俺「異世界から来られても俺には何もできないんだよ。だからカップ麺食べて帰れ」

飛騨牛・牛・牛太郎

第1話


 まぁ想像しなさい。

 一人暮らしのワンルーム、夜の12時手前、夜食で食べるために買ってある即席めんとして赤いきつね(※カップうどん)と麺づくり(※カップ麺)が目の前にある。

 どちらを選ぶか。

 

 俺は間違いなく麺づくりだね。特に担々麵が好きだ。



 特にあのピリ辛程度の辛さがよい。とにかく辛いだけの担々麵など食べれたものじゃない。

 食べた後はおにぎりを入れてだな、おじやにしたりする。

 これがまたうまいんだ。

 それに比べて赤いきつねにおにぎり入れてもうまくない、いや普通にうまいな。

 でも俺、うどんよりそば派なんだ。赤いきつねは特売で安かったから買ったというだけでそこまで好きじゃない。



 まぁいい。こればかりは人の好みだ。とやかく言うものではない。

 なので好きな方を選びなさい。俺は麺づくりを選んだ。

 じゃぁもう一つをどうすか、しまっておく、明日の夜食にする、まぁこれが一般的な答え。

 もしくは友人なんかにふるまうという人もいるかもしれない。一人暮らしでもそういう機会はあるだろう。

 俺なんかがまさにそうだ。

 異世界転生してきた少女にとりあえず赤いきつねを食わせることになった。

 



「それで、異世界から来たんだよな」


 二人分のお湯を沸かしながら女の子に話しかける。


 アニメ漫画に特別詳しいわけではないがこんなサイトで面白くない小説など書いてるわけで、異世界転生だの異世界転移だの言う言葉はしっている。

 よりによって家の前に座り込んでいた少女、警察に通報する前に話をつけようと話しかければ異世界から来た、おなかがすいている、助けてくださいという事。だからカップ麺くらいはという事で家に入れた。

