第四話 恋人なの?
俺こと
日本人の父親とドイツ人の母親からその血を受け継ぎ、
しかしそんなハナちゃんは重度のゲーマーであり、私生活においては俺がいないとなにもできない程の残念美少女。
例として挙げるならば、一人で着替えはできないし(主に寝ぼけているため)、食事もまともにできないし(主に寝ぼけて以下略)、登校だってままならない(主に寝以下略)。
そんな残念美少女なハナちゃんに世話を焼いているのは、可愛いから、幼馴染みだからという理由ももちろんあるが、それ以上に特別な感情を抱いているからに他ならない。
そしてつい先日、期せずしてハナちゃんも俺に好意を抱いていることが判明し、その日の内に……。
なんというか……ただの幼馴染みには戻れない関係になってしまったわけである。
だというのに、それ以来なにかが変わったというわけではない。
いつもどおりハナちゃんの世話をしているだけ。
それはそれで幸せではあるのだけど、年頃の男子高校生としては、もっとこう……恋人らしいことをしたいわけですよ。
具体的に言うなら、デートとか、キスとか……うん。
「すぴー……」
そんな俺の
ちなみに今は授業中である。
以前までは意識半分くらいは起きていたはずなんだけど、ここ最近は授業中だろうとお構いなく熟睡しているのが常となっている。
まぁどちらにせよ、あとで俺が授業内容を教えることに変わりはないんだけどね。
教師も注意するわけでもないし……いや、ハナちゃんに注意しないだけで、俺には注意してくるけど。
「ハナちゃん、最近いつにも増して眠そうだね」
昼休み——
「ん……ねむい……」
「眠れてないんだ?」
尋ねて炭酸飲料を口に含む。
「シューくんが、寝かせてくれない……」
「ぶっ!?」
とんでもない発言に思わず炭酸を吹き出した。デジャヴ……。
「おまえきたねーよ……」
いや、そんなことよりも。
「いつも十九時前には解散してるよね?」
「なるほど……学校終わってから十九時前までぶっとおしで……若いなぁ」
「勉強してるだけだからな!?てか同い年だろ!」
「『勉強』を口実にいたいけな幼馴染みにナニを教えているんだか」
「そういう勉強じゃねぇぇぇぇっ!!!」
ハナちゃんとエッチしたことは、くしくも互いの両親には知られてしまったが、それ以外には話していない。
彼女と初エッチした話を吹聴するような趣味は、俺にはないからな。
だというのに、駿輔はどうしてこうも突っ込んだボケをかましてくるのか……。
「深井さん。浅井が眠らせてくれないって、どういう意味なんだ?」
俺のツッコミを無視して駿輔がハナちゃんへ尋ねる。
たしかに。俺も先ほどの言葉の真意を知りたかった。
「……それは、言えない」
ハナちゃんにしては珍しく、教えるつもりはないらしい。
「シューくんになら、教えてもいい……」
なぜか顔を赤らめて言うハナちゃん。
いったい何を教えてくれるつもりなんだ……。
俺が動かずとも、ハナちゃんのほうから耳元へと顔を近づけてきた。
「思い出して、してるの……」
耳元で囁かれる。
思い出して、してる……?
「してるって、何を?」
いまいち意味がわからず尋ねる。
何を思い出して何をしているのか……主語がはっきりしていない。
「すぴー……」
寝てしまった。
そこまで教えるつもりはない、ということだろうか……?
