第二話
あー、やっと終わった!
わたしは空っぽになったゴミ箱を抱えて教室のドアを開けた。
ゴミ箱を置いて、わたしは鞄を取りに行く。
窓から見える夕焼けの景色は、一日が終わったように見えて、切なく感じる。
不思議だな。
いつだって空はわたしにたくさんのことを考えさせる。
近づいてきた高校受験のことや、定期テストのこと。夢のことだって、わたしを追い詰める。それが恐くて、遠いところへ逃げ出したい気分になる。
紺色の鞄を背負い、最後に忘れ物を確認して教室から出る。ボーっとしながら廊下を歩いていると、突然、何かが正面に当たった。
「うわぁっ!?」
わたしは小さな悲鳴を漏らして、足を浮かせた。
危なかった……。
もう少しで床に倒れるところだった。
「愛華?」
「えっ小雪!」
何と、ぶつかってきたのは小雪だった。
小雪は目を丸くしていて、わたしも目を丸くする。
「あー、えっと小雪は大丈夫かな」
「大丈夫。何か愛華、眠たそう?」
「そうかな」
小雪と顔を合わせることが少なくなったせいで、声が籠る。喉から明るい声を出そうと思ったが、突然にできてしまった空気だから、はっちゃけることが出来ない。そして、あちらも何かを言いたげな様子でズシリと重たい気分になる。
「それじゃわたしはここで……」
「ああ、待って」
このままでは、帰る時間が遅くなるから、小雪に別れを告げようとしたところで、そこで小雪がわたしの言葉を遮る。
「え?」
「愛華は前言ってたオーディションは、受かったの?」
ああ、小雪にはまだその話はしていなかったか。
落ちたって言ったら、また気まずくなりそうだな……。
嫌だなと思いつつも、わたしは「落ちちゃった」とできる範囲の笑みをとっさに浮かべた。
本当は合格して、小雪に良かったねと嬉しがってもらうつもりでいたのだが、それは叶わなかった。
「……愛華はすごく頑張ったんだと思う。小さい頃から前向きな性格だったし、諦めたりしない、負けず嫌いなところもあったから、わたしは悪く言わないから」
(こ、小雪ぃ…………っ!!)
優しい。本当に優しいっ!
目が潤おって、思わず小雪の頭をくしゃくしゃに撫でてしまう。
何故、小雪は恐がられるんだろう?
たしかにツンとしてるけど、可愛いところだっていっぱいあるもん。
「そ、それで決めたんだけど」
小雪はわたしに頭を撫でられながらも、頭を上げて言った。
同じくらいの身長なんだけどね。
大体、二人とも157cmぐらいなんだけど。
「わたしとオーディションを受けてみない?」
え。
えぇっ。
ええええええええぇっ!?
それからどうやって家に帰ってきたのか分からない。まるで、告白された気分で、頭が上手く回らない。考えておいて、そう言われて小雪が背中を向けて、多分帰っていたのだろう。
急に降ってきた誘いの言葉が何度も蘇る。
けれどもそれはよく考えれば―――――――
( わたしが言ったことと同じだっ! )
それじゃあ、小雪はわたしの提案に賛成してくれたってこと?
つまり、落ちたわたしを気の毒に思ってくれたの?
勿論、小雪への答えはYesに決まってる。
オーディションを受けて、二人でアイドルデビューを達成したい。
小さい頃からの夢を小雪と叶えるんだ。
絶対に!!
秘密のピアニッシモ 綾音 リンナ @akanekorin
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