モテない陰キャなモブ令嬢のあたしですが魔法少女になれますか? 〜魔女じゃないです魔法少女なんです!! ってなぜか王子様に溺愛されてるんだけどこれって夢ですよね!!

友坂 悠

魔女じゃないです魔法少女なんです!!

 バン!


 大きな音が響く。

 背後の扉が閉められた音。

 パーティー会場から連れ出されたあたし、大勢のお嬢様たちに囲まれて。




「あなたなんかこの学園から追放よ!」


 ストレートな物いいでそう言い放つ目の前の令嬢。


「ちょっと待ってください。いきなりそんなこと言われても」


「いい加減目障りなのよ。元々この学園は貴女みたいな貧乏な娘が入学できるところじゃないのよ!」


「そうよそうよ! 伝統あるセントレミー学園をなんだと思っていらっしゃるの? そもそも何? そのドレス。ツギハギがしてあるじゃない!」

「いつもの制服姿だってそう。ブラウスだって何度も洗ったのか糊が取れて襟がヨレヨレで。あー嫌だ嫌だ。こんな子が栄誉ある学園の同窓生だなんて。わたくしたちの学年の恥だわ」

「だいたい貴女、お父様がいらっしゃらないんでしょう? それなのにどうやって入学できたのかしら。どうせ不正を働いたに違いないわ!」

「それに貴女、そもそもそのちんくしゃなお顔でよくも今日のパーティーに来れたわね。大方玉の輿狙いなんでしょうけどあなたみたいな子相手にする殿方なんかいらっしゃらないわ。残念ね!」


 いつも以上にお嬢様方の遠慮のない罵倒が続く。

 お父様のことを持ち出された時には心の中がキュッとなって一瞬黒いシミが湧いてきそうになったけれど深呼吸してなんとか抑え込んだ。

 危ない危ない。

 心の平穏を保たなければ。


「でもエーリカ様、追放って言われても困ります……」

 いくらエーリカ様が侯爵令嬢だからって、そこまでの権限はないはず?

 うん。多分、ないよね?


「きー! 口答えなさるの!? その辺は貴女の自主退学ということにしておけばいいでしょう!」

「流石に、困ります、そんな」

 せっかくお父様が残してくださったお金で入学したこの学園。ここを卒業するのは亡くなったお父様との約束だった。

「あたし、お父様と約束したんだもの。頑張ってこのセントレミー学園を卒業するんだって」

 我慢ができなくて涙がホロリと溢れた。

 お嬢様方もちょっとざわっとして、顔を見合わせている。


 でもエーリカさまだけはますます興奮の度合いがひどくなって。

「まあ泣けばいいと思って。とにかく貴女、気に入らないのよ。あなたを見ていると心の奥から黒いもやが湧いてきてしょうがないの!」


 え? 黒いもや?


「エーリカ様! 落ち着いてくださいませ!」


 癇癪を起こしたように叫ぶエーリカ・マフガイア侯爵令嬢さまに周囲の令嬢たちも目を白黒させ。

 宥めようとする方も数人そう声をかけるけれど。


「あなたたち! わたくしは間違っていませんわ! この魔女をここから追い出さなければいけませんのよ!」


 そう歯を向いて叫ぶエーリカさま。


 ああ、どうしよう。

 これはまさか。



「何をしている!」


 扉が開いて。数人の護衛騎士に囲まれ現れたのはジルベール王太子殿下だった。


 まだパーティは続いているはず。今日は一年に一度の学園祭。その後夜祭のダンスパーティが行われている真っ最中で。

 普段はこんな催しには参加することがなかったあたしもジルベールさまにぜひにと誘われて参加してみたんだけど。

 ちょっと失敗だったかな。

 あたしみたいな陰キャなモブが参加するような会じゃなかった。


 ダンスの前におこなわれていた立食パーティーで令嬢のお嬢様たちがきゃらきゃら笑顔で談笑している中もちろんそんな明るい場に入っていけるわけもなく隅っこでおとなしくお食事を摘んでいただけなのに、それすらも気に入らなかったのか。

 ダンスがはじまった途端、一番にジルベール殿下に手を引かれ。

 なぜかあたしなんかが殿下のダンスのお相手をさせられたのが気に障ったのか。


 殿下が他のお客様たちと雑談を始めた隙にあたしはエーリカさまたちの一団にそのままこの隣の控室に拉致されて、今に至るわけだけど。



 まあでも?

 彼女たちの言わんとすることもわからないでもないのだ。


 あたしのお母様は実はこの世界の人間じゃなかった。

 召喚された異世界人っていう立場?

 それもこのあたしたちの世界の人間とは少し人種が違うっていうか。

 どう言ったらいいのかな?

