第六話: これはせめてものお詫びでございましてよ




 ──ハロー、皆様方、お久しぶりでございますわね。




 日数にして約1年と半年ぶりでしょうか……え、そんなに経っていないし、そもそも久しぶりってのは変ですって? 


 事実ですのでなんとも言えませんが、ワタクシが言っているのはそういうことではありません。



 確かに、ワタクシにとってはつい先程の出来事。


 しかし、皆様方にとっては1年半以上……つまりは、そういうことなのでございますの。



 貴方様方なら、それだけでワタクシの言いた事を理解してくださると、ワタクシは他のワタクシたちより信じておりましてよ。



 え、何を言っているのか分からないですって? 



 まあまあ、なんと酷い事をおっしゃりますのやら……でも、ご安心あそばせ、ワタクシってば心がとても広いことで有名ですのよ。


 なので、許してさしあげますわ。


 そういう細かい事を気にしますと、そのうちハゲますしモテませんし胃に穴が空いて大変な事になります。だから、心の広い私は、ちゃ~んとお馬鹿な貴方様も受け入れてあげましてよ。




 で、話を戻しましょう。




 おそらくは覚えていらっしゃらない皆様方のために御説明致しますと、ワタクシたちは『惑星ゾルダ』と人類たちに呼ばれている惑星の傍まで来ていました。


 経緯と理由を語るならば長くなるので省略しますが、ワタクシたちの目的は、交流をするためです。



 要は、異文化コミュニケーションというやつでございます。



 なにせ、ワタクシたちは人類たちからすれば異邦人。そして、ワタクシたちにとっても、彼ら彼女らは異邦人でございます。


 姿形は限りなくワタクシに近しいとはいえ、その中身は全くの別物。あっちは人間ですが、ワタクシは生物なのかどうかすら不明なナマモノ。


 そのまま混ざり合えば反発される可能性が高いと判断したワタクシはまず、言葉によるコミュニケーションを行おうと思ったのです。



 ……ええ、思ったのです。



 その為に、色々と……こう、向こうの人が来ても良いように船内のお掃除をしたり、お食事の用意をしたり、まあ、色々と考えておりましたの。



 ……はい、もう皆まで言わなくとも分かりますわね? 



 結果は、そうなりませんでした。


 なんでかって? 


 そんなの、先走ったワタクシたちの一人が、『ひゃあ! 我慢出来ねえ、0だ!』という世迷言を残して、大気圏ダイブを決行していたからですの(2割ギレ)



 これにはワタクシ、たまげましたわ(半ギレ)



 なにせ、そいつってばわざわざ『アリス・ネットワーク』にダミーの信号を流して、ワタクシを含めて大多数のワタクシたちを騙しておりましたの。



 これがまあ、酷い話でしてね、やっていること、実質クーデターみたいなものでしてね(7割ギレ)



 何が悲しいって、ワタクシなら面白半分でやりそうって、ちょっと納得してしまうところですの。


 そう、物理的な距離が生じた別個体ではあっても、ワタクシたちの本質は同一。全ては同じ存在であり、このワタクシとて司令塔の役割を得たワタクシたちの1人でしかございません。


 だから、命令を下して呼び止めようにも、『ひゃあ! 我慢出来ねえ、あたしらも続けぃ!』って感じで次から次へと賛同するワタクシたちが登場してしまえば、どうしても後手に回ってしまいます。


 なにせ、テンション爆アゲ状態のワタクシたち、マジで頭のネジがぶっ飛んでおりますから。


 いくらワタクシが行動停止の指令を送っても、『ひゃあ! 構うこたぁねえ!』と頭蛮族状態ですから、停止した傍から『ひゃぁ! 我慢出来ねえ、0だ!』となりますのよ。


 もうね、こんなの制御しようとするのが間違いだと思いませんか(全ギレ)? 



 まあ、それでも制御はしようと思いましたのよ、これでもね。


 だって、ワタクシってば平和主義ですもの。



 ラブ&ピース、とても素敵な言葉ですわね、座右の銘にした後でデッカくしたためてから額縁に飾っておきたい言葉だと、本気で思っておりますのよ。



 でも、ね。



 やっぱり、多勢に無勢ってやつでしてね。


 普段ならともかく、悪ノリに悪ノリが重なった頭蛮族状態のワタクシたちを止めるのは時間が掛かると言いますか……端的に、結果だけをお教えしますとね。


 ……ワタクシたちの団体が地上に降りて、約4時間。この時点で、なんと地表の2割がワタクシの領地になってしまったのですわ。


 はい、ワタクシの領地です。


 なんでって、その割の領地、ワタクシと、ワタクシと一体化した現地の人達しかおりません。


 実質、動物とかそういうのを除けばワタクシたちしかおりませんから、当然の帰結ですわよね? 



