俺の中の鏡の中の私

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

第1話

 旧校舎の三階女子トイレには大きな鏡が置いてある。


 今日も学校に行く。終わりまでの残りを指折り数え、意義も意味も見出だせない場所に向かう。

 登校すると上履きは何時ものように見当たらない。用意しておいたスリッパを履いて教室に向かう。

 教室には視線が幾つも、侮蔑嫌悪嘲笑邪険憎悪軽蔑無視悪意狂喜憐憫偽善………。

 反応するだけ無駄なので無視して席に着く、本を開く、本以外の視野を切り取る、無心。

 あと69回、この日を無心で過ごせばそれで終わりだ。

 罵詈雑言や本人に聞こえる陰口なんて聞こえない。

 投げつけられる何かなんて感じない。

 頭から滴るアルコール臭なんてない。

 自分の血の味なんてしない。

 『義務教育を受けた』と言う事実があればそれでいい。


 キーンコーンカーンコーン


 やっと1つ目のチャイムが鳴った

 休み時間、教材一式を鍵付きロッカーに入れて席を立つ。

 20分は長い。

 向かった先は旧校舎三階の女子トイレ。移動教室がない限り誰も来ない。

 私は鏡に向けて疑問をぶつけた。

 「どうすれば、いいの?」

 無心無言でも、ずっと苦しいまま。攻撃は止まない。

 「いっそのこと全員を暴力で黙らせろとでも言うの?」

 鏡は答えない。


鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡鏡


 旧校舎の三階男子トイレには大きな鏡が置いてある。


 クソ程イラつく。

 意味もねー癖に義務だ何だとうぜぇ学校。あんなどうしようもねぇ猿山に行って何になる?

 イラついたまま着いた。見ろよ、俺が来ると化物でも見ちまったみて―に目を反らし、挙句に陰口を叩くクソ共。

 聞こえてんだよ!文句あるなら目の前で言え!真正面から殴ってやる!

 ほざいていた連中を取り敢えずロッカーにあった箒で殴って黙らせた。


 キーンコーンカーンコーン

 やっと1つ目のチャイムが鳴った


 20分がクソ長い。

 向かった先は旧校舎三階の男子トイレ。移動教室がない限り誰も来ねぇ。

 俺は鏡をぶん殴る。

 「どうすりゃ良いんだよ?」

 絡んでくる連中を殴り倒した、人の物を盗んだやつを締め上げた、にしようとしたから返り討ちにして全員病院送りにした。なのに罰は俺だけに来る。

 『暴力はいけない!』『奴等は良いのか?』

 『人の痛みが解らない!』『知ってるから返り討ちにすんだろうが!』

 『人間は言葉を交して解決出来る!』『お前ら俺の言葉を聞いたのか?』




 「黙って耐えろってのか!?」

 鏡は答えない。

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