第15話「Fランク冒険者」
「こちらの冒険者カードにご自身の血を捧げることでステイタスが表示されます」
受付嬢の指示に従って血を垂らすと冒険者カードが淡い光に包まれる。
冒険者カードはギルドと冒険者用に二枚発行され、二枚のカードに同じ人物の血を捧げることで紐づけされる仕組みだ。仮に冒険者がカードを紛失した場合もギルドに保管してあるカードと照合することで再発行が可能となる。
これにより違法に冒険者カードを偽造することはできない。そのため冒険者カードは身分証として様々な場所で利用することができる。
冒険者カードには自分の名前以外に能力値、そしてスキルが記載される。
――――――――――
名前:ナミキレン
筋力:B⁻
防御力:B⁺
耐久力:S
敏捷力:B
魔力:C⁻
スキル:頑丈/限界突破
――――――――――
どうやらステイタスの能力値は一つの項目で三段階に評価されるらしい。
耐久だけバグったような値になっているが、他の項目はグラスの指摘通りの能力値だった。現状では魔力は宝の持ち腐れだが、魔道具の存在もあるのでいずれは役に立つはずだ。
俺のスキルは二つ。
頑丈は言うまでもないが女神セレンから授かったスキル。耐久力はスタミナや状態異常に関する項目だと考えられる。
俺の要望通りこれで病気になることは無いだろうが、予想の斜め上を行く性能なのは間違いない。
二つ目の限界突破の効果は文字通り限界を突破する能力なのだろうが、正確に把握しておきたいので念のため受付嬢に詳細を聞いておく。
「限界突破と言うのはどういうスキルなんでしょうか?」
「限界突破は窮地に陥った状況など、ピンチになると発動するスキルになります。その効果は一時的に自身のステイタスを大幅に向上させるものです。しかし必ずしも発動するものではなく、条件が明確ではないのであまり過信し過ぎるのはお勧めしません」
確かに肝心な場面でスキルが発動しませんでしたでは洒落にならない。発動すればラッキー程度に考えて置くのが無難だろう。
まぁ、能力自体は純粋なパワーアップなので死にスキルではなかったのが幸いだ。
「レアスキルだったりします?」
「いえ、それほどレアなスキルと言うわけではありませんね」
「……そうですか」
少し期待してみたのだが、割とありふれたスキルらしい。
……残念
ちなみに必ずしも自分のステイタスを開示する必要はないらしい。ギルドが保管する冒険者カードには名前以外の項目は見えないようになっていて、冒険者の情報が外部に漏れることはない。
例外として冒険者カード発行時に自らステイタスとスキルを開示することで、その能力に応じてある程度冒険者ランクを昇級させることも可能。
しかし今回俺たちはステイタスを開示することなく最低のFランクから冒険者としてスタートしようと決めている。
明確な目的があるわけでもないので特段急ぐ必要性はないと考えてのことだ。
――――――――――
名前:マナ
筋力:D⁻
防御力:E
耐久力:E
敏捷力:D⁺
魔力:C⁺
スキル:全属性適正/支援魔法強化(中)
――――――――――
マナのステイタスを見せてもらうと、全体的に新人冒険者の平均より少し良い程度の能力だった。
とはいえチート級間違いなしの全属性スキルを所持していることや、素の頭の良さも相まってステイタス以上の実力を持っているのは間違いない。
「スキルに(中)って書いてあるのは何の意味があるんですか?」
「小、中、大、極と段階的に効果は上昇します。スキルのレベルみたいなものです。経験を積んでいけばスキルが進化することも、新たなスキルを発現することもありますので、冒険者カードの更新はこまめに行うことを推奨します」
なるほど、俺もスキルが二つしかなかったので残念に思っていたのだが、今後増えていく可能性があると知って期待が膨らむ。
「(中)のスキルを所持しているなら少なくともDランクから始めることも可能だと思いますが、ステイタスの開示はどうなさいますか?」
「いえ、このまま最低ランクからのスタートでお願いします」
「畏まりました。では冒険者ランクはFランクからと言うことで」
それから冒険者ギルドで依頼を受けるにあたっての注意事項を説明してもらった。