 ……。



 ……。



 …………違いますのよ? 



 ワタクシも、最初は止めようとしましたの。一生懸命、ヤンチャをしそうになっているワタクシたちを止めようと命令を下しましたの。



 ですが……その、現地の方々が、ね(責任転嫁)? 



 せっかく、ワタクシが止めようとしておりますのに……どうにも怖がってしまった現地の人達が、止まったワタクシたちを攻撃してしまいましたのですわ。


 おかげで、停止命令によって止めたワタクシたちが、その攻撃のショックで命令が破棄され、再び『ひゃあ! 我慢出来ねえ!』に……といった状況が繰り返されまして。


 おかげで、なんとか地表に降りたワタクシたちを黙らせた時にはもう、『惑星ゾルダ』の人達の反応ときたら……はい。


 巣を突いた蜂たちって、こんな感じなんですのね……そんな目で、ワタクシってば人々の混乱を眺めておりましたわ。


 まあ、『惑星ゾルダ』の人達がギャーギャー騒ぐのも致し方ないとは……ちょびっとばかり思うのです。


 なにせ、ワタクシたちは異邦人。向こうからすれば、ワタクシたちは宇宙人。


 そんなワタクシたちが、有無を言わさず地表に降りて、好き勝手に騒げば……現地の人達が驚いて慌てふためくのも、当然の流れだと思います。



 ──なので、ワタクシたちは考えました。



 不幸な連絡ミス、行き違いにより怖がらせてしまったのは事実ですし、混乱のせいで怪我をした者たちが居たのもまた、事実。



 つまり、賠償する必要があるわけでして……しかし、そこで問題点が二つ。



 一つ、賠償するにしても、ワタクシたちは『惑星ゾルダ』の通貨を持っていないということ。


 いちおう、仲良くなった皆様方の中には所持金を持っている方もおりますので、掻き集めればそれなりの金額にはなるでしょうが……おそらく、確実に足りないでしょう。



 二つ、これは一つ目にも触れておりますが、ワタクシたちが保有している私物……例えば『シンボル号』ですが、これを渡せないということ。


 どうしてかって、『シンボル号』に限らず、ワタクシたちが暇潰しがてら色々作った物は、基本的にワタクシたちが使うのを前提とした品質。


 ぶっちゃけると、安全性とかそこまで重視されておらず……なにかの拍子に爆散するようなモノなんて、時限爆弾と何が違うのか分からないと思いませんか? 



 少なくともワタクシは、危ないから渡せないと判断しました。



 『シンボル号』だって、爆発こそしませんけど、操縦面に関してはワタクシたちが使用するのを前提にしておりますので、人間の身体では些か使い難い……で、それらを踏まえまして。



 ワタクシたちは、思いつきました。



 そうだ、金や物で賠償出来ないのであれば、肉体労働……そう、『惑星ゾルダ』にて生じている様々な問題を、ワタクシたちが解決してしまえば……賠償になるのでは、と。



 この妙案にワタクシ、たまげましたわ。



 だって、上手くやれば賠償どころか、相手からの好感アゲアゲ待った無しだと思いませんか? 


 思いついた時、『やだ、ワタクシってば……天才!?』と震え上がったぐらいです。


 他のワタクシたちも同様にたまげておりましたから、如何にたまげた妙案だったのか、窺い知れると思いませんか? 



 ──と、いうわけで、頑張りましょう。



 とりあえず、ワタクシたちは『惑星ゾルダ』の世界規模で問題になっている移民問題に目を付けました。



 目を付けた理由は……こう、ダーツで決めましたので大した意味はありません。



 で、移民問題なんですが……かる~く地上に居るワタクシたちを通じて情報収集をした感じ、よくあるアレです。


 貧富の差とか、人種差別とか、教育格差とか……後はあれですね、構造的に色々な不具合のせいで、相当な不満がそこかしこに溜まっております。


 その中で、特にワタクシの興味を惹いたのが……男女間でけっこう対立が起こり始めている、という点でしょうか。



 ……え、どうしてかって? 



