第2話 ニギル
今思えば、自分はその一言を聞くのをずっと待っていたんだと思う。
でも当時の自分は現状を受け止めるのに精一杯で、ただただ回転する状況に身を任せていた。
「ニギルってのはね、何かを握り込むや掴むって意味が込められていて役所に登録する事でなる事が出来る職業なの」
恐る恐ると言った風に歩く陸にはお構いなしに機械と岩が混ざったような地面を歩きながらアイーシャは言う。
あれから陸は流されるままに目の前の少女に連れられてベルの家を飛び出した。お礼も別れの挨拶も言い切れないままにならないようベルには「ま、またすぐ来ますー!」とだけ叫び荷物と共にアイーシャに連れられてゆく。
その様子を見て心底困ったとでも言いたい感じの表情を浮かべたベルを陸は決して忘れないだろう。
そんな中、明らかに人工物にしか見えない地面に視線を向けながらアイーシャの話に耳を傾ける。
(ほんとどうなってんだろう・・・。土の地面と機械の地面が混ざってるみたいだ。それに家の裏にあった石象の下、あれも多分機械だよな・・・)
「内容は簡単に行っちゃえばこの世界あらゆる場所に隠されているお宝「レグナント」の回収や純粋自然物の採取にあるの。その中には貴方達ワタリビトの持ち物なんかも含まれる・・・てどうしたの?」
「え、あいやなんでもない」
ハハハと作り笑を浮かべた後陸は次に目の前の少女について考える。
思えば目覚めてからずっとこの少女に振り回されっぱなしである。普段の陸であれば女の子と二人で歩くなんてことになった時は緊張でガチガチになっているだろう。
しかし目の前の少女はそのスチームとサイバーパンクな格好に美少女という要素を打ち消すほどの破天荒っぷりを見せている。
例えばだが、先程飛び出してしばらく二人で歩いてたら、道に生えていた赤い果実を見つけたかと思うと、それをパクパクと食べ始めたり。
自分が考え込んでいると自分の周りをぐるぐる回り始め観察を始めたり。
それによって緊張しないのはいいのだが流石にそろそろ疲れる。
最終的に陸は少女を
(ある意味恩人である人にこんな事考えるのもなんだけど、なんて残念な子なんだ・・・!)
という評価を下していた。
「それで貴方の荷物見てたけど貴方も故郷ではニギルみたいなものだったんでしょ?そっちにはどんなお宝を見つけてたの?」
「ん?あ、あぁ。でもこんなすごい世界だし俺のものなんて大した事ないと思うけど・・・」
そう言って陸はここに来る前に採取した煙水晶を思い浮かべた。こんな世界で自分のただの鉱物価値があるのだろうか?
しかしそんな考えを打ち消すようにアイーシャは答える。
「いやいや、貴方達の世界のものなら基本なんでも売れるよ!なんてったってとっても使いやすいし壊れにくいもの」
「壊れにくい?こっちの物は壊れやすいの?」
「あぁそっか。それわかんないよね。街に着いたら教えるよ。それにしてもまさか生きたワタリビトに会えるなんてすっごい発見だなー。しかも私とおんなじニギルだなんて」
そう言ってアイーシャは頭から爪先と自分を眺める。それになんだかこそばゆく感じながらも問いかける。
「アイーシャ、でいいよね。今更だけど拾ってくれてありがとね。あのままだと俺状況もわからずどうなってたことか・・・」
「どういたしまして♪でも私も貴方を助けたのにはちゃんと下心があってのことだよ」
「下心?」
「うん!リクはさ、前住んでたとこではなんでニギルやってたの?」
「うーん、趣味かな。俺の住んでたとこでは自然が豊かでいろんな珍しいものが落ちてたり拾えたりしたから・・・いや、見つける事が楽しかったってのが一番かな」
「だよねだよね!私もニギルになったのは結構前なんだけど、隠された昔の道具なんかを見つけるのが楽しくて!」
それを聞いて陸は思わず嬉しくなる。
というのもこれまでに自分とこんなマニアックな話のできる人というのが存在しなかったからだ。
「ツノのある動物の骨なんか見つけたり・・・」
