第1話機械仕掛けの世界

 目が覚めたのは鼻をくすぐる香ばしい匂いを感じての事だ。口を開けたまま寝てしまっていたからなのか妙に喉奥がヒリヒリする。ゆっくりと状態を起こし周りをぼ〜だとしながら確認する。

木造の建物と思われる作りの部屋、自分の上には薄い布団が掛けられている。部屋の隅には机が置いてありその上に自分の持ち物であろうバッグや荷物が置かれている。

そして右を見て、次に左を見て

ようやく頭が働き始めたのか一言呟いた。




「どこ?」















家主のベルはお盆の上に水とプレト【パン】を乗せ孫が連れてきた少年を思い出していた。



『おじーちゃん!近くで人倒れてたから連れてきた!』



そう言ってワクワク顔の孫の顔を見た時思わず頭を抱えてしまった。

昔から好奇心旺盛なこの子は珍しいことが起こると首を突っ込んでいく性格で、変な生き物や物を拾ってきては騒動を起こす困った孫だった。


別に好奇心旺盛が悪いというわけではない。今回のように倒れた見ず知らずの人間を拾ってくるのも彼女の性格の他にも善意が少なからずあってのことであろう。

だが危機管理という物をわかっていない。

これでもし厄介なことに巻き込まれたり、少年が危険だったらそれこそ大惨事だ。


拾ったのもここから500テル【m】は離れた場所というではないか。うちの近くとはいえ、せめて自分を読んで欲しかったと考えながらベルはドアを叩く。

中から物音が聞こえ、起きたことを確認したベルはドアノブを回し中の少年と顔を合わせた。












「気分はどうだ?」


そう言って扉を開けて入ってきたのは身長が2m以上はあろうかという壮年の外人の男だった。

思わず面食らう陸だったがその瞳からは特に怒りや不信感と言った感情は見受けられなかったことから、心の中でそっとため息をつく。



「あー、えーっと・・・すいません。勝手にベッドを借りてしまって。俺はその・・・」



「(ベッド?)いや、気にするな。俺が勝手にしたことだ。うちの孫が倒れた君を拾ってきてな・・・。悪いが勝手に荷物を開けさせてもらった。」



そうして視線をそっと荷物に向けるとすぐこちらにむきなおった。

それに対して「い、いえ。大丈夫です」と少々吃りながら返答するものの、自分の置かれた状況に疑問符を浮かべる。


「あ、あのー。俺ってどのくらい寝てました?」


「ふむ、わしの孫が君をこの家に連れてきてから大体一トキ【時間】はたったはず。驚いたぞ、うちの孫によってついに犠牲者が出たのか、と。」



「(トキ?)えと、なんというかお手数かけてしまったみたいで・・・」


「それで、なんで君はあんなところに倒れていたんだい?見たところ採掘の装備に似ているようだが君はニギルなのかい?」


「(ニギル?)鉱物採取の帰りにちょっと・・・。あの、ニギルってなんですか?」



「ニギルをしらない・・・。ちょっとまっとくれ」



そういうと老人は少し考え込むと再び口を開く。


「君はこれをなんと呼ぶ?」


そう言ってお盆の上を指さす。


「?パン、ですよね?」



「(パン・・・か)・・・もう一つ質問だ。きみの

名前を教えてくれないか?」


「は、はい。朝江陸って言います。」




「(アサエ・・・リク)ということはやはり本当か・・・。あー、少し待ってくれ。君がここにくるまでのことについてーーーーーー



「?あの・・・・?」


急に言葉を止めた目の前の老人の言葉に陸は疑問符を浮かべるも、その直後に扉の向こうから聞こえてくる大きな足音を気づく。



「・・・しまった。言っておくべきだった。」


「?」



「あー、最初に言っておく。すまん」



急に頭を下げた老人に再び疑問符を浮かべるも、その疑問は勢いよく開かれたドアによる音で一瞬で消し飛んだ。


「うぉ?!」


「おじいちゃん!ワタリビトさん目覚ましたの?」



そんな声と共に飛び込んできた少女に思わず悲鳴を上げた陸。と同時に老人は困ったかのように頭を抱えて眉間に皺を寄せる。

