今にも消えてしまいそうな女の子と、力強く少々お節介な神様の再会から始まるハートフルな物語です。
自信を喪って毎日を無為に過ごすヒロインの前に現れたお喋りで不思議な神様・みなも。一人と人柱の交流を軸に、柔らかなメロディのようなストーリーが紡がれます。
神様に背中を押され、ヒロインの交友関係も広がり、キーパーソンにも出会う。狭かった世界は一気に広がりますが、アクシデントもトラブルも起きます。全て順風満帆、一筋縄とはいきません。それらを乗り越え、登場人物の全員が成長して行く姿が丹念に繊細に、また愉快に活写されます。
その中で本作を特異な位置に押し上げるのが、小さな神様の重みのある数々の言葉です。金言にして至言。説教めいた口調ではなく、分かり易く教え、諭します。
人生観も世界観も、倫理も道徳、人としての在り方も明瞭に、饒舌に語られます。この数々の偉大なる教えは、本作の白眉と申せましょう。誰しも心に留め置き、拳拳服膺したい警句です。
☆☆☆
けれども、陽気で健気な小さな神様にも退っ引きならない事情があった。世俗の都合で、依り代の祠が間もなく撤去される…
パワフルだった小さな神様が儚くも見える。そこでヒロインは決然と立ち上がります。
仲間を得て、勇気を貰って、救い救われる。助け、助けられる。救済の物語は人の世を越え、神の世界にも連なって、時に華やかに、時に切なく、編まれて行きます。
☆☆☆
本作は、とある町を舞台にした連作長編の第一弾。神の有り様、人の生き様…豊かな世界の基礎が描かれています。
誰もが少なからぬ悩みや疲れを抱いているのであれば、ここにリラクゼーションの優しい光があります。是非、繙いて、実際に触れて、光の輪に包まれて下さい。
純粋すぎるあまりに周囲と馴染めず、消え入りそうな雰囲気の少女。
彼女に生を取り戻した、言ってみれば幼馴染の産土神の少女。
この二人が出会い、導き、導かれ、そして互いを認め合う物語です。
神様との交流ではあるのですが、『願事』『ご利益』という現世利益とは無縁の、人と神との交流が中心に据えられ、このために全体を通して清涼な雰囲気を感じられました。
人間の少女は、当初自身が周囲に溶け込めないことに悩み、迷うのを、神様がその言葉で諭し、導いていく様は、昔からの神様と人間の在り様を示すかの様。
作者様が作中に散りばめられた日本神話の雰囲気が、この作品の神話的な空気を上手に醸しだされ、それが先に書いた清涼な雰囲気を更に深めていると感じます。
欲と利益を追求するお話しに少し飽いて来たら、少しリズムを変えて、ゆったりと本作のような清涼な空気を楽しんでみてはいかがでしょうか。
良作だと思いました。
主人公・実菜穂は、引っ越しをきっかけに環境になじめず、心がすり切れる寸前だった。
進学、就職、結婚。誰しもが実菜穂と同じような経験をし、疲弊や不安を感じたことがあると思います。
そんな時どうすればいいか困ったなら、この小説にその答えがあるかもしれません。
幼い頃、よくいっしょに遊んだ少女・みなもと再会し、実菜穂は少しずつ前を向けるようになっていきます。
みなもの優しさ、的確な助言、飾らず寄り添う姿。それに応えようと一生懸命になる実菜穂。ふたりを見ているうちに、読者はやがて、励まされているのは実菜穂だけではないことに気づくでしょう。
順風満帆に見えた実菜穂とみなも。
しかしみなもは、ひっそりとある決意をしていた――。
ふたりの行く末をどうぞ、確かめてみてください。