「私のとこにもたまに落ちてる!マニアの人とか高く買ってくれたりするしツノの模様とかによってはお洒落なナイフの持ち手にした!」
「面白い形のきのみを集めてみたり・・・!」
「こっちには薬剤の作成にも必要だしそういうのも求められてるよ!」
「貴重な鉱物を土や岩から探し出したりも!」
「わかりやすいお宝だよね!磨けば貴族も欲しがるものもあるよ!」
話をしていくうちに陸は自分のテンションが上がっていくのを自覚する。これまで探し出して来たものを例に挙げるとまるで自分も見つけてきたと言わんばかりにテンションが上がっていく。いや、事実彼女はそれを職業として成立させていたのだろう。
「私自分と同い年くらいのニギルって見た事なくてさ。リクを拾った時に思っちゃったんだよね〜」
「思うって?」
「にしし〜♪」
そう言ってアイーシャはニコニコしながら自分に振り向き言い放った。
「リクさ、仕事ないなら私とニギルをやってみない?リクなら多分楽しめると思うんだ」
「え?それって簡単になれるものなの?」
「うん!役所に自分の名前を書いて提出すれば今日にでも!私と同い年くらいのニギルって全然いないからさ、こう言っちゃなんだけど話の合う仲間が欲しかったんだ〜」
「それで、どう?」
それを聞いてリクは嬉しくなると同時にこれからのことを考える。こんなふうに言ってくれる子というのは前の世界には存在しなかった。
あの文明社会ではある意味仕方のない事だったのかもしれないがそれでも日々寂しさを感じなかったといえば嘘になる。
それに今この機会を活かせれば衣食住やこの世界の常識、文化なんかを学ぶきっかけにもなる。
というかこの世界にたった1人いきなり生きるなんて無理だ。
十中八九飢え死にする。
「その、こっちが申し訳ないくらい世話してもらってるけど、いいの?」
「おお!ということは大丈夫ってことだよね、やったぁ!ニギル仲間だー!」
質問に対してびっくりするくらいのリアクションを見せるアイーシャにこれには陸も思わず苦笑い。
まだまだ考えなければならないことは多々ある。家族は心配してるのではないか、迷惑がかかるのではないか。
だがそれを踏まえて尚ーーー
(この世界に来て怒涛の勢いで物事が進んできたけど、結構悪くないかも・・・)
しばらく歩いて着いた街はある意味幻想的すら思える外観をしていた。
所狭しと並んだビルと思われる建物はそのどれもがボロボロになっており、しかしその隙間から草木が根付くことによって独特の美しさを出している。さらに下、ビルの足元や二階に当たる部分には多くの人々が露店や店をだし賑わっている。
「すごい!廃墟に町ができてる!」
「ここ『石柱の街』は大昔の遺跡をもとに作られた街なの。なんでこんなに高い建物を建てたのかはまだ分かってないけど、とりあえず今は自然と人とが共存する他にはない町になってるの。」
街の中に入って改めて見回すと周りの人達は中世ヨーロッパの市民服のような服装をしており、そんな中に明らかに生物の素材によって作られたと思わしき武器を持ってたり、サイバーパンクを思わせる見た目の道具(よく見ると少し劣化している)がうまい具合に不思議な景色を生み出している。
そして街の人たちを見て思ったことは・・・
「何というかあんまり見られないんだね俺の格好。自分で言うのもなんだけど結構浮いてると思うんだけど・・・・」
「大丈夫大丈夫。この町には結構いろんなところから人が来るから珍しい格好の人には見慣れてるから。この間なんか全身ぴっちりの格好した人たちもいたくらいだし」
「それは逆に気にした方がいい格好なんじゃ・・・。てか俺の格好そのレベルで変なの⁈」
「え?うーん、方向性は違うしリクは違和感ないけど珍しいって意味なら同じくらいかな」
その一言を聞いた陸は、石が売れた後はまず服屋に行こうと心に誓うのだった。
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