しかしそんなことなお構いなしとばかりに少女はベッドに座るリクに向かって突撃していった。


「生きてた!ほんとに生きてた!すごい!私アイーシャ。ワタリビトさん、あなた名前は?」



「え、あ、朝江陸です・・・」


「アサエリク!名前も私たちと全然違う!ねぇ、どうやってきたの?あなたの住んでたところってどんなーーーー」


突如現れた少女に思わず後ずさる陸。さらに怒涛の質問ラッシュを受けておきたての脳が対処しきれずショートし始める。

このままオーバーヒートするやと思われた陸を救ったのは、少女の祖父と思われる老人だった。

老人は手刀の形にした手を振り上げると目の前の少女の頭に向けて振り下ろした。


「落ち着かんか年頃の娘が」


「あいったあ!?」















「とりあえず自己紹介をしよう。わしの名はベル。こっちはわしの孫のアイーシャ。さっきはすまんかったな」



「アイーシャだよ。よろしくね!」



「ベルさんとアイーシャさんですね。改めて、俺の名前は朝江陸です。アサエが苗字でリクが名前。」


「わかった!あと敬語やめていいよ。私はリクって呼ぶからそっちもアイーシャって呼んで」



「わかりま・・・わかったよ。それで、ベルさん、ここってどこなんですか?俺はさっきまで山道を歩いてたはずなんだけど・・・」



そう言ってキョロキョロとあたりを見回す。 レースカーテンがわずかに揺れる部屋の中でその言葉を聞いたベルは困ったように言った。



「なるほど、お前さんは自分の意思できたわけではないのだな。ここはわしらの家で森の開けた場所にある。地名はクライデンというところだ。」


「クライデン?ここ、宮崎じゃないんですか?」


「ミヤザキ?あなたはミヤザキ州から来たの?」


「ふむ、言葉で説明するのは難しいな・・・。ちょっとついてきてくれ。立てるか?」


「は、はい。それにしても説明が難しいって・・・」


突如立ち上がったベルの後ろをついてゆくリク。さらにその後ろを先程の少女ーーーアイーシャがついてゆく。



ドアの先、そこは一見バンガローの一室ように見える部屋だ。しかしそんな部屋とは裏腹に部屋の各所に強烈な違和感があった。


その違和感の正体は・・・



(見たことない道具がこんなに・・・)



それは各所に置いてある道具だ。

普通の道具と混ざってまるでサイバーパンクの世界から持ち出したかのような道具が各所に置いてあるのだ。


(コスプレ道具?てかこの人達の格好・・・)


「さて、君の質問の答えについてなんだが,正直わしらに正確に答えることができなくてな。外の景色を見てもらってから判断してもらおうというわけだ」



そう言ってベルは鍵を開けて玄関を開け放つ。そこから放たれる日の光に一瞬目を瞑る陸だったが、次の瞬間ーーー正確には外の景色を眺めた瞬間目を見開いた。



「こ、これって・・・!?」


陸の目に飛び込んできた景色、それは機械でできた大地だった。

否,正確には機械の混ざった大地だった。まるで宇宙船の中のような金属の輝きを放つ機械が所々の岩に混ざって大地を形成していた。

そしてそんな機械や岩も関係ないとばかりに木々や草花が根を張り異様な景色を形成しており、少し離れたところには廃墟と化したビル群のようなものに緑が生い茂る。

そしてそんな自分たちの先程までいた家の後ろ、そこには崖に雪崩かかるように岩と植物に侵食された巨人の像があった。そう、これは外国、いや外国どころか地球ですらない。


尻餅をつく陸。そんな様子を見てベルは言い聞かせるようにつぶやいた。


「さて,ワタリビトのリクよ。君にとってここは一体どこだと思う?」




















「さて、まずわかってもらいたいのはお前さんはワタリビトと呼ばれる存在だという事だ」


「ワタリビト、ですか・・・」



「簡単に言えばこの世界とは全く異なる文明からきたと思われる存在だな。というのも、彼らの身につけていた道具や服装は我々の文明とは大きく異なったものであったことだ。とは言ってもお前さんのように生きたまま現れたワタリビトは初めてだが」



