赤いきつねと緑のたぬき大戦。
石川タプナード雨郎
第1話 追いたぬき
ごくごく近い未来のお話。
私は大学一年生のしがない男だが、週二で夜間警備員のアルバイトをしていて
ワンルームのアパートで一人暮らしだ。今日はバイトと大学が休みである。
午前中は睡眠に費やし、目覚めたのは13時過ぎだった。
腹は減っているが水分だけを取り食事は19時までお預けと今日は予め決めていた。
そして今座っているこたつのテーブルの上には台所から移しておいた給湯ポットと、お気に入りのカップメン、赤いきつねが一つ、緑のたぬきが二つ置いてある。
昨日レンタルしておいた映画などを見ながらダラダラと時を過ごし候。
ようやく時刻は19時。これからこのカップメンを食べようと思うのだが、
何故三つもあるかというと、かねてから考えていた事を実行に移す為である。
まあ説明はさておき、まず赤いきつねに湯を注ぐ。そして待つ。
ひと昔前の赤いきつねなら時計を見るなりスマホのタイマー機能を使うなどしていただろう。だが時代は流れ、
技術の進歩により蓋の所に熱に反応して食べごろを目視確認出来る
サーモシールが付いているのだ!
そうこうしている内にサーモシールが朱に染まり、
割り箸を割っていざ実食!
と思ったら割り箸の割れ方がいびつで長さが均等では無い。
木の節に当たった割り箸だった。
こんなこともあろうかと予備を準備している。
抜かりなどあろう筈も無い。
二つ目は綺麗に割れて実食!と、おっとっと。
そういえば江戸っ子で粋(いき)を大事にする亡くなられた俳優さんが
昔テレビでいってた事を思い出した。
うどん、そばは喉越しでしょ!挿入は生でしょ!と。
まあ後半の部分はさておき、
なるほど!故人を偲ぶ思いでそれに習い噛まずに麺を一気に啜り上げた。
黄金のだしを身に纏い、うねりを帯びた太い麺が滑らかに喉を通過して行く。
旨いっ。
麺が持つ熱さは多少慣れが必要だが喉を滑らかに通過する快感を
この歳で初めて体感するのであった。
きつねはまだ泳がせておく。
太麺を調子よく八割ほど平らげたところで、緑のたぬきに湯を注ぐ!
注ぎ終わったら赤いきつねに戻りスパートをかけ速やかに太麺のみを平らげ、
緑のたぬきの出来上がりを待つ。
シールが薄い緑から深みを帯びた緑へと変わっていく。
幾分赤いきつねよりは待つ時間は短く感じた。
緑のたぬきはサーモシールも緑に変わるのだ!芸が細かい!
そして時は来た!
蓋を剥がし後乗せサクサクのかき揚げを細麺の上に乗せ
麺と交互にかき揚げのサクサクとした食感を楽しみながら食べ進め、
再び八割位食べたところで、三つ目の緑のたぬきに湯を注ぐ!
そう!これが俗に言う追いたぬきなのだ!
しかも追いたぬき時はだしを吸う事によって箸で簡単にほぐれる上に、
絶妙な割合で蕎麦に絡みつく予定のかき揚げを蕎麦の上に乗せて湯を注いだ。
少しの静寂が流れたのち、かき揚げは先乗せしなしなで、
麺と一緒にのど越しを容易に堪能できる形に変貌を遂げた。
赤いきつねよりは幾分スッキリとしたダシを身に纏った蕎麦が
喉をスムーズに通過して行く。
三割食べ進んだ所で、満を持して最終兵器の登場である。
それは赤いきつねの、敢えて手を付けずに泳がしていたきつねを、
敢えて緑のたぬきに投入するのだ。
赤いきつねのだしをたっぷり吸い込んだきつねを少し頬張りつつ、
たぬきの蕎麦を啜り上げる。
これが世に言う赤いきつねと緑のたぬき大戦なのだ。
この勝敗の行方は入念な準備と物量を投入し、赤いきつねと緑のたぬきが、
ぶつかり得た達成感の後に訪れる満腹感に委ねるとしよう。 終戦。
赤いきつねと緑のたぬき大戦。 石川タプナード雨郎 @kingcrimson1976
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます