第4話カルデラの異変

こう言ってはなんだが、この世界の人たちはお人好しな人が異様に多い気がする。

あれから1週間たった。その間俺はベルさんの家に厄介になっていた。ベルさんは見ず知らずの自分に対して非常によくしてくれている。

どうか少しの合間でいいからご厄介させてくださいと言う自分の要望に対して心よく引き受けてくれた。もちろんその間水晶で得たお金を払ったが最初はそれすらも拒否されたくらいだ。


現在自分は昼にアイーシャと共にニギルの仕事の勉強を、夜はベルさんに一般常識と文字について学んでいる。


(俺の世界ですらいきなり押しかけて来た人にここまで色々してくれる人はいないってのに・・・)


とはいえ非常に助かるといえば助かる。

今俺は今晩の夕食に使うと言う魚を取りに川で釣竿を垂らしているが,おかげで色々と考えずにゆったりと過ごす時間をもらえている。


(ありがたいよなぁ・・・。)


元の世界でもこんなふうに川で釣竿を垂らしていた。あの時は娯楽として行っていた魚釣り。この世界では日々の食を支える大切な生活の一部である。


(こうして考えると現代人というのは働きすぎなんだな・・・。便利なのもいいけどそれを維持するのはまた別の大変さがあるもんな〜)


釣れたマスに似た飴色の魚から針を外して内臓を取り,編みかごの中に入れる。これで魚は全部で二十匹、これだけ取れればしばらくは釣りに来なくても大丈夫だろう。内臓は土や他のゴミと混ぜて肥料にする。

道具を片付けてベルさんの家の裏の像群に向かう。

何故家ではなく像へ向かうのか、それにはきちんとした理由がある。

20分ほど歩いた先、ベルの家の裏側のエジプト神話に出てくるアヌビスに似た像、その横に備えられた階段を登り胸に備え付けられているの中に入る。



そこはまるで、コックピットのような形をしていた。

「さて、と・・・」


釣れた魚をシートから生えている2の右側に突き刺す。すると次の瞬間、魚は凄まじい勢いでしぼんでゆき、やがて何日も干したかのような干物となる。


(巨大ロボット,かぁ・・・)



手を動かしながら1週間前のことを思い出す。










『な、これってコックピット!?』



『これこそある意味で本物のレグナント。あ、そこには座らないでね。干物になっちゃうから』


そう言って持っていたりんごに似たピンクのきのみを針に突き刺すと一瞬のうちにドライフルーツと化した。


『元々は戦争に使ってたのかもね。今でこそこうやって干物づくりの部屋に使ってるけど・・・。』



『これが・・・干物作りの部屋って・・・』


「・・・・」


あの時は表現できない気持ちを抱いた物だが,3回も使えばもうそれもすっかり消え失せ今ではちょっと便利な乾燥機程度にしか考えていない。


いや、それともう一つ。



「この像って多分だよなぁ・・・」


普段森の中をふらふらしてばかりとはいえ、一応ロボット大国といってもいい日本で生まれ育った男だ。

明らかに岩にしか見えないにも関わらず、胸の部分に棺桶の形とはいえ明らかに機械的な機構を持つコックピット、明らかにこれは像の中に何か入っている。


「それが4体も・・・」


他の奴はお腹に穴が空いて倒れていたり、四肢の一部が欠損していたりと様々だが,その傷口の蔦や雑草を剥がせばおそらく機械仕掛けの断面がみれるだろう。


『国とか、もっと偉い人に持って帰ってもらったりしないの?』


『あー、ダメなのよそれが。このレグナント針があるから。これのあるやつは乗れないから放置でいいの。それに装甲も石みたいだし脆いから』


笑うアイーシャを思い出して陸は目の前の2本の針を見つめる。


(・・・そういえばもう片方の針って・・・)


