謹慎部屋に行った後で

 他人の思い出話に、思わず新鮮な感想が漏れてしまう。

「理不尽な」

 声に出てしまった瞬間、天束の飴色の双眸でパチンッと光が弾けた。

「よかった、笈川くんならそう言ってくれると思った」

 俺の放った一言は、意図せず何かしらを判断するリトマス紙になったらしい。

「私たちが反省部屋に連れて行かれるのを見て、その景色に何の疑いも抱かないまま通り過ぎるような連中ばっかりでさ。可愛い見た目の女子高生が可愛い格好をしているっていう設定だけしか見えなくて、私たちが話してる内容に違和感を抱いて立ち止まって考えてくれる人なんていないんだよ。って、まぁそんなことは君に言ったって仕方がないんだけど」

 まっすぐにこちらの目を見据えながら、天束は一言ずつ噛みしめるように語る。

「視聴覚室に入れられてさ、じゃあ私たち全部自分でやりたいって思ったの。私たちのことを全然読み取ってくれない人たちに介入されるくらいなら、ビジュアルも宣伝も何もかも、どう売るかは全部自分で決めたい」

 天束はあっけらかんと笑う。

「だから謹慎部屋の中で、全部やっちゃった。女子のグループチャットで呼びかけたら、結構みんな協力してくれたんだよね。チュロスを揚げる機械を一つ拝借して、仕入れたチュロスを三分の一くらい分けてもらって、視聴覚室で非公式のチュロス屋さんをやることにしたの」

「待てよ、どうやって謹慎部屋に機械とかチュロスとかを持ち込んだんだ?」

「分かんないかなぁ、笈川くん。私たち女子はちょっと派手な格好をするだけで、速攻で先生たちに注意されるんだよ? 謹慎部屋に収容されるのは楽勝なんだよね」

 楽しそうに瞳を輝かせながら、天束は流暢に語った。

「協力したいって言ってくれた女の子たちで、わざとスカートを短くしたり盛り髪にしたりして先生たちに注意されて抵抗したの。そうすると簡単に謹慎部屋に連れてこられるでしょ? 荷物の中に持ち込みたいものを隠して、めちゃくちゃ派手で可愛い格好した密輸人が視聴覚室にじゃんじゃん入ってきたんだから!」

 俺は想像する。教師が眉をひそめそうな自由な格好で視聴覚室に押し込まれた女子が、周囲の女子の拍手と歓声によって迎えられて得意げに密輸品をテーブルに並べる光景を。

「ついでに放送部の女子に、視聴覚室にあった音響機材とスマホを繋いでもらってさ。DJアプリも落として即席DJになって、チュロスパーティーをすることになったの。先生たちが声を掛けたくなるくらい自由な服装っていうドレスコードさえ守れば、誰でも参加できるパーティーだよ。誰かがSNSにアップしたら女子生徒の間で話題になったっぽくて、もう次から次にお客さんが来てくれたんだから」

 お客さんという呼び方に違和感を抱いていると、天束は察したのか「ああ、そうだね」と肩をすくめた。

「参加費はもらってないから、お客さんっていうよりは全員がキャストみたいな感じかな。チュロスがなくなったら頼まなくても誰かが揚げてくれたし、飲み物も気を遣わず自分で自分のもん注いでたし、差し入れのおやつも誰かが配り歩いたりしないで勝手に食べてたし」

 楽しかったなぁ、と天束が呟く。切実さすら滲んだ一言は、痛いほどに彼女の本音なのだろう。

「私たちが自力で作り出した世界はこんなにも最高なのに、壁一つ隔てた外の世界には一切その最高さが伝わらないし、読み取ろうともしてもらえない。だから『またやりたいね!』って言いづらかったんだ。二回目もやろうね、って。でも――」

 彼女の明るい色をした瞳が、不意に俺を射すくめる。

「外の世界に一人でも、私と同じようにこの世界を受け取って、感想を抱いてくれる人がいるだけで『またやりたい』って思えるの。絶対やらなきゃ、って思っちゃうの」

 だからね、と天束は畳みかけた。

「今年の文化祭でもし余裕があったら、私のやることちゃんと見ててね。今度また服を着替えろって言われたら、今度は視聴覚室になんか行ってやらない。校庭のど真ん中でパーティーしてやるんだから」

 だからちゃんと見てて、と念を押されて、俺は気圧されながら頷いた。確かに天束涼は、本来なら謹慎部屋に押しやられるような人間ではないのだ。

「分かった。楽しみにしてる」

 そう言ったら、天束は満足そうに頬を緩めた。

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お姉ちゃんといっしょに異世界を支配して幸せな家庭を築きましょ?【増量試し読み】 雨井呼音/MF文庫J編集部 @mfbunkoj

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