 そりゃあ、気になって当たり前だと思いませんか? 


 オスとメスが対立した、その結末の果ては人類絶滅ですよ? 



 というか、何をどうやったら対立するに至ったのか……とりあえず、大まかな情報を地上のワタクシたちに求めました。


 すると、まあ、返ってきた答えがですね。


 主に、女性に相手にされない男性、あるいは、不適格だと判断された個体を、何だかんだ理由を付けて正当に排除しようとした結果のようでございましたの。



 ……。



 ……。



 …………????? 



 正直なところ、地上のワタクシたちより、情報が届いた時……ワタクシ、意味が分からずたまげましたわ。


 何をどう思って排除しようと動いたのか、その点に関しては正直どうでもよいです。どうせ、お互いが結論を認めませんから。



 けれども、少し……そうですね、ミジンコ程度の知性があれば分かると思います。



 排除された片方が、果たして社会の為に動くかどうかと言う事を。そして、それは人間に限った事ではありません。


 動物だって、自分と血の繋がりの無い子を育てる種は全体として見れば稀です。というか、例外的な話でしかありません。


 群れ全体で育てる場合もありますが、それは種が生存するための戦略であり、善意や厚意で行われているわけではありません。


 この星の人達が、群れによって子孫を守る戦略を取っているのならば、まだ分かるのですが……地上のワタクシたちからの情報を見る限り、とてもそうには見えません。


 なんと言えば良いのか……都合の良い部分だけつまみ食いする感じで事を進めた結果、取り返しが効かないところまで進んでしまった……といった感じでしょうか。



 ……なんともまあ悲しい話ですが、人間とは、いえ、生物とは、子孫を残す為に、常に争い続ける存在でございます。



 それは、生物としての本能。


 メスがより強いオス、より優秀なオスを求め、負けたオスが子孫を残せず血が途絶えるように、それは人間とて例外ではありません。


 悲しいですね、哀れですね。ワタクシも昔は人間だったからこそ、そこがなんともまあ可愛らしく思えてしまいます。



 そう、所詮、どれだけ高等な頭脳を得たところで、本質は変わりません。



 ワタクシが言うのもなんですけど、人間の本質は知恵を持った獣。人間というカテゴリーに属する、ウホウホやっているゴリラとなんら違いなど無いのです。


 どれだけ取り繕ったところで、大多数の女はより強い……その時代においてより強い力を持つオスに股を開きますし、その時代においては適さない弱いオスは排除します。



 しかし……排除されたオスがそのまま死ぬかといえば、そんなわけがありません。



 その場所で生きられないのであれば、他所へ行きます。


 負けたのだから大人しく死ね、などと促され、はい分かりましたと首を吊る馬鹿などいるわけがありません。




 ──な~の~で~……ワタクシ、作るしかありませんわね。




 いったい何を作るのかって、そりゃあ考えるまでもなく……働ける場所と、食べていける場所と、番となるメス……つまり、女でございますわ。



 ……え、人間のメスはどうするのかって? 



 もちろん、ワタクシってば平和主義ですから。


 そういった不平等に関してはことさら敏感でして、ちゃ~んと、メスたちのお眼鏡にかなうオスも作りましたわ。



 『惑星ゾルダ』の女性よりも健康的で体力が有って、番と定めた相手に一途で、如何なる暴力を受けても平気で、妊娠出産能力に優れた優秀なメスを。


 その名も、ホムンクルスG。Gは、ガールの略でして。



『惑星ゾルダ』の男性よりも健康的で体力が有って、番と定めた相手に一途で、如何なる暴力を受けても平気で、妊娠させる能力に優れた優秀なオスを。


 その名も、ホムンクルスB。Bはボーイの略ですの。




 これで、全てが無問題もうまんたい、ですわ。




 後はまあ、治安を乱し、調和を乱す者が現れた場合を対応するワタクシを配置するようにしましょう……さて、お次は、ですわ。



 ……とりあえず、各国の独身の男たちを適当にワタクシたちの下へ引っ張り込みましょう。



 全体的に見ても、メスの方はどの国も何かしら保護しておりますし、その何倍~