第3話 この世界の成り立ち。



「素晴らしいな・・・・・!侵食も全くないし色味も面白い・・・!これだけの代物なら原石のままでもこのぐらいは出せる」


そう言って目の前の片目ゴーグルをつけた中年の男性が紙に見たことのない文字を書き記す。俺の世界でいうところの数字なのだろうが全くわからない。ただ6桁の並びから察するに十数万とかだろうか。


「うん!かなりいい値段だと思うよ。これなら当座の資金としても十分だよ!」



そう言ってアイーシャは朱肉に指を押し付ける。それを確認した亭主は大きいのと細かいのどっちがいいと聞き、それに対して細かいのと答えるとその後しばらくしてから金の小さめのメダルを32枚と銀の大きめのメダルを4枚乗せたトレーを持ってきた。


「確認を頼む。一枚はおまけだ、また見つかったら持ってきてくれ」


「ありがとーおじさん。リク、いこ!」


袋の中にメダルを入れしっかりと縛ると俺の手を引いて店を後にする。


(異世界でも通貨がメダルってのは面白いな・・・。でもそうだよな・・・。紙幣は難しいだろうし希少な銀や金を使えば偽装も難しいしメダル型にしてしまえば嵩張らないし)


「なぁ、このメダルの価値ってどのくらいなんだ?」


「ああ、そういえばそこら辺教えてなかったね。私達は通貨をメリーって呼んでるの。一番小さいのが銅色のやつで、上から大きな金色で10万枚分、小さな金で一万枚分、大きな銀1000枚分、小さな銀100枚、大きな銅10枚ってとこだよ。ちなみにプレトなんかが100メリー前後で買えるよ。」


「プレトってあのパンのことか。ということは・・・あの水晶32万⁈」


日本円換算だと30万前後、現代日本の20倍近くの値段での取引に思わず声を荒げてしまった。

確かにあの煙水晶は透明度も高かったがだからといってその値段は高すぎるのでは・・・。




「す、すごい値段だな。そんなに珍しかったのか?アレ。」


「?あれだけの大きさならそのくらいだと思うけど・・・。リクのとこではそうじゃないの?」


「あ、あぁ。多分20倍近くの値段だと、思う・・・」


「20倍?!」


今度はアイーシャが驚愕に大声を上げる。それに反応した周りの人たちがこちらを見てくるがそれに構わずアイーシャは続ける。


「なにそれ宝の山みたいな所じゃん?!いいなー!」


「?そうかな?水晶とか探せば見つけられると思うけど・・・」


「そんなに⁈イェリコがそんなに少ないとこなんだ・・・」



「・・・イェリコ?」


その言葉に陸は何となく岩と融合した地面を思い浮かべた。思えばここまで来る際に何となくそういうものと受け入れていたあの地面。それについて全く触れていなかった。


「・・・イ、イェリコが無いんだ・・・。そっか,だからさっき景色にびっくりしてたんだね」


アイーシャはその聞き返しによって陸が暮らしていた世界をなんとなく想像することが出来た。自分たちの世界に存在するあの壁のない世界。


「なるほど、そっか・・・異世界ってそういうことなんだ・・・」












「私たちの世界にはイェリコと呼ばれるものが存在するの」


役所での登録は別に記載するほどのことは無い。そこら辺の事務仕事は元の世界と一緒で、基本役人の指示に従って行われる。


『見たことない文字ですが・・・まぁ問題ないでしょう』

そう言って役人はバーコードのような機械に自分の書いた文字をスキャンするとやがて明細書と腕輪を持ってやってきた。そこには先ほどまで自分が書いたものと完全に一致する文字が刻まれていた。


(こんな風な技術は一体どこから・・・)



「イェリコってのはほら、あの崖とか地面とかにあった鉛色のやつね。あれらはさまざまな山や海を覆い尽くしてる物なんだけど、誰が作ったかも、生き物なのかどうなのかも分かってない。」


「ただわかるのは学者によるとほんの少しずつ、それこそ一年に0.1ミノ(mm)くらいに侵食してるみたいなの」


その後その後いくつかの軽食を市場で買ってアイーシャは街から少し離れた広場にてイェリコについて教えてくれた。わざわざ離れたのはこの世界にとっての当たり前を教えるなんて言う目立ちすぎる行いを人目につけさせない為だ。


