さ、私『疲れちゃったな~』って言ったでしょ」

「あー思い出した。それで早めに帰ったんだよね」

「あれ言葉どおりとらないでよ。本音はね、(あなたともっとずっといっしょにいたい、どこかで休みたい)だよ。女の子にそんな事言わせないで」


「そんなの分かる訳ないって。僕にはテレパシーなんてないし」

「あーあ。なんでこんな鈍感男好きになっちゃったんだろう」

「裕美にそんなあざと可愛いい面があったなんて知らなかったよ」

「あの頃もしインスタがあったら、きっと山のような匂わせ投稿してたかもね」



「ディズニーランド行ったよね」

「ああ。あの頃はまだアトラクションも今程充実してなかったけど、すごく楽しかった」


 忘れられない思い出だ。


「特にホーンテッドマンションで君に抱きつかれた事は絶対に忘れられないよ。意外と怖がり屋なんだって。今だから言うけど、(わ、胸でかっ)なんて思った」

「もう~エッチ! 私も今だから言うけど、あれわざとだから」

「えっ!」

「私おばけとか全然怖くないから」


 そう言えば、どう考えてもおばけを怖がるようなキャラじゃないよな。


 

 僕は恋敵ライバルの東出茂樹の話を始めた。彼もマミーの後輩だ。


「100%確信出来なかったのは、やっぱり東出の存在があったからかな」


 彼はしょっちゅう裕美にちょっかいを出していた。明らかに裕美に惚れてる。

 あまりイケメンじゃないし、きっと僕の方が好かれてるはず。そう思いたかったけど、思えなくなるような僕にとっては重大事件(?)があったんだ。


「いつだったか一緒に食事した後に、2人で東出んちに行った事があったでしょ。結局彼は留守で会えなかったけど」

「そんな事もあったね」


「それでさー、こう思った訳。(えーっ! 裕美なんで東出のマンションの場所知ってるの? もしかして遊びに行った事があるのか……いやもうしょっちゅう行ってるかも……これは手ごわい恋のライバル登場かー)なんてね」


「違うんだなあこれが。東出さんの家にいったのはあの時が初めてで、それっきりだよ。だから上がった事は一度もないし」

「なぜ場所知ってたの?」

「たまたま帰り道でばったり会った時に教えてもらったの。別に知りたくもなかったのに」


 そして何故2人で行こうとしたのかを教えてくれた。


「東出さんから好かれてる事は分かってたよ。はっきり言って迷惑だったけど。でも先輩だから露骨に嫌な顔は出来ないし」

「だからね、あの時は彼に諦めてもらうために、祐介と仲良くしてる所を見せつけたくて行ったんだよ」


 そうだったのか。


「だって私が愛想良くしてるのをいい事に、全然諦めてくれないから。凄くしつこくて困ってたの」



「極めつけが祐介のマンションに遊びに行った時」

「もしかして……これは何となく分かるよ。でもあの時は本気で心配してたんだよ」


 裕美がマンションに遊びに来た時、腹痛を訴えたんだ。さすがに奥手の僕でもこれは雑誌の記事か何かで読んで「遠回しに誘ってる」って事は知ってた。


「お腹が痛いなんて嘘に決まってるじゃん。どうして分かんないかな」

「やっぱりそうか。でもどうしたらいいかわからなかった」

「バーカ。でもこれでますます好きになっちゃったんだよね」


 恥しながらこの時、僕はまだ童貞どころか、ファーストキスさえ未経験だったのだ。


「だからね、もうこの鈍感男には直球でこっちから告るっきゃないかなって。それか、またマンションに遊びに行って、逆に押し倒すか(笑)」


 裕美そんな事考えてたんだ。今更だけどなんかすごく嬉しいな。


「ちょうど覚悟を決めて告ろうと思ったすぐ後だよ。祐介が佳奈さんと付き合い始めたのは」


 何ていう間の悪さだろう。神様、あなたはなぜそんなに残酷なんですか?


「祐介と佳奈さんが付き合ってるって知った日、私悲しくて一晩中泣いたんだからね。もう涙が枯れて出なくなるかと思うくらい泣いた。どうしてもっと早く告らなかったんだろうって、凄く後悔した」

「ごめん」


「涙が枯れちゃったから、次の日は冷静に祐介と話せたんだよ」

「そうだったんだ」

「2月頭だったでしょ。ちょうどバレンタインデー直前で、手作りチョコレートも準備してた。『義理じゃないよ』っていうメッセージと一緒に渡そうと思ってた。それをきっかけに告れたらいいなって」


 うわ~裕美の手作りチョコかあ。絶対欲しかったな。きっともったいなくて食べられなかっただろうけど。


 そう言えば、当り前だけど裕美から2月14日に義理チョコすらもらえなくて、やっぱりダメだったんだなって落胆したんだっけ。


「そんなこだわりで、佳奈さんとはタッチの差で先越されちゃった」

 本当だ。佳奈は間違いなく僕と裕美の関係に気付いてたから。


「他の人が相手なら、きっとどんな事をしても奪いに行ってたと思う。でもあの佳奈さんじゃ勝ち目はないからもう戦意喪失」

「本当にごめん」


「綺麗なだけじゃなくて、バレンタインの力を借りずに、あと少しのタイミングで告れるなんて凄すぎて」

「実は君の圧勝だったんだよ。間違いなく」

「噓っぽいなあ、まーいいか」



「佳奈が何故僕の事を好きになってくれたのか良くわからないんだよね。未だに世界7不思議の一つだ」

「私……何となく分かるような気がする」

「えっ?」


「祐介ってさ、佳奈さんの事を全然ちやほやしなかったじゃない。きっとそれが新鮮だったんだと思う」

「そういえばそうだなあ」


「そんなの、マミーでは祐介だけだよ。佳奈さんくらい美人だったら、男の人にちやほやされるのが当り前の日常みたいになってると思うんだよね」

 確かに。店長なんて妻子もいて佳奈との年の差が孫くらいあるのに、露骨にエコヒイキしてたし。他の女性には塩対応でも、佳奈にだけ妙に愛想良かった奴なんて山のようにいた。


「あれ……? でも東出は?」

「彼はタイプじゃないんでしょ」


「そうか。恋愛マニュアルとか雑誌の恋愛記事でさ、良くモテる人の口説き方みたいな事が書いてあって、わざと冷たくするのがいいんだって。そんなの嘘だろって馬鹿にしてたけど、本当だったんだな」


「でも意図的に冷たくしたってすぐ見透かされるよ。祐介の場合は無意識だったからだよ。本当に他の女の子とちっとも変わらない対応してたもん」


 僕の場合、佳奈は初対面でもう口説くのは不可能だと思ってたからな。更に裕美に会ってからは裕美に夢中だったし。


「やっぱ裕美はスゲーよ。なんでもお見通しって感じだ。おみそれしました!」

「どーだまいったか。絶対悪用厳禁だぞ。職場のアイドルを口説くのに使うなよっ!」

「使うかよっ、バーカ!」


◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。


 次の第3話はいよいよ最終回。いったいどうなるのでしょうか? お楽しみに。

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