第16話 コンドルの狩り時

クロエは敵組織が作った山頂の要塞に向かった。

サマンサも敵の状況を探るため別行動になった。

ステイシーは要人暗殺活動にでることになった。


「クロエもサマンサも自分のやることに忠実だな~」


ステイシーは海岸線で別れたあと、敵の技術者である要人暗殺を狙っていた。

クロエにとっても有益な行動で、これから彼女に行く手を阻むであろう新型兵器を整備不良に陥れることが出来る。

クロエよりも機械に詳しいステイシーにとっては、破壊工作も、情報抜き取りもお手のものだ。

出来れば最新兵器の実戦データが欲しい。

解析が出来れば前線で戦っているアメリカ軍兵士たちに大きな貢献ができる。

その兵器についての機密情報を握っているのがブラックマンバから派遣された技術戦闘員だった。


「情報によると、エンジニアは女らしいね。それもまだ若い。へ~マサチューセッツ工科大学卒か~お勉強ができるんだね~。何でブラックマンバなんかに入ったんだろう」


ステイシーはスマホに入力してある敵技術者の情報を見ている。

そこには若い女の写真が表示されていた。

ブラックマンバの技術研究者で、工学博士の称号を持つエンジニア。

技術者の身分だが、戦闘訓練も受けているらしい。

ただ物ではない。

美人だが、どこか無機質な顔が印象的な女だ。


「さすがブラックマンバ構成員だな。でも、負ける気はしない」


ステイシーはクロエの作戦行動に合わせた連絡によって、段取りを肉付けしていく。

定期的なスマホのメッセージは、まさに生命線だった。

クロエの迅速な進撃についていくのは並の兵士には到底不可能だ。

マーキングするのは、クロエやサマンサの行動範囲とその周辺地域、そして自分の進行ルートだ。

ふとスマホを見ると、山頂に向かったクロエからのメッセージが受診されていた。


「さすがクロエってところかな。もう写真が送られてきてる。これは新型のヘリコプターか。連中も金に物を言わせて何でもやってるな~」


ステイシーのスマホにクロエからの連絡が入っている。

クロエは山脈の中継基地に向かう途中の坂道で見つけた新型ヘリの写真を収めたようだった。

戦闘が行われた痕跡も残って、黒煙が立ち上っていた。


「相変わらず容赦ないな~あの娘は。」


ステイシーはクロエに気を付けてと返信すると、ブラックマンバの技術者に画面を戻した。

彼女がクロエがいる山の小要塞とも呼ぶべき基地を守る兵器に関係しているのか。

トップシークレットによると、ブラックマンバの最高幹部・アビゲイルの技術スタッフをも務めているらしい。

組織での役割は、兵器の整備だった。

最新鋭のハイテク機械の武器も簡単にメンテナンスしてしまうのだとか。

恐ろしいエンジニア兵士だ。


「私はこの娘の足取りを追わないと。放っておくと新しい兵器とかを作られそうだしね。


ステイシーはスマホの画面に表示された資料をタップする。

そこには、さらに詳細な技術者の情報が掲示されていた。

名前はアリサ・ウィリアムズと表記されていた。

彼女がこのアマゾンにいるということは、組織の秘密兵器が運び込まれているということに他ならない。

それが意味するものとは…

ステイシーは、その全てを悟り考え込む。


「クロエが送ってきた新型ヘリはただの序章に過ぎない…本当はもっと高性能の兵器があるはず。それを探さなくちゃね。」


アリサは相当な切れ者で、各国が驚嘆するほどの兵器を作り上げる。

その技術力の高さはブラックマンバの戦闘力を支えている。

まさに鬼に金棒だ。


「アリサを上手く捕まえて、情報を聞き出さないとな。場合によっては暗殺しろっていうけれど、あれほどの頭脳を消すのはもったいないような気もするな」


ステイシーは対アリサ作戦について不満も抱いていた。

これほどの頭脳を持つ技術者をもしもの場合は殺すというのは忍びない。

もっと良いことに応用できるのにと感じていた。


「まずはアリサがいるとされる前線基地にある整備棟に行ってみるか。」


ステイシーは、アリサが最近目撃されたというここから南西のジャングルにあるゲリラ部隊の前線基地兼整備棟に向かうことにした。

最初は情報収集からだ。

敵の匂いを肌で感じる。


「アリサは技術専門職とはいえ、ブラックマンバの中枢メンバーの一人だ。油断はできないね。」


ステイシーはスマホに映るアリサの情報を分析しながらルートを決めていく。

クロエの作戦に後々障壁を残すアリサの発明品を何としても破壊する必要がある。

彼女は心に友情を刻み付けて強敵が待ち受けるジャングルに分け入った。


「特殊生体兵器ではないとして、アリサの超人的な頭脳には何か秘密があるのかな。ブラックマンバに加入する以前の経歴は全て黒く塗られているけれど。軍の極秘研究所にいたとか」


ステイシーはブラックマンバ技術者・アリサに複雑な感情があった。

彼女の過去のパートナーはアリサが作った新型兵器に暗殺されていたからだ。

数年越しの答えを聞きたかった。


「過去との決別でもあるかな」


ステイシーはアリサの捕獲・暗殺の行動にでる。

それはまさに獲物を狙うコンドルのようだった。

ジャングルには深い霧がたちこめている。

それは行く手は阻むようでもあり、手招きしているようでもある。

ステイシーはここで自分の過去を超えようとしている。

クロエやサマンサとも因縁があるブラックマンバはステイシーとも深い因縁があるのだった。


「もう愛した男を失わせない」


CIA特殊工作員という特殊な環境に身を置く者としては、数少ないスパイ仲間だった愛しい男性たちは次々と命を落としていった。

全てアリサの技術が元になっていると考えいると、思いが交錯した。


「私はアリサに真意を確かめたい」


ステイシーは深いジャングルを遠く前線基地まで一歩一歩、歩いて行くのだった。

弾む胸には熱い思いが宿る。

行先は緑の魔境だった。

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ピラニア 九条祥貴 @wolffish95763

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