第13話 俺と選択
「
「あ、悪いけどまた今度でいいかな?」
「……どうしたんだい、筋肉に元気がないね」
「あはは、色々あったんだ……」
無事にパーツを手に入れた俺は、一人だけ重苦しい空気を背負いながら、キャッキャしながら楽しそうに移動する
しかし、何度も見ていたはずの2人が何も言わないまま放置していたという事実には、ものすごく心を抉られてしまった。
「お、お兄様……そんなに落ち込まないでください! 嫌いだなんて嘘ですから!」
「でも、本心だったんだろ?」
「あれはお兄様が誰に見せても恥ずかしくない部屋にするため、あえて鬼になったと言いますか……」
「……優しいな、
「えへへ♪ あ、でも他の女の子を連れ込むのはダメですよ? お兄様の匂いが穢れますから」
「酷い言い方だな。でも、希が入ってるから既に手遅れだろ」
そう言ってみると、以外にも早苗は首を横に振って、「そうでも無いんです」と答えた。
どういうことかと首を傾げたところ、早苗の鼻は普通の人の何倍か優れているらしく、それでも希の匂いは邪魔になっていないんだとか。
「希さんは何と言うか……お兄様と同じ匂いがするんです。きっとシャンプーやボディーソープも同じのを使ってますよ」
「それは無いだろ、教えたこともないし」
「勝手に確認したんじゃないですか?」
「何のためにだよ」
「……お兄様は鈍感なんですね」
やれやれと言わんばかりに首を振った彼女は、俺が聞いてもそれ以上は教えてくれなかった。
ただ一言、「クローゼットの中身には気を付けた方がいいですね」とだけ呟いて。
「凛、着いたわよ」
「あ、おう。……って、ここは?」
「見て分かるでしょ」
「そりゃ、分かるけど……」
希の声を聞いて顔を上げてみると、目の前にあったのはずらりと並ぶキラキラとしたお店の数々。
店の名前はバラバラではあるものの、そこに売られているものは色形は違えど全て同じカテゴリーに含まれるものだった。
「水着、だよな?」
「もちろん。凛には私たちの水着選びに付き合ってもらおうと思って連れてきたの」
「荷物持ちじゃないのか?」
「……まだあの時の言葉、気にしてたの? あんなの冗談よ、凛の優しさに甘えさせてもらってただけなんだから」
あの時の言葉というのは、『凛は私の荷物持ち』という発言のことだろう。
どう思い返しても冗談の口調ではないし、目も割と本気だった気がするが……言い返したら撤回されかねないので黙っておく。
代わりに「そう言えば、もう夏休みも近いのか」という言葉を口にすると、待ちきれないとばかりにウズウズしていた早乙女さんが俺の腕を掴んできた。
「リンリン、早く行こ!
「お、おう」
俺は理解が追いつくよりも前に、一番左にある可愛らしい水着ばかりが並んでいるピンクピンクしたお店へと引っ張られる。
しかし、すぐに反対側の腕を引っ張られると、その主である
「私が先です!」
「あ、ちょっ……」
「もう、みほちんのイジワル!」
早乙女さんから俺の身柄を奪い取った彼女は、満足そうにニコニコしながら真ん中の子供っぽい水着が並ぶオレンジのお店へと連れていく。
別に誰が一番でもいいが、そもそも水着選びの才能なんてないしな。期待されても困るんだが……。
「――――――って、ん?」
あと数歩でお店に入る。そう思った瞬間、何者かが背中からボフッと抱きついてきた。
早苗だろうかと振り返ってみれば、意外にも
無口でクールな彼女がこんなことを……と戸惑っていると、彼女はそのまま腕に力を込めて体を押し始めた。
「私が先、だから」
「ほ、本庄さん?!」
「ああっ、
もはやアメフト部のタックルのような状態で、右側にある大人チックな水着が並ぶ青いお店に入店。
そのまま数着の水着を回収すると、「どれが、好き?」と聞いてくる。
「えっと……真ん中かな?」
「……真ん中?」
「あ、いや、やっぱり左!」
「左……?」
「じゃなくて、本庄さんから見て左!」
「わかった、これにする」
意見を聞いてくれているようで、結局自分の好みのものへと誘導されている。
これがあと3人……いや、早苗も買うとしたら4人分も続くと思うと、荷物持ちよりも気が重くなりそうだった。
「凛、私のも選んでもらおうかしら」
「……ちょっとタンマ」
「だーめ、女の子を待たせるんじゃないわよ」
「わ、分かったよ。分かったから引っ張らないでくれ……」
シスコンは突発性の病です プル・メープル @PURUMEPURU
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