「ただの金属ならどうにかなったんだけど、これがまぁ硬くて、叩いても燃やしてもなかなか崩せない。その岩盤とって鉄が取れても加工しても完全に純粋な鉄にしないとその後鉄とかも侵食を始めちゃうから難しいし崩せてもその下から出てくるのはただの土塊だけ・・・。まぁそのおかげで根を張る植物はよく育つんだけど・・・」


「特に鉱物資源なんかはそのほとんどに侵食の跡がついていて、その上有色のやつなんて滅多に出てこないし・・・ほんと困った厄介者なの」


「なるほど、だからあの水晶は高く売れたのか・・・」


そう考えるとこの子がこれまで言ってたことについてもある程度納得がいく。

確かに鉄のフレームなんかを作ったとしてもその後中から侵食されヒビでも入ったらたまったものではないだろう。


「でもさっきも言った通り壊れにくいからそれそのもののみを使った武器とかには重宝してるの。」


「・・・すごいな。まるで珊瑚みたいだ。あれ?でも君たちのその道具とかは?」


「あぁ、これ?」

そう言って陸は街の人たちが使っていた不自然な超技術を指摘する。街の中には

するとアイーシャは自身のゴーグルを手に取るとそれを見せる。


「私達の文明はほとんどをこのレグナントって言う古代の遺物を使う事で成り立っているの。そしてこれらを見つけるのが私たちニギルの仕事なの」


「これがさっき言ってたレグナント・・・」


「まぁ、本当はこれらじゃなくてもっとをそう呼んでたけど・・・。いつからかまとめてそう呼ばれてる」



そう言ってアイーシャはサンドイッチのような物(プトレスと呼ぶらしい)をかじりながら遠くから見えるベルの家の裏の巨大な像を眺める。

遠くから見た事で全体があらわになったその像は自分の世界でいうところのエジプト神話のアヌビス に似ていた。

それをアイーシャと共に眺めていた時ーーー


(あれ?今何か胸の近くが光ったような・・・?)


「さて、と。じゃあ明日から早速ニギルの仕事を一緒にやっていくわけだけど・・・」


立ち上がり伸びをしながらアイーシャがそう言うと


「これからどうする?陸さえ良ければ私からおじいちゃんに言ってしばらく止めてもらうように言うけど?」


「え?いいの?!」



その言葉を聞いた瞬間陸はこれ幸いとばかりに声を上げた。

というのもこの世界に来てひとりぼっちで夜を越す事となると覚悟するつもりであったが,やはり心細さがあったことがひとつ。そしてもう一つがーーー



(固有名詞関係だけ何故か翻訳されてなかったから困ってたんだよな〜)


そう、この世界に来てなぜか言葉が通じている。そのことについては少し前から気になってはいたが、今は便利だからと置いておくことにした。

しかしこの世界固有のものや単位などについては何故か翻訳されなかった。


(鉄とか数字とか,変わらないものはあるけどそれ以外となると照らし合わせないといつかボロが出そうだったし。)



「ありがとう。でもそれは俺の方から言わせてほしい。厄介になるのはおれだし」


「そう?私から言わなくていい?ならいいんだけど

・・・・」


陸も残りのプトレスを飲み込むと立ち上がる。そして改めて自分のきた世界を眺めた。

綺麗な世界だ。鼻腔内に吸い込まれる空気を吸うたびに体が喜んでいるかのような感覚が走る。太陽の光を浴びてイェリコと岩の大地が輝く。

周りを背の高い岩山が囲んでいることからもしかしたらこの辺りはカルデラ(火山のあった凹型の大地)なのかもしれない。





「これが・・・異世界か・・・・!」
















「あ、そうだ。帰る前に裏の像のお供えも買わなくちゃ」


「あの神様の巨大な像か。あれってどんな神様なんだ?」


「?神様って?」


「え?いや御神体、いや、神様を模したものなのかなって」


「ああ、あれは本人だよ。」


「え?」


「え?」

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