「え、それって俺以外にもいるんですか?でも初めてって・・・」


「ほとんどの場合ミイラの状態、全身から水が流れて干物になった状態のものしか今は見つかっていなくてな。お前さん,ここに来る前に何があった?」



そう聞かれ陸はこれまでのことを思い出す。あれはたしかせっかくの休日だから富山に登って・・・そこから帰り道に岩壁を叩きながら・・・


「あ!あの宝石。なんかここに来る前に青い宝石を拾ったんです。さしたらそれが急に光出して・・・あの、近くに泥まみれの玉みたいなもの落ちてませんでした?」


「ああ、それならお前さんのものだと思って拾っておいたぞ。とはいえ泥のままはあんまりだから洗ってカバンに詰めておいた」



それを聞いた陸は早速カバンの中からその宝石を取り出す。

綺麗に洗われたその宝石は,最初とは見違えるほどに美しく輝いていた。


「・・・あ、ほらこれ。この真ん中の電気が輝いた途端にこの世界に来たんです。」



「(向こうではデルスのことをデンキと呼ぶのか)ふーむ、長年わしもニギルを前線で活躍してきたがこれは見たことないの。お前さんの世界のものではないのか?」



「いや,俺も岩の中から見つけただけだったので・・・それにしても異世界、か。なんか俺の想像とだいぶ違うというか・・・」



「ねぇねぇリクのこれ触っていい?」


「あ、あぁ構わない。でもピッケルが珍しいか?」



「珍しいよー。こんなふうにの道具はワタリビトさん達しか持ってないから・・・」 


そう言ってアイーシャは陸のピッケルを持つと繁々と空を眺めたり振ったりと観察を始める。

そんなアイーシャを困ったような顔を浮かべるも、すぐに陸に向き直る。


「すまんな、落ち着きのない小娘で。それはそうと、元の世界に戻れそうか?」



「いや、俺そもそも拾っただけだったんでどうにも・・・。」


「だろう、な。見たところそれはレグナントだと思うしの・・・。さて、これからどうしたものか・・・」


そういうと陸とベルは考え込む。

否、陸は考え込んでいるのではない。

(異世界って・・・いやいやいやいや・・・!。てかなんでこんなことに。学校とかどうしよう、いや学校はともかく親への連絡も・・・・)



陸は焦っていた。

いきなり無一文で、しかも異世界とかいう訳のわからない場所へ移動させられているのだ。混乱しない方がどうかしている。

それだけではない。食べ物ですら大丈夫なのかもわからない。

生きてる世界が違う以上目の前の彼らと自分が違う生き物である可能性すらある。そうなると食べる物で命を落とす事も十分あり得てしまう。



病気なんかもそうだ。

自分の世界では予防接種などで感染症から体を守り、地域病を殲滅した事で快適な環境にあったがこの世界ではそれが行われていそうもない。もしかしたら自分にとって未知のウイルスに侵される可能性もある。


(いや、一旦落ち着こう・・・。まず帰れない以上当座のお金と住む環境が必要だ。てかこの世界って通貨とかあるのかな・・・)


「あ、あの。さっき俺みたいなやつの道具とかって珍しいって言ってたよね。どっかで高く売れたりする?」


「ん?ああ売れるよ。でも売るには私みたいにニギルにならないとちょっと難しいかも。身分をしっかりしてないとだし・・・・・そうだ!」



質問の後少し考え込んだアイーシャはすぐに思いついたように自分の手を握った。


「ち、ちょっと⁈」



「ねぇ、リクくん!











お宝探し、興味ある?」

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