そこで陸はアイーシャからもう片方の針について全く聞いていないことを思い出す。

視線を針に向け少し考えた後、陸はその場にあった細い木の枝を持ちその先をツンツンと叩いてみる。

ツンツン   反応がない


ツンツンツン 反応がない。


ツンツ

次の瞬間、針の先から赤い液体が吹き出した。



「うわぁッ⁈」


突然の出来事に思わず悲鳴をあげ尻餅をつく陸。

液体はすぐ横のパネルの部分に付着する。幸い晴れていた時間がわずかだった為かわずかな量しかついていなかった。


「や、やば!」


すぐさま拭き取り証拠を隠滅する。昨日掃除したとベルが言っていたからおそらかこれを見れば流石に怒るだろう。幸いなので拭き取れる物であったためすぐに綺麗になった。


「・・・鉄の匂い?血そっくりだな」


すぐさま持っていた水筒の水で手を洗い流す。彼らだってずっと使って来た物であるから知っているはずで、そして大した毒などは含まれていないことは分かっているが,念のためだ。


「もうないよな・・・」


洗い残しがないことを確認すると、陸はすぐさま梯子を降りてベルの元へ干物となった魚を届ける。


「あ、魚とって来ました。・・・干物と生の両方で」


「?ああ、ありがとう。そういえば今日は実践して

レグナント狩りだろう。ギルドでアイーシャが待ってるぞ。」


「あぁ、了解です。夕方には帰るんで行ってきます!」


ベルは分かりやすく何かに動揺しているリクに気づきつつも、今日を楽しみにしていた孫の伝言を伝える。

その後装備を整えてその場所に向かって行く陸の姿を眺めながら、今日の畑仕事に向かうのだった。








「まじかよ・・・!ここまで影響が出てんのかよ・・・」


そこは中心街から遥かに離れた第二カルデラ壁内遺跡。そのとある場所にて彼等はいた。その中の1人は目の前の光景を拒否するようにガロット(ヘルメット)を被る。


彼等の目の前、そこに広がる光景はいずれ起こるとされてきた大異変。それがすぐ近くまで迫ってきていることを知らせる光景だった。


「おいレビー。この辺りの地層が一気に滑り落ちたとして、その被害はどれほどだと思う・・・?」


「・・・・・おそらく、ここ第二は間違いなく崩壊、隣の第三、第一も共に甚大な被害をもたらす、かと。」


「おいおいおい!まさかここら辺全部が崩れるってのか!?下の街にどれだけの人がいると思ってんだ!」


を前に1人が思わず大声をあげる。

男達は今日は周辺地域のイェリコによる侵食影響を計測するため、古代遺跡内の岩盤前まで来ていた。



「これまでの報告書はどうなっている!ここまでの侵食が出ていながら何故報告が上がっていない!?」



「そ、それがおかしいんです。こちらで最近までの報告書、ケシキリ(写真)と見合わせても先週まで明らかに何も起こっていな買ったはずなのに・・・」


「写っている物にも特に不審な点は見当たりません。こんなこと、ありえない・・・。」


「ミミレト隊長!この層の周り、明らかに急成長してます!」


部下に呼ばれ彼女ーーーミミレトはその層の断面を覗き込む。灯に照らされたイェリコは明らかに古い部分と新しく成長したと思われる部分とで対象となっており、ここわずかな間に数センチからそれ以上の動きをなしていることを感じさせた。


「・・・・ッ!しかたない。役所に避難勧告を出してもらわなければ・・・!」



「そ、そんな。なんとか国からレグナントを借りてきたり・・・」


「もうそんな時間もない。みろ!」



そう言ってミミレトが指差す先、そこには二色に分かれた断層があり、その隙間から僅かではあるもののが滴っていた。


「・・・・・ここまで悪いことが重なると、もはや一刻の猶予もない。全員!今すぐ街に向かう。もはや見張る必要もない!」


再びガロットを被り直しミミレトはこれまで歩いてきた道を引き返して行く。

すでに状況は動き出している。ミミレトの後ろを他の部下達も急いでついて行く。


そしてそんな彼女らを見越したかの如くーーー











空間にピシリという高い音が響いた。





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