まぁハナちゃんのことだし、ゲーム関連のことなのだろうけど。
「そういや、深井さんってゲーム好きなんだっけ」
俺の心の声を読んだ……わけではなく、俺の「してる?」の問いからそう連想したのであろう駿輔が尋ねてくる。
「ああ、うん。俺は一緒にしたことないけど」
「どんなジャンルやるんだ?ゲームにも色々あるだろ」
「前に聞いたときは『銃でぶっ○す』って物騒なこと言ってたな」
俺もゲームはするが、暇を持て余したときにするだけで詳しいわけではない。
「へー意外だな。FPSとかそっち系か」
「意外って、どんなゲームをやるイメージだったんだ?」
「そうだな……あ○森とか、ああいうほのぼのした感じのやつ。やってそうじゃん」
「たしかに……」
あ○森はやったことないが、CMでちょいちょい見かけるのでなんとなくは知っていた。
たしかにハナちゃんがやっていても違和感はなさそう。
「私、任○堂ハード、持ってない……」
気付けばハナちゃんが起きていた。小さな口で食べかけのチョココロネにかぶりついている。
どうやらあ○森をプレイするために必要なゲーム機を持っていないらしい。
そう言われれば、ハナちゃんの部屋はゲーマーの割に片付いていた。まぁ片付けているのはほぼほぼ俺なんだけど。
「プレ○テか、パソコン……」
「パソコンか……エロゲとかやってたりしてな」
駿輔が笑いながらそんなことを言う。
同級生の女の子相手に何を言ってるんだこいつは。
「コンシューマ版なら……」
いややってるんかい!
「パソコン版は、エッチシーンが長くて、眠くなる……」
「独特な意見だな……」
しかもパソコン版もやったことあるんかい!
「ハナちゃん、そういうことは答えなくていいから」
俺や同性相手ならともかく、男子相手にエロゲの話をさせるわけにはいかない。
「ん……?」
なんで?とでも言いたげに首を傾げるハナちゃん。
「は、ハナちゃんがエロゲしながらエッチなことしてるって男連中のおか……妄想のネタにされる可能性があるだろ」
「そんなん妄想してるのはおまえだけだろむっつり」
「よく、わからないけど……シューくんの、おかずにされる、なら、いいよ……?」
またしてもとんでもない爆弾を投下するハナちゃん。
教室内がざわざわと騒ぎ始める。
ハナちゃんは無自覚にそういう発言をするから困る。
「そ、それはまぁ……か、彼氏になら、いいのかもしれないけど……」
俺が言いたいのは、他の男にそういう話をするなってことであって、俺相手にはどんどんしてくれていいというか……。
「彼氏……?」
ハナちゃんが首を傾げる。
「シューくん……彼氏、なの……?」
「へ……?」
ハナちゃんの発言に教室内が一転して静まりかえる。
「え、いや、だって……え……?」
気持ちを伝え合って、エッチまでして……あれ?彼氏……で、いいんじゃないのか……?
「私、付き合ってって、言われてない……」
「……」
それは、たしかに。
具体的に付き合おうとか、恋人になろうとか、そういった話は一切していないけども……。
「エッチしたのに……言われてない……」
皆が静まりかえって俺たちの会話にそばだてている時に、その発言はあまりにもまずい。
「おまえ……付き合ってもいない女の子を無理やりヤッちまうとか……そんなやつだとは思わなかったぜ……」
「い、いや、無理やりじゃ……」
駿輔をはじめ、クラスメイトたちからの非難の視線が痛い。
どうにかして汚名を晴らさなければ……!
「ハナちゃん、その……無理やりじゃないよね?ね?」
俺の味方はハナちゃんしかいない——そう思ってハナちゃんに同意を求めたのだが——。
「押し倒された……」
ハナちゃぁぁぁぁん……!!!
たしかにそうなんだけど!事実しか言ってないんだけども!
でもそもそも、ハナちゃんがキスしてきたのが原因なわけで……って、好きな女の子を言い訳にするとか最低かよ!
自己嫌悪に陥る。
「シューくん……」
「な、なに……?」
今度はなにを言うつもりなのか……。
内心でハラハラしていたのだが——
「付き合お……?」
まさかの交際の申し込みだった。
ハナちゃんをはじめ、クラスメイトたちも俺の返事をまだかまだかと待っていた。
「う、うん……」
顔を熱くして頷く俺。
なんだこの公開処刑。
なにはともあれ、こうして俺とハナちゃんは正式に——
「んっ……」
「「……」」
ハナちゃんの突然の行動——キスに、俺を含めたクラスメイトたちが
「シューくんは、私のもの……」
ぎゅっ!と俺の腕にしがみついてきて、大事なおもちゃをとられたくない子供みたいに主張をするハナちゃん。
それに対し、クラスメイトたちからは——
「「知っとるわ!!!」」
総ツッコミをくらったのだった。
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