第37話 エピローグ
「洗い方は湿式洗濯のランドリーと乾式洗濯のドライクリーニングの二種類、これはテストに出るらしいぞ、あと繊維製品の取り扱い絵表示、これもすっげー重要だからな、全部覚えとけよ」
「う~、この絵わかりにくいよー」
「そうか? ほとんど見たまんまじゃないか、平干しなんて服の胸の所に『平』って書いてるんだぞ?」
「それはそうかもだけど、この洗濯機みたいな絵がちょっと」
「ああこれか、うーんじゃあこっちの意味はわかるか?」
「うん、液温は三〇度が限度で弱い手洗い……だよね?」
「はいよくできましたー」
頭を撫でてやると弥生は目を細めて幼い笑みを浮かべる。
「えへへ」
ちなみに今は朝の教室で俺らは隣同士の席をくっつけて勉強中だ。
「何あれ?」
「大麻ってあんなだっけ?」
「ちょっ違くない?」
「さっき新川が言ってたんだけどさ、大麻って双子のお姉さんいるらしよ」
「え? じゃあ」
「魔王ってあれお姉さんのほうだって、ついでに今アメリカ」
「なーんだ、そういえば大麻さんて特に問題起こしてないよね」
「噂は噂か」
なんていうか、いわゆるデレた大麻は先週までの魔王オーラなんて嘘のように消えてしまい、俺がちょいちょい姉ちゃんの間(ま)宵(よい)の話題を出すことで、弥生への誤解は徐々に解け始めている。
ちなみに……
「ダーリンがラブラブ!?」
「春人はボクの嫁だぞ!」
バカが湧いて出た。
「いや、別に俺ら付き合ってねーし」
「そ、そうよ、ただあたし、風邪でずっと学校休んでたから勉強教えてもらっているだけよ」
俺と二人で弁明する弥生。
そう、実のところ言うと、俺と弥生が付き合っているのはみんなには内緒という事になっている。
理由は、
『だって恥ずかしいじゃない』
らしい。
ただ本人が俺にデレ過ぎててバレるのは時間の問題だと思うのだが、本人に自覚は無いのだろうか。
「八軒(はちけん)! 先週窓ガラスを割った犯人が貴様だと密告があったぞ! それと白石(しろいし)はいい加減に男子の制服を着ろ!」
体育教師の吉田が教室に入って来て、二人の顔が青ざめる。
「やっば逃げなきゃ!」
「それじゃあねダーリン♪」
そのセリフを置き土産に、二人は揃って二階の窓から外に跳び下りて、吉田先生も迷わず飛び降りた。
俺の周りには超人が多過ぎる。
敷地内を走り回る三人を見下ろしながら俺はため息を一つ。
「あいつらもこりねーなー」
「はは、ほんとにね」
みんなのいる教室でも、随分と表情が柔らかくなったけど、そういえば俺まだあれ言って貰ってないな。
「なあ弥生ちょっと」
「なに?」
俺は小声で弥生にちょっとした頼みごとをした。
すると弥生はまた顔を耳まで赤くして固まってしまう。
「は、春人……それって」
「俺だけ言うのはズルイだろ?」
あれから間宵さんから電話があって、妹の事をよろしくと頼まれた。
大麻の姉に正式に頼まれた以上、これぐらい言ってもらう権利はあるはずだ。
「うぅ」
大麻は頬が紅潮させて、教科書で鼻から下を隠してから周囲の視線を確認すると、口元を俺の耳に近づけて、それでもさらにみんなに聞こえないよう教科書で俺と自分の顔を隠して小さく言った。
「大好きだよ、春人」
家政科高校の男子が女番長に料理を教えます 鏡銀鉢 @kagamiginpachi
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