憂鬱
白川津 中々
■
「マティーニ」
「かしこまりました」
メカバーテンダーがメカマティーニグラスへ酒を入れマティーニを作っていく。モーター音を響かせながらファーストビルドもリンスも完璧にこなしできあがる完璧なマティーニ。誰が飲んでも非の打ち所のないカクテルがメカニクスに注がれる。味は間違いない。一部の不備もないのだからしくじりようがない。
だが、できあがったマティーニを飲む人間の顔に喜びはない。それもそのはず。この男は前年までカウンターで酒を出していたのだがメカバーテンダーの導入により失業。今ではメカニクスバーテンダーの部品を作る工事で油に塗れているのだ。喜べようはずもない。しかし。
「美味い」
一人語ちる男は沈むオリーブを眺め、震える唇で二口目を迎えた。グラスを持つ手は汚れている。これまで酒を作っていた手や指とは違い、黒く、黒く……
「ごちそうさん」
金を払い男は店を去る。その目に宿る憂いは、機械には分からない。
憂鬱 白川津 中々 @taka1212384
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