20日目 同期

京極から不意に言われた一言が時間がたつにつれて気になってきた。「先輩、転移ってご存知ですか」俺がこのぐらいの基本的な知識を知らないと京極は本気では思っていないだろう。もし、知らなかったとしても本人の性格上そんな意味のないことで俺を煽ってやろうとする、なんてことは考えにくい。

となると、始めに思いついたのは京極自身が転移・逆転移の状況になっていることだ、あいつは優秀だが患者さんとのコミュニケーションという点で苦労している。だからそっちだと思ったが、よくよく考えてみるとそれなら「先輩、転移になってるかもしれません、どうしたらいいですか」みたいな感じに言うはずだ。わざわざ「知ってますか?」なんて遠回しのことは言わない。


次に考えられる可能性・・・


「俺、なのか」


俺自身は気を付けているつもりでも確かに最近は白石さんのことばかり考えていたが、それは疾患と状況が難しいからだと自分に言い聞かせてきたが


「もしかして他から見たら転移しているように見えたのか?」


そう思って、リハビリの控室でのほほんとしている同期に話しかける。


「進藤ちょっといいか」

「んお?珍しいやん、西城から声かけるなんて、どしたー?悩み事か?」

「珍しくもないだろ、まあそんなところだ」


同期の進藤キタ。進藤と西城は同じ大学出身でそのころから仲が良かった。仕事場ではプライベートとは区別するという西城のプロ意識の徹底ぶりによって話す機会が少なかった。そのせいで進藤と西城は仲が悪いといううわさが流れたが、仕事終わりに二人でよく飲みに行っているところを見かけられ誤解は解けた。誤解は解けたのだが、その西城の徹底ぶりから「なんあいつら内緒で社内恋愛してるカップルみたいな徹底ぶりだな」と誰かが言ったことを発端に、あの二人は怪しい関係とまことしやかに噂されているが本人たちがその噂を知る由もなく今日まで来た。


「その悩み当ててやろうか?」


進藤は鈍感そうに見えて意外に勘が鋭い、1を言って10を知るとまで言わないが察しがよく、それに人をよく観察している。だからこいつに相談するんだが


「どうせ分かってるんだろ?」

「まあ、ここで話すってことは患者のことだろうから、それで最近持った患者で難しそうなのはあのひとだろ?名前は覚えてないんだが、若い女の子の・・・がっつり見てないから分からんけど失調がある人だろ?」

「よく見てんじゃねえか、そうだよ。白石楓さんっていうんだ。それで疾患についての方は問題ないんだがコミュニケーションの方でな」

「まあ、疾患についてなんて俺、西城以上に知識持ってる自信ないからそっちの方だとは思ったけど、遠目で見る限りはうまくやってるんじゃねえの?」


そうして進藤に現状を話した。

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