 お顔の造作が違うっていうのか。

 なんというか、幾つになっても子供にしか見えない、のだ。


 そんなお母様。


 かつて光の聖女と呼ばれたお母様。異世界から召喚された彼女は勇者と共にこの世界を救ったのだった。


 そして。


 その娘であるあたしは……。


 人と違う髪色。鼻ぺちゃな顔。

 決して美人な部類にはみられないそんなコンプレックスの塊。

 だったので。


 そんなあたしがそもそも殿下とダンスをした、だなんて。

 こんな奇跡。夢みたいなこと。あたしだって信じられないのに。

 彼女たちが怒るのも無理はない、そうは思ったの。



 あたし、ルリア・フローレンシア。

 王子様を夢見る少女、な訳なくて。

 あたしみたいな人とは違う普通じゃない容姿の人間にまともに恋愛なんかできっこない、そう卑下して生きてもう十五年。

 学校でも隅っこで勉強だけ頑張ってるそんなひっそり目立たずがモットーで。


 でも。


 やっぱり泣いちゃうこともあるんだよね。


 そんな時現れた王子様。


 第一王子、ジルベール・ド・オルレアン。

 王弟、アーサー・ユーノ・オルレアン。

 二人の王子様に翻弄されながらすごすうちに少しづつ自分に自信ももててきたところなんだけど。


 それに。


 この世界にもまだ秘密があるみたい。


 あたしのチカラも人とはなんだか違ってて……。





「瘴気があるな」


 周囲を見渡した殿下がそうぼそっと言った。


 やっぱり……。


 エーリカさま以外の御令嬢たちは流石にしゅんとして、隅に下がっている。まあ殿下の前で不敬はできないってわかってるよね? ちゃんと理性がある証だ。

 でも。


「キャー!!」

 興奮が頂点に達したのかエーリカさまは口から泡を出し鬼気迫る表情で声を張り上げた。


 いけない。このままだと魔に飲まれてしまう。


「殿下、すみませんあたし」

「ああ、ルリア。頼む」


 あたしは右手を真上に掲げ。


「マジカルレイヤー!」

 と叫んだ。

 金色の粒子があたりを覆う。


 こっそり認識阻害の魔法も起動して、あたしはその掌の先にマナのレイヤーを描く。

 天使の姿をイメージしたそのマトリクスを描いたレイヤーは、ゆっくりとあたしにかぶさるように降りてきて。


 そして。

 その円形のマナの膜が足元まで降り切った時。

 あたしの姿は変わっていた。


 白銀の髪には黄金のティアラ。

 白いレースのふんだんにあしらわれたドレスには所々銀の防具がかぶさって。

 背中には純白の羽根が広がり。

 足元にはやっぱり白がベースの編み上げブーツ。

 胸にはお母様から頂いたアメジストのペンダントが光る。


 そして右手に持ったお気に入りの杖を一振りしたあたし。

 そのままふんわりと飛んでエーリカさまに近づいた。


 まあこの姿なら魔女には見えないだろう。実はさっき魔女って言われてちょっぴりショックだったけど。

 あたしは魔法少女だもの。魔女じゃないもん。


 やっぱり魔女って言ったらあまり良くないイメージだし?

 だからこその造語。

 まあこのいつまで経っても子供のようにしか見えないお母様からの遺伝の賜物があるから少女って言ってもいいよね?

 お母様なんか今でも少女で通用するような容姿だし、さ。


「キー、オマエ、ニクイ。オマエ、コロス!!」


 あうあうエーリカさまだめだよ。

 もう完全に魔に飲まれて半ば化け物のような容姿になっているエーリカさま、あたしに向かってその右手を振り上げ下ろす。


 その動きはもう人間離れした速さと威力で。

 あたしがさっと左に避けたせいで床に思いっきりぶつかったその手、床材を完全にぶち抜いて穴を開けちゃった。


 まずいな。


 このままじゃ彼女の精神だけじゃなくって身体までだめになっちゃう。


 あたしは彼女が振り回す両手をなんとか避けながら血だらけになっていくその両手に回復魔法をかけて。

 倒すのが目的じゃ、ないもの。

 なんとかエーリカさまの間合いに入りさえすればーー


「マジカルウィップ!」

 杖からマナの鞭を形成してその鞭で網を作る。


 魔獣相手ならもっと簡単なのにな。そう思いながらなんとかその網で彼女の両手を拘束して。

 胸元に飛び込んで抱きしめる。

 暴れる足を引っ掛け押し込みそのまま倒し。

 そして額のティアラを彼女の額に押し付けた。


「プリフィケーション!!」


 あたしは自分のマナを彼女の魂に注ぎ込み。そしてその心の中心に巣食う漆黒の靄を浄化する。


 最初は苦しそうに暴れていたエーリカさま。

 しばらくしてぐったりと気を失ったように静かになって。


 ああ、これで大丈夫、かな。


 あたしもそう安心したところで。安心したから余計に気が緩んだのか。そのまま意識が遠くなった。ちょっと、マナを、使いすぎた、かな……。




 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎




 はっと気がつくとそこは真っ白な天蓋のあるフカフカのベッドの上、だった。


 見知らぬ景色……。


 天井には白銀のシャンデリア。

 ドアの彫刻も、床に見える真っ赤なベルベットの絨毯も。

 全てが高価なものに見える。


 まるで別世界のような……。


「ここは、どこ……?」


 身体を起こして周りを見渡し、そう呟いた。





 カチャン

 とそう扉が開いて。


「気が付いたか? ルリア」

 そう優しい笑顔で入ってきたのはジルベール殿下で……。

 え、と。

 これは、夢?

 あたし、おきたつもりだったけど、夢を見てるの?


「あたし、夢でも見てるんでしょうか……」

 もう、素でそんなセリフが出ちゃったあたし。


 一瞬呆然とした殿下、ふっと吹き出して。

「はは、夢じゃないよ。ルリア、ありがとうね」

 なんとか笑いを堪えながらそう言う殿下。


「魔と化したエーリカ嬢を浄化した後気絶した君をここに運んだのだけど」

 そうこちらを覗き込み、あたしの額に触れるジルベールさま。


「熱はもうないね。よかった」

 と、にっこり笑って。


 はう、あう、もう。

 近い、近すぎますジルベールさま!

 あたしの顔はカーッとのぼせたように真っ赤になって。


 もう一度ベッドにダウンした。

 もう、だめです。

 こんなのあたし、だめ……。



 キュウっとそのまま気絶したあたし。

 殿下のルリア!って呼ぶ声だけが最後に聞こえた気がした。


       fin






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