第81話
「本当ごめんね。大丈夫?」
朝食バイキング会場の、ちょうど海の見える窓際の席で、真理が心配そうに、僕の赤く腫れた頬を見つめていた。
「心配しなくていいよ。全然平気だから」
どうしてなんだろうか。
どうして僕は、真理と天満さんが寝ているはずの部屋で、エアコンもつけずに上半身裸で真理に抱きついてたのだろう。まったく記憶にない。
「ごめんね。嫌だったわけじゃないんだよ。ただその……驚いちゃって」
「うん。全然大丈夫」
驚いたのは僕も同じだ。
「でも、聞いてもいい?」
と、真理。
「何?」
「どうして隣に座ってるの? こういう場合って、普通、正面に座るよね?」
「あんな遠い席に座ったら、真理の可愛い顔が近くで見れないだろ」
「……」
「どうしたの? 箸が止まってるよ?」
「優太君って……変わったよね」
「ぜんぜん変わってないよ。思った事を口に出すようにしただけだよ。ほら、ごはん粒ついてる」
真理の口元に手を伸ばしてご飯粒をつまんで、自分の口に入れた。
「……絶対変わったと思う」
僕は真理の手元の海鮮の山を見て、
「ウニって美味しいの?」
「美味しいよ。ちょっと食べてみる?」
「うん。食べさせてみたい」
僕が言うと、真理は頷いて、ウニの入ったお皿をこちらに近づけて、
「いいよ。はいどう……食べさせてみたい!?」
僕は、スプーンでウニをすくって真理の口元に近づけた。
「待って待って。自分で食べられるから。自分で」
「……嫌なの?」
「い、嫌じゃないけど……」
「さっきは美味しそうな顔してたよね。あの顔をもう一度見せて欲しいな」
「そんなこと言われたら、緊張して無理だよ」
「はい、あーん」
「……」
「あーん」
しつこく言うと、真理が観念して口を開けはじめた。
「おはよう真理ちゃん」
と、葵さんの声がした。
「あ、おはようございます」
と、僕がスプーンを持ったまま答えると、
「真理ちゃん。ちょっと旦那を返して貰うわよ」
と言って、葵さんは僕の腕を掴んで立ち上がらせられた。
そう言えば昨日、僕は葵さんにプロポーズしたんだった。
「どこに行くんですか?」
「すぐそこよ。それよりどうだった?」
「……何がですか?」
「数字の話よ。昨日、天満梨花さんが帰宅したから、代わりに天満梨花さんの寝るはずだったベッドに丸めた布団を入れておいたの。天満梨花さんが寝てる(と思ってる)横でしたキスはどうだった?」
「……あれ、葵さんの仕業でしたか」
「そうよ。いい刺激になるかなと思ったの」
「刺激的過ぎてビンタされましたよ」
そう言って、腫れあがって来た頬をそっとなでる。
「それで?」
「それだけです。キスは出来てません」
「失敗か。とりあえず冬休み中に何とかするのよ」
「何とかとは?」
「どうしたの? 浮かれすぎて脳みそ死んだの? 冬休み中に、目標値である36500回を達成しなさい。一日一万回すれば、4日で達成できるでしょ?」
「僕、キツツキじゃないんですけど。それにそんなことしたら、真理の顔に穴があいちゃいますよ」
「あかないわよ。早くしないと真理ちゃん可哀そうでしょ? ずっと悪い事をしてる気持ちにさせておくつもり?」
「それは……頑張ります……」
「とにかく真理ちゃんのことは頼んだわよ」
「はい」
「真央の事も悲しませたら殺すからね」
「そこもうまくやります」
葵さんから解放された僕は、デザートとホットコーヒーを持って真理の所に戻った。
「あれ? 戻って来ちゃったの? 葵さん放っておいていいの?」
「うん、真理と仲良くして来いって」
「なんで? 結婚するんだよね? 今、ラブラブな時期なんじゃないの?」
「そうだよ。でも、幼なじみも大事にしろって。でも絶対に浮気は許さないって言ってた」
僕は、真理の前にホットコーヒーを置いた。
「あ。ありがと」
「ふう」
僕は、プリンとクリームブリュレとパンナコッタを2つずつを並べた。合計6個だ。
「ずいぶんとって来たね」
「前から思ってたんだけど、これって全部プリンだよね? せっかくだから食べ比べようと思って」
僕はパンナコッタを一口食べて、それからコーヒーで口をリセットした。
「あれ? 優太君もコーヒー飲むの?」
「うん。苦くてまずい」
「無理して飲まなきゃいいのに」
「いいんだ。こうして甘くするから」
そう言って、隣の可愛い女の子の唇にキスをした。
本編完結!【★NTR幼馴染はやり直したい】らしいけど既にフォロワー100万人の彼女がいるのでゴメンね とにまる @tonimaru
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