 世間一般の常識というものがある以上異世界だの言われても信じないのが普通だが、女の子の恰好や言動、その他もろもろで異世界から来たと判断させてもらった。


「そう、なんです。ご迷惑おかけして申し訳ありませんが」


 短編小説なのだ。詳しい説明は省かせていただく。


「迷惑も迷惑だよ。君ね、なんで異世界転生したんだい?」

「いやその」


 言いにくい話なのだからか言い淀んでいる。

 しかしだ、こうなっちまった以上話してもらわないことこちらも困る。


「家族と、喧嘩をしまして」

「はぁ、家出ってやつか」

「そういうことです」

「随分とダイナミックな家出だな。外国に逃げるとか、友人を頼るとか、そういう常識の階段をいくつも飛ばして来てる」

 そういう無鉄砲なことをできる年ごろという事だろう。俺はそういう事も出来なかった。

「そうですか」

「そうだよ。自覚はあるんだろう」

 そこで湯が沸いた。



 たまに三分じゃなく一分間でいいってカップ麺がある。

 逆に5分まてというカップ麺もある。

 しかし多数派は3分だ。なぜかは知らない。



「どうして喧嘩したんだ?」

 少女をテーブルの近くに座らせて三分間まつ。

 テーブルの上には赤いきつねと麺づくり(担々麺)。

「いう必要、ありますか」

「ないね。どうせどうでもいい理由さ」

「なぜ、そう?」

「どうでもよくない理由ならあんたを追って誰かが探しに来る。警察とか、あんたの家の人とか、そういうのがね」

「そう、なんでしょうね」

「そうさ」

 そして沈黙。

「確かに、どうでもいい理由です。学業の事で喧嘩しまして。両親は女子学院に入れたいといっていますが、私は魔法学院って将来は働きたいと」

「魔法学院とか言われても俺は知らんのだよ」

「あ、すいません」


 そこで三分間たった。

 カップめんの三分間というのはちょうどいいから多数派なのだろう。



「食べろ。カップ麺にしてはうまいぞ。定番商品だ」

 コンビニでもらったプラスチックのフォーク、断り切れずとりあえずもらってしまうのだが使わないから部屋にたまる、を渡しながらそう言った。

 俺は同じ理由でため込んでいる割りばしである。

「ごちそうになってしまって、ありがとうございます」

「いいって。カップ麺くらい」

 俺は中の小袋を入れてまぜる。いい匂いだ。これがいいのだよ。

「じゃぁ、いただきます」

「いただきます」


 ずるずると食べながら、俺は話を続ける。

「君が何を考えてこの世界にきたのかとか、そういう話を聞くべきなんだろうけど、まず野暮ったい話をしなくちゃいけない」

「なんでしょうか」

「君がなぜか家の玄関の前に現れて、困ってる、おなかがすいたというからこうやってカップ麺を食べさせているわけだが、俺にできるのはせいぜいその程度だってことだ」


 少女は揚げを噛み切りながら俺の話を聞いている。

「世間には邪な男や常識がない男がいて、家出少女を部屋に住ませたりするなんて話もある。君も多少は知ってるだろう」

「えぇ、まぁ」

「でも俺はそういう冒険をする気はないんだよ。腹が減っている家出少女を家にあげて赤いきつねを食べさせるくらいはしてもいいと思ってこんなことしてるけど、これ以上のことはできないし、親元の許可なく少女を部屋に泊めるとかそういうのはするべきじゃないと思ってる」


 ずるずるくちゃくちゃと二人で麺を食う音だけが響く。


「本来なら警察、わかる?、まぁ役場の人間って公的機関に引き渡して適切な解決策を講じてもらうべきだ。君がこの世界の住人で、俺をだますために異世界から来たとかいってるならそうしてただろう」

「わかります」

 夢も希望もない。

 けれど俺は俺なりの現実つうものがある。

 社会とか法律とか常識とか、個人的な良心とかそういう面白くないものだ。

「でも君は本当に異世界から来たようだ。そうなると警察に突き出しても解決どころかややこしいことになるだけだ。そうなるとさ、家から出ていけあとは知らないって追い出すか、見ず知らずの少女だが我が家で面倒見てやるって家に住ませるかって二択なわけよ。非常識な判断か非常な判断の二択さ。でもね、どっちも俺は嫌だよ」

 黙ってしまった。


「家出の原因は君の将来の事だ。確かに一大事だし、悩むことはあると思うよ。その点についは俺は無責任になにか言えない。じゃぁ責任ある大人としていうべきことはなにかってなると、家に帰って家族としっかりと話し合いなさい。って君みたいな無鉄砲な若者にとっては面白くないきれいごとになるんだよ」

「そう、ですか」

「そうさ」

 俺は麺づくりを食べ終えてた。

「それに、君みたいな異世界からきて右も左もわからない少女がさ、ここで生きていけるのかい?」

「それは、無理です」

「わかってるじゃないか」

 彼女も赤いきつねを食べ終えたようだ。つゆまで飲み干している。


 さすがにカップ麺だけじゃぁなんだ、という事で家にあったお茶のペットボトルも渡す。

 彼女はそのペットボトルを物珍しそうに見ながら、何か考えていた。

「君は無鉄砲に飛び出してきただけなんだろうけど、子供が無鉄砲なのは今に始まったことじゃない。家族だって無事に帰ってくるなら一晩二晩無断で家出した程度じゃそこまで怒らないさ。家に帰って、両親と話し合って、必要なら第三者にもお願いして、納得した結論をだしなよ。少なくともこの世界で生きていくよりはそっちの方がいいはずだ」

 そして決断。

「わかりました。家に帰って、両親と話し合います」



「ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」

「いいさ、カップ麺食わせた程度だもの、それより心配をかけた人々に謝りなよ」

「わかりました。このお礼はかならずさせていただきます」


 別に気にしなくていい、そう返そうとしたら、彼女はもういなくなっていた。

 残っていたのはつゆまで飲んだ赤いきつねと麵づくりのごみだけ。

「世の中そんなもんとはいえ、もっと冒険に踏み出せる性格ならよかった」

 俺はそう言ってカップ麺のごみをごみ箱に放り込んだ。


 そうは言ってこれが性分なのだ。どうにもならない。


 夜食を食べ終えてすぐ寝るのは健康に悪いんだろうが、もう何もする気がわかない。

 時間としては12時を過ぎたころ、俺はベットに入って眠りについた。


終わり

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俺「異世界から来られても俺には何もできないんだよ。だからカップ麺食べて帰れ」 飛騨牛・牛・牛太郎 @fjjpgtiwi

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