第34話 ラストバトル
「くそ……!」
雅彦が体勢を立て直そうとして、それよりも早く雅時が迫り、雅彦はまた腹に衝撃を受けた。
広がる激痛、ただし、それは打撃の痛みではなかった。
「…………!」
「もっと賢く育つべきだったな」
雅時の黒剣が、雅彦の腹を貫いていた。
倉庫の壁に磔状態(はりつけじょうたい)になった雅彦の意識が遠のいていく。
「だが、敵がいかに強かろうと退けぬ精神は見事だ。やはりお前も俺と同じ、生まれついての闘士か、本当に惜しい……まあ、もし生きていたらまた挑め」
反応の無い雅彦にそう言って、雅時が黒剣を引き抜こうとすると、麗華が叫んだ。
「ちょっと待ちなさいよ!!」
「んっ?」
手を止めて、雅時が麗華を見る。
その迫力に、麗華は潰されそうになって、だが毅然として言い放つ。
「あんた雅彦の親でしょ!? 強い奴と戦いたいか最強を誇示したいか知らないけどね、なんの前触れも無く急に出てきたかと思えば親が自分の子を殺すなんて、あんた絶対に頭おかしいわよ!!」
血を吐き出さんばかりの叫びを、雅時は鼻で笑った。
「親? だからなんだというのだ、親子だろうが兄弟だろうが、それぞれが違う人格をもった別の人間だ、他人と何が違う?
それとも、学者連中が言っている見た事も無い遺伝子の繋がりがそんなに重要か?
戸籍という紙切れに記入された親子の文字そんなに大切か?」
「それは……」
「情とはその者と歩んできた道で決まるモノ、親子や兄弟だという理由だけで心が繋がっているなどと、決して思うなよ小娘」
「でも……」
そう言って、麗華は強い意志を込める。
「あんたは間違っている!!」
麗華の言葉に、最強の戦士雅時の顔が歪む。
「弱者を殺しても面白味は無いが……一度死んでみ――」
雅時の口が止まる。
自分の両脇腹を見ると、二本の両刃刀が斜め下から刺し込まれていた。
視線を上げると、口から血を吐く雅彦が虫の息で殺意を向けてくる。
「俺の勝ちだ……」
「ほお……」
満足げに笑う雅時の口からも血が溢れ出して、雅彦の両刃刀を体に刺したまま、真 後ろに倒れ込んだ。
麗華と、
航時と、
亜美と、
那智の目の前で、二人の親子は動かなくなった。
「雅彦!」
駆け寄る麗華の目から、堰(せき)を切ったように涙が溢れ出して、呼吸の止まった雅彦にすがりつく。
駆けつけた医療班に航時と亜美が叫ぶ。
医療班が雅彦の体を黒剣ごと担架に乗せて連れ去って行く。
医療班に押さえられても、
雅彦の姿が見えなくなっても、
救急車が見えなくなるまで、
麗華は、自分と同じ年にも関わらず、苛酷な世界に生きる青年の名を呼び続けた。
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