第35話 エピローグ


「親父がいなくなった!?」


 包帯だらけの雅彦(まさひこ)は車椅子に座り、ベッドに寝る母にそう言った。


「ええ、昨日の晩にね」

「あんのクソ親父、連れ戻したと思ったらまたこれか……」


 額に血管を浮かばせながら雅彦が握り拳を震わせると母がほほ笑む。


「まあまあ、でも箱舟からは抜けるらしいし、今度はちゃんと週一でメール送って時々様子見に来るって約束させたから、ただ強い人探してブラブラするだけだから許してあげてね」

「……ったく、なんで母さんはそんなに甘いんだよ」


 息子に聞かれると、母は頬に手を当てて、


「そりゃあ、やっぱりお父さんの事好きだからかな」


 頬を染める母に辟易しながら、雅彦はがっくりとうなだれた。




「っていう事があったんだよ」


 麗華(れいか)の部屋で語る雅彦に、麗華は苦笑いを浮かべた。


「あはは、でもまあ良かったじゃん、とりあえずお母さん幸せそうなんだから」

「そりゃそうだけどよ」


 ソファに体重を預けて、雅彦は嘆息を漏らした。


「でも、退院したはいいけど俺、これからどうすっかな」

「何が?」

「初めて会った日にお前が俺にした質問だぞ、だからよ、俺って親父探すためにこの世界に入ったから、いざ親父が見つかったらどうしようか悩むんだよ。

 俺は親父と違って最強を誇示したいわけじゃないし、

 かと言って正義の為に、なんて熱血するガラでもないし、

 ほんと、これからどうやって生きたもんか……」


 天井を仰ぎ見た雅彦の顔を、麗華が覗き込む。


「じゃあさ、あたしを守るために生きてよ」

「はぁ?」


「だからさ、雅彦のお父さんが箱舟からいなくなっただけで、箱舟自体が無くなったわけじゃないし、あたしが箱舟とか、神宮寺財閥の敵対勢力から命狙われるのには変わらないんだから、雅彦があたしの身を守ってくれないと、あたしの幸せな学園生活を送るっていう夢が叶わないでしょ、だからあたしの夢の為にあたしを守りなさい」


「随分勝手な言い分だな……」


 雅彦が顔を白けさせると、麗華はほほ笑んだ。


「何言ってるの、これはあんたの為でもあるんだからね」

「俺の?」


「そうそう、今まで戦ってばっかの人生だったんでしょ?

 だから、あたしと一緒に楽しい学園生活送ろ、修学旅行に学園祭、高校には楽しそうな事がわんさかあるんだから、そういうわけだから、これからの三年間、よろしくね」


 麗華の眩しすぎる笑顔に、雅彦は息をついて、頷いた。


「そうだな……それも悪くないか……」

「そうそう……あっ、そうだ、そういえばまだ亜美ちゃん助けたご褒美あげてなかったわね?」

「お礼?」


 麗華がすぐ隣に座り、自分に抱きついてきて、雅彦は思い出した。


「いやそれは……」

「雅彦」


 赤面して、逃げようとする雅彦の頬に、麗華の唇が触れた。


「大好き♪」


 同時に、けたたましい破砕音が部屋を満たした。


「なっ!?」

「えっ!?」


 音が鳴ったのは、目の前の壁。

 丁度、隣の雅彦の部屋に隣接している箇所だった。

 その壁がブチ破られて、中からは大刀を持った航時と巨大アタッシュケースを持った亜美が流れ込んできた。

 壁の瓦礫の上にうつ伏せで倒れている二人は起き上がり、


「いやー、勢い余って転んじまったぜ」

「でもあれぐらい勢いつけなきゃこの壁壊せなかったよね」


 わざとらしく、ありもしない汗を腕で拭う仕草をして、二人は帰ろうとして、


「ちょっと待て」


 雅彦に肩を掴まれ、二人の体が止まる。


「お前ら何やってんだ?」

「えっ、いやそれがさー、この前俺言ったじゃん、壁ぶち抜いてお前らの部屋を繫げたらどうだって、社長に言ったら是非そうしてくれって言われてよ」

「だからって本当にやるな!」

「別にいいじゃねえかよ」

「倉島も止めろよ!」

「うーん、わたしも社長命令には逆らえないし……」


 しばらく言い争う雅彦と航時を見ながら、麗華は笑い、雅彦に後ろから抱きついた。


「ほら雅彦、友達も彼女も手に入ったし、あたしと一緒に青春しよ」


 言って、麗華は航時と亜美の目の前で雅彦の頬にキスをする。

 航時と亜美が驚いて、

 雅彦が赤面して、

 麗華は幸せそうに笑った。



                                終


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聖騎士団VS裏聖騎士団 現代裏闘技場 鏡銀鉢 @kagamiginpachi

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