基本は自分のランク帯の依頼を受けることになるが、冒険者ギルドが認めた場合のみ一つ上のランクの依頼を受けるこができる。
相応の実力を持っている者や、同行するパーティーメンバーのランクによって総合的に判断されるらしい。
他には、依頼を失敗した場合は報酬の三分の一を支払う必要があるとのこと。
これは依頼を失敗した場合、次回からその依頼の難易度が上がってしまう仕組みのためだ。
冒険者が身の丈に合わない依頼を受けることを防ぐと共に、想定外の事態による依頼者の負担を減らす意味合いもある。
他にも細かな説明をされたが重要そうなのはこれぐらいだろう。最悪困った時は頼れる相棒のマナがいれば何とかなるはずだ。
説明を終えた後に依頼が貼ってある掲示板に向かい、今日中に達成できそうな依頼を探す。
Fランク依頼は主に探し物や作業場の助っ人など、アルバイトのような依頼が多い。街の外に出るような依頼も薬草採取ぐらいで魔物を討伐するようなものはなかった。
「この中で報酬がマシなのは薬草採取だけど、街中の依頼もやっておけばこの先役立ちそうだよな」
しばらくはハリエナに滞在する予定なので街の様相を把握しておく必要もある。小侯国とは言えハリエナは想像していたよりも広い。
冒険者ギルドがある南地区だけでも自分の目で全て見て回るには一苦労しそうなぐらいだ。
「そうですね、街の人と交流を持つことも大事だと思います」
「最初だし無難にお手伝い系の依頼を受けるのが無難かな」
「ご主人様のお好きなもので構いませんよ」
「んー、どうすっかなぁ……」
お手伝い系の依頼と言っても結構な数があるのでどれにするか迷ってしまう。Fランク依頼は駆け出しの冒険者向けなのでどうしても余りがちになってしまうのだろう。
俺が悩んでいると突然背後から話しかけられた。
「おい、そこのお前! 獣人を奴隷にするなんて悪い奴だな!? 」
「そ、そうだそうだ! 僕たちが許さないぞ!」
「でも見た感じお姉さんは嫌そうじゃないわよ?」
「……ど、どうしよう」
振り返ると小学一年生ぐらいの小さな四人組の獣人冒険者が並んでいた。首から下げている冒険者プレートがブロンズなので俺たちと同じFランク冒険者のようだ。
冒険者は首から下げたプレートによってランクが判別できる。下からブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ミスリルとなっている。BランクとAランクは同じミスリルプレートだが、プレートの形状が異なるらしい。
「奴隷ってマナのことか?」
「そうだ! ご主人様って言ってるのを聞いたぞ、それが証拠だ!」
四人のリーダー的な存在の虎人族の男の子が前に出て自信満々な様子で威嚇してくる。本人は至って真剣なのだろうが、申し訳ないがその姿が愛らしくて堪らない。
とりあえずモフりたいなと思って近づこうとするとマナが俺を押しのけて前に出る。
「心配してくれてありがとうございます。でも私は奴隷ではありませんよ」
目線を合わせるように四人組の前にしゃがみこんだマナが説明する。
「でも、さっきご主人様って」
「言わされてるだけだよ、きっと」
「やっぱ勘違いなのよ」
「えっと、えっと……」
マナの言葉を聞いて獣人四人組は円陣を組んで何やら会議を始める。
何を話しているのかはこちらに丸聴こえだ。男の子二人は俺を疑っている中、女の子二人はマナの言葉を聞いて勘違いだったと思っている様子。
「おーい、俺は悪い人間じゃないぞー」
「うるさい人間! お前は黙ってろ!」
なるべく怖がらせないように優しく声を掛けたのに素気無くあしらわれてしまった。その様子を見るに虎人族の子は人間に対して強い敵対心を持っていることがわかる。
しかしこんな小さな子に暴言を吐かれると結構心に来るものがあるな。
これ以上俺が何か言っても逆効果にしかならなそうなので、この後の対応はマナに任せることにしよう。
モフでモフなモフの異世界生活 ~二度目の人生、愛犬?と共に~ ポヨン @poyonsan
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