ラスボス
椎名さんも将棋のルールには詳しくないようだったけれど、形勢を手繰って理解したようだった。
「参りました」
僕は立ったまま真正面の椎名さんに声をかけた。
「さっき思い出した。幼稚園の砂場のトンネルの」
「うん」
椎名さんは立ち上がった。
「椎名さんって名前だったんだ」
「うん。私も鼎君の名前、知らなかった」
椎名さんはにっこり笑ってくれたけど、涙がいっぱい流れていた。
「ずっと気づかなかった。こないだ鼎君のお家がお煎餅屋さんだって聞いてね、あっ、て思った。幼稚園の時、そのこと話してたよね。私たち、中学一緒だったんだね。三年になって同じクラスになれてよかった」
「卒業する前に気づいてよかった」
「うん」
僕だって、目が涙で一杯だ。
言葉が鼻にかかって出てこない。
「・・・」
「・・・」
「卒園式の後、坂道でさ」
「うん。私、何度も引き返そうとしたんだよ。でも」
「幼稚園児は無力だった」
「弱かった」
「僕も、手を振り切って走って行けばよかった」
なんだなんだと、周りにクラスメイトが集まって来る。
もう、関係ない。
この涙も、涙声も、もう、誰にどう思われようが関係ない。
「もっともっと沢山話したかった」
「私も、もっともっと話して、もっともっと一緒に遊びたかった」
僕の涙腺は爆発した。
「もう。絶対、離さない」
「私も」
僕の差し出した手を彼女はがっしり掴んだ。
あの日、砂場のトンネルで掴んだ手が僕の所に戻ってきた。
外野が騒いでいる。
八木が叫んだ。
「すげえ!鼎!ラスボス攻略!」
そうだ。これはRPGだった。
僕たちクラス丸ごと兵士になって戦ったとは言っても実際はそよ風に吹かれてただ座っていただけの中三の3月のよく晴れた午後の件 味噌醤一郎 @misoshouichirou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます