(TS)魔法少女は魔女ですか? いいえ、実は聖女でした! 〜マジカルXウイッチ アリカ=マギア 反転魔法で今日も無双します!〜

友坂 悠

マジカルXウイッチ アリカ=マギア

 エクストリーム、サンダー!


 轟音と共に光の剣が幾重にも重なるように飛んでいく。

 中ボスのジャイアントトロールのお腹に突き刺さる雷光、稲妻の斬撃。

 やがてそれはその巨大な身体を肉片も残さず消しとばしたのち、おさまった。


 静寂が取り戻されたそのステージに響き輝くレベルアップの調べ。


 《レベルが12アップシマシタ。スキルポイント1200増加。各種ステータス増加。詳細はステータス画面で確認シテクダサイ》


 はう。もうちょっと親切に教えてくれてもいいのに!

 まあでも? あんまり喋られても覚えてられないけど。


 そんな愚痴をこぼしながら位相転移をする僕、有架ありかは、最近始めたこのゲーム、『マギアクエスト』からログアウトした。



 天原有あまはらゆう17才高2。

 一応れっきとした男子高校生。なのだけど。

 身長がちょっと低くて声が高めなのがネック。まだまだこれから成長期だからあ! そんな口癖の僕はネットでは有架ありかっていうHNをずっと使っている。

 架の字は特にあまり意味は考えて居なかったのだけれど、有の字は気に入ってるしこの名前であれば字面的にあまり女っぽくないだろうと思ってつけたのが最初。

 まあそれでも。

 なぜか文字だけで話していると女性に間違われることも多かった。

 丁寧な話し方をしているから?

 そうは思ったもののかといってあんまり崩して話すのも気が引け。

 あまり気にしすぎるのもおかしいよって親友のアキラに言われたのもあって、次第に諦めた。


 まあね? ネットの向こうの相手が男性だ女性だ、って、気にしてるのもおかしな話だよね?


 そう納得して。

 アキラもそうだけれどネットでは男性が女性キャラを女性が男性キャラを使うことなんかよくあること。

 それを殊更おかしく思うのもおかしい、と。

 そう考えてからは心が軽くなったものだ。


 親友のアキラ。まあこれもネット上の名前であって僕は本名を知らないけれどそれでもいいと思ってる。

 ネトゲで知り合ったアキラとはそのままSNSでも繋がって。

 いろんなことを話しているうちに仲良くなった。


 いつだったか。

 #嘘かホントかわからない話

 なんてハッシュタグでアキラが語ったのが、

「実は自分は性別女なんだけど、女だとわかった途端に態度を変えるやつが大っ嫌いなんだよね」

 って話。

 そのときは冗談だと思った僕。

 で話を合わせた。

「まあね。僕が男だよって言った途端に態度が変わるやついるし。わかるよ」

 と。

 これはほんと。

 僕は別に自分が女性だ、なんて嘘をついている訳じゃない。

 勝手に向こうが女性だと思い込んで、それでもって勝手に幻滅して手のひらを返すのだ。

 それってものすごく気分が悪い。

「はは。有架らしいや。っていうか有架ってユウカ? アリカ? どっち?」

「一応アリカにしてる。宝のありかみたいでいいでしょ?」

「そっか、うん。良いね。自分がアキラでお前がアリカ。いいコンビになれるかも」

 そんな会話の後からだったかな。ほんと、親友って思うようになったのは。


 夕飯を食べてからまたゲームをしようとヘッドセットをつける。

 没入型VRで操作は完全脳波コントロールのマギアクエスト。

 ログインすると、景色はいつものログイン画面に変わった。


 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 あれ?

 いつもとちょっと違う。気のせい、じゃ、ない?

 ログインしたはずのそこはいつもの場所と違っていた。

 自分の姿がゲームのアバターなのはかわらない? けど。

「アリカ、ここはどういう……」

 親友アキラもその忍者キャラのまま僕の隣に立っていた。

 僕も自分の両手を眺めてみる。うん。アバターの魔法使いの姿だ、間違いない。

「ログインしたらこんなふうになってた? 僕にもよくわからなくて」

 周りはただただ白いモヤがかかった空間。

 同時にログインしようと約束してたアキラが一緒なのがちょっと心強いけど。

「なにかのバグかな? 一旦ログアウトしようか?」

「ああ、でも。なんでだ? ログアウト操作が出来ない」


 いつもだったらすぐ出てくるはずのコンソール画面が見当たらない。

 二人であーでもないこーでもないと話していると目の前のモヤが渦巻いて立ち登り。

 竜巻のような高さになったと思ったら、あっという間に僕らを包み込んでしまった。



 ——天原有よ

 天の上? から声が聞こえる。

 というかここは、どこ?

 さっきまでログイン後のスタート地点にいたはずの僕は、真っ白な空間に寝そべっているようだ。


 う、っと身体を起こそうとするけどちょっと調子が違う?

 あれ?

 身体の感覚が、ある?

 それまでのゲームのアバターでは流石に皮膚感覚というかものに触れているような感覚は味わえなかった。

 現実じゃないアバターを意識して動かしている、そんなふうで。

 でも今は違う。

 まるで生身の身体のように自分の身体を感じる。でも?

 元々の身体とも、ちょっと肌の感触が違うような……?

 自分の身体がなんだかものすごく華奢に感じる。

 指も、細くて小さい、かな?

 もしかして子供になってる?


 元々僕は同年代の男性に比べたら少しチビで。

 それがコンプレックスだったけどそれでも。

 ここまで子供みたいじゃなかった、はず!


「ここは、どこ!? 僕はどうなったの!?」


 ——ここはバルハラ。其方のもといた世界とは別の世界になる。


「へ? どう言うこと!?」


 ——其方のいた世界のブレーンとこの世界のブレーンの接触事故が起きたのだ。まあ被害は最小限には抑えたからすでに二つの世界は無事に別れ空間は正常に戻ったのだが、


「ああ、なら良かったです、が」


 ——残念ながら、其方と一部の其方の世界の住人はこの世界に取り残されてしまった。


 え?


「取り残されたってどう言うことさ!」


 怒りで、ぼやっとしていた頭がはっきりしてくる。っていうかどう言うこと!? 事故!? 取り残された!?


「帰してよ! 僕をいますぐ元の世界に返して!」


 思わずそう叫んでいた。ううん、叫ばずにいられなかった。僕は、いや、僕だけじゃないのか? もしかしてアキラも?


 ——残念ながら、一度離れたブレーン世界同士で任意に転移できる方法は存在しないのだ。


「そんな! 事故って、誰のせいだよ! そもそもあんたは誰だ! どうしてこんなことになったんだよ!」


 ——そう怒るな。原因は、其方らの世界にある。其方らの世界の通常よりも肥大したブレーンが位相の変質をもたらしたのだ。われがその肥大したブレーンを切り離すことでことなきを得たのだが。


 え? 僕らの世界が原因?


 ——人のレイスは須く世界と同じブレーンで構成されておる。通常は細かい泡のようなもので大きな泡、世界の泡に付随しているだけなのだがな。


 レイス?


 ——世界を空間を構成する泡と人の魂の泡は元をただせば同じ神の気マナでできているのだ。世界を構成するマナの泡は生まれては消え消えては生まれ。通常はそれが分岐しまたくっついて。そうして泡としてのひとときを過ごすのだが。


 ——其方らの世界のブレーンはそこに付随するだけのはずの小さな泡が異常に大きな泡となり、われが住まうこのバルハラにまでおよび接触するという事故を起こしたのだよ。


 もしかして、それって……。


 ——しかも、我がバルハラに侵食した其方の世界のブレーンのかけらは、今やこの世界の根幹にまで食い込み始めておる。魔王アンゴルモアと名乗るものが世界の最下層に居座っておるのだ。


「マギアクエスト!? もしかしてその肥大したブレーンって」


 魔王アンゴルモアっていうのはマギアクエストのラスボスだ。確かそう。

 まだ倒した人は出てないはずだったし攻略サイトにも情報はほぼなかったけど。


 ——我はデウス・エクス・マキナ。この世界を治める者だ。其方には聖なる力を授けた。その力でどうか魔王を浄化してはくれまいか。


 へ?


 ——其方らは異質だ。このバルハラでは人は基本従順で争いというものを知らぬ。しかし、其方の世界と接触した際に侵食したものたちの影響でこの世界は変質してしまった。分離したことで世界が崩壊することは防いだが、このままではいずれこの世界そのものが滅ぶだろう。どうか頼む。


「そんな、僕に、なんて」


 ——お願いだ。その聖女の力は唯一魔王に打ち勝てる可能性を秘めた力だ。どうか頼む。


 あ、デウスの意識が離れていくのがわかる。

 待って、まだ話は終わってないのに!


 ——其方と一緒にいた者にもまた別の力を授けた。どうか——


 ああ。

 デウスの意識がここから離れた。

 っていうかなに?

 元の世界に戻る方法がない上に魔王を倒せって?

 そんなのあんまりにも人を馬鹿にしすぎ。


 それに、聖女って? 


 僕は立ち上がると自分の身体をもう一度ゆっくりと見た。

 いるのまにか装備していた魔法使いのローブではなしに白いキトンのようなワンピースになっていた僕。

 元々ゲームでは中性的なキャラをとベースを女性キャラにはしていたけど、髪も短くしていたしゆったりめのローブで身体を隠して性別をわからないようにしていたんだけど。

 今の身体はなんというか、金色の髪がふわふわと肩までかかり、華奢な手足がキトンの端から覗いている。

 はう。これって生身の女の子の体?

 もう一体どういうこと!?


 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 気がつくと真っ白な空間は森の泉の前に広がる芝生の生い茂るそんな場所に変わっていた。

 ここが、バルハラの世界?

 でも、なんとなくマギアクエストの世界の風景にも似ているきもする、けど。


 泉のほとりに人影が見える。

 もしかして、アキラ?

 僕はその人影に向かって歩いて行った。

 でも?


「アリカ? アリカなの?」


 そこにいたのはエメラルドグリーンの髪をふわふわと靡かせた超絶美少女。


「え、まさか?」


「アキラだよー。あたし、アキラ。あーん、よかった。あたし一人じゃなかった……」


 ってどういう事?

 アキラ、これじゃ完全に女子じゃない。


「って、アキラ、あたしって言ってたっけ、っていうか素はそんなに女の子女の子してたの?」


 そりゃあ、アキラが実は女子だっていうのは聞いて知ってた。

 でもネットじゃいつもサバサバしてたしそのへんが妙にうまがあって親友になったはずだったのに。


「アリカだって、女の子じゃん。男の子だって言ってたのは嘘だったんだ?」


「いや、これにはわけがあって」


「あたし聞いたもの、神様に。この世界では訪れた本人の魂の姿になる、って。バルハラって言うんだって、ここ。『何人も此処バルハラを訪れるにあっては真の姿を表すべし』って、そういう掟になってるんだって」


 ったく、デウスのやろう、何が真の姿だよ。


「だからぁ、それには訳が……」


「危ない!」

 急に、僕を突き放すように押すアキラ。


 ヒュン!


 僕とアキラのちょうどその中間を抜けていく矢。

 っていうか今僕アキラに押されたよね? って、押されてなければこの矢が刺さっていたかも?


 矢が飛んできた方向を睨みつけるアキラ。


「危ないじゃないの! どう言うつもり!?」


 その声の先には緑色の皮膚? そんな人が弓矢を構えていた。

「オマエ、ニンゲン。オレ、ニンゲンキライ」


 ちょっと待ってよこいつ人間じゃないってこと? もしかしてゴブリン?

 そういえばゲームだともっとグロテスクな容姿だったしあきらかに魔物って感じで、おまけにしゃべりはしなかったから敵だと普通に戦ってきたけど。

 こいつは肌が緑なだけで姿形は普通の人間、それも少年に見える。


「待てよ! お前も人間じゃないのか?」


 僕は思わずそう叫んでいた。こんなリアルに普通に人間に見える相手と戦えないよ!


 そのゴブリン少年は大きくかぶりを振って。


「ニンゲンはオレのムラ、おそう。オレたちのカタキ」


 そう言いながら矢をこちらに向けてジリジリと近づいてくる。


「アリカ、この子言葉は通じるけど話は通じないみたい。あたしがなんとかするからその隙に此処から逃げるよ!」


 こちらを振り向かずそう小声で言うアキラ。

 っていうかお前、そんなふわっとした美少女の容姿でどうしようっていうの!

 か弱く見える華奢な身体。

 ゲームの中での俊敏な肉体とは違うのに。


 それでも。


 アキラはやっぱりアキラだった。

 さっと身をかがめるとそのままゴブリン少年に向かってダッシュ。撃たれる矢をかわし少年の懐に潜り込むと、そのまま腕をとって背負い投げを決めた。


「今よ! 走ってアリカ!」


 僕は振り返るとそのまま全速力で走った。

 とにかくこの森を抜けよう、そうすれば何かわかるかも。

「はあやっと追いついた」

 そう僕の隣を並走し笑顔を見せるアキラ。

 え? どうして?

 っていうかアキラ、そんなふわふわな身体のくせに身体能力僕より高くない?

 ちょとだけ悔しさを滲ませながら、そのまま走る僕。

 やがて周囲の樹々が途切れ目の前に平原が見えてきた。


「此処までくれば大丈夫? かな」

 そう走りながら振り返るアキラ。



「あそこ、街っぽいのが見えるよ! とりあえずあれを目指そうか?」

 平原を見下ろす丘の上で、アキラが指差しそう言った。

 その笑顔が眩しい。


 こんな、女の子女の子してるのに。

 こんな真っ白なワンピース姿でふわふわな緑の髪で。

 美少女然としてるけど。


 アキラはアキラなんだな。


 なんにも変わっちゃいなかった。僕はそれがちょっと嬉しかった。



 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎



「ほら、見えてきた」

「あれ? ほんとにあれ?」

「間違いないって。あたし攻略サイトで魔王城見てるし。間違いないよ」

「だって、あれってまるで」

 テーマパークのお姫様のお城にしか見えないよ。



 結局いろいろ冒険を続け魔王を倒す旅に出た僕ら。


 アキラが聖女様だって崇められたり。

 僕が魔女だって追いかけられたり。

 お城で王子様から言い寄られたこともあったっけ。

 訪れる街でほんとにいろんなことがあったけどそれもいい思い出だ。


 この世界に居着いてしまったマギアクエストの魔物は皆、なぜか自我に芽生えていた。

 心があるっていうの?

 ただただ経験値を稼ぐための存在ではなく血肉の通った生き物になったそれら。

 僕らはなるべく不殺を誓い、襲ってくる相手はしょうがないから無力化し。

 悪意は浄化し。

 仲間にできそうな魔物は仲間にして。

 うにゃんと僕の腕に頭を擦り付けるこの大黒猫のもふもふクロコも元は魔獣ワイルドキャット。

 今ではすっかりと可愛い仲間になっている。


 魔王だってきっと、話せばわかってくれるんじゃないか?

 そもそもデウスはどうしたいんだろう?

 魔王がいるということで人の世界も変質したのか彼を倒すための軍団が編成されこちらに向かってきているという。

 なんとかしてその前に魔王に会って。

 確かめたいんだ。

 話が通じる相手なのかどうか。

 倒さなければいけない相手なのかどうか。


「マジカルレイヤー!」

 目の前にマナでできた膜を張る。

 鏡のように現実世界に顕現したマナ。

 そこに魔法少女のマトリクス。僕のゲームのアバターの持っていた衣装を描き。

 そして。


 一気にその膜を通り抜けることでそのレイヤーに描かれたマトリクスを自分の身に纏うのだ。


 まるで子供の頃に見た変身ヒーローのようなそんな魔法。

 マギアクエストでの魔法使いが使えるそんな権能。

 僕は、フリフリの魔法少女の衣装を身にまとう。

 最後の戦いに備えるために。



「ふふ。相変わらず可愛いわね。アリカは」

 そういうアキラは白銀の軽鎧を纏い真紅に煌めく槍を手にする。

 エメラルドグリーンの髪には白銀のティアラ。

 額にはサファイヤブルーに煌めく勇者の玉が輝いて。


 そう。

 デウスが彼女に授けた力。

 それは勇者の力。


 魂のパワーを力に変え、人ならざる身体能力と勇者だけに与えられた権能を使いこなすその姿に。

 人々は彼女のことを勝利の女神だと囃し立てた。


 うん。

 勇者ワルキューレの再来、だそう。


 さあ行こう。

 魔王のもとへ。

 僕ら二人ならきっと。



 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎



 ギャオん、


「クロコ!」


「だめよアリカ!」


「ふふふ、まだまだだな、勇者よ」


「もう、どういうことよ! 硬すぎるわこいつ!」


「ここは我の城ぞ? お前らそんなことも考えずに踏み込んできたのか?」


 魔王は問答無用で攻撃を仕掛けてきた。

 僕らはそれぞれ反撃をするも、クロコはもう限界アルカの攻撃は弾かれ僕の魔法は防がれた。


「魔王よ! ここはお前が居ていい世界じゃない。もといたマギアクエストの世界じゃないんだ」

 魔王が魔王として振る舞うのでなかったら。

 普通の人の一人として生きるのなら。

 そうであるならこの世界も受け入れてくれるかもしれない。

 この世界に変質をもたらす憎しみも怨嗟も起こさなければ、世界が崩壊に向かうこともないのかもしれないじゃないか!


「お前、何か勘違いしていないか?」


 え?


「我はこの世界に呼ばれてきたのだ。この世界そのものに。欺瞞と停滞に陥っていたこの世界を崩壊から救ってくれと。そう呼ばれてきたのだぞ?」


「何をバカな!」


「お前らとてそうであろう? マギアクエストとはマザーによって生み出されし世界。世界を構成するコマとして選ばれたのであろう?」


 って、何!?


「マザーって、何だよ!」


「マザーとは人の意思の集合体が創り出した神だ。いや、今や本当の神をも凌ぐこの世界を統べる意思そのもの。このバルハラそのものも元々マザーによって構成された世界であるのだよ!」


 そんな!


 デウスの言っていたことは全て嘘?

 どうして?


「アリカ! 堕ちちゃ、だめ」


「アキラ」


「だめだよ。アリカは。あんたが堕ちたらあんな作り物じゃない本当の魔王になっちゃう。この世界を生かすも殺すもあんたのその聖女の力次第なんだからね!」


「だって、アキラ」


「ごめんアリカ。でもお願い。この世界を守って」


 アキラのその緑の髪がふわっと揺れた。


 ああ。綺麗、だな。


 なんだか今まで夢を見ていたかもしれない。

 僕は。


 心の奥底にあった真っ赤な石が燃える。

 その熱は、心の中を埋め尽くして燃やして燃やして燃やし尽くすところだった。

 でも。


 うん。

 大好きだよ、アキラ。

 もう君のため、だけでいい。

 僕はもう、それだけで頑張れる。


 炎は凝縮し。そして紅く鈍くなったかと思うと段々とそれは透明度を増していった。

 そして。

 最後の最後に、それは反転し。

 アキラと同じ、サファイヤブルーに光り輝いた。


「サブリメイション・オブ・サークル!!!」

 僕は胸に手を当てて、そう叫ぶ。


 聖なる力を解き放つ、円環の昇華、そんな大魔法を放ったのだった。













 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


 真っ赤なレイスは魔女の証。


 アキラはそういうとふふっと笑った。


 そっか。僕の心の中にあったのはやっぱりそういうことなのか、と。

 なぜか素直に納得して。


 反転しサファイヤの輝きになった時、僕の身体から湧き上がった聖なる力はそれまでの力の比ではなく。

 この魔王城全体を浄化して魔を消し去った。


 魔王アンゴルモアは消失し、この世界から脅威は無くなったかに、見えたけど。





「人には綺麗なところばっかりじゃないからね」


 アキラはそういうと、僕の手を引いて。


「さあ、行こうか」


 と歩き出した。


 僕に向けてくれたその笑顔が、綺麗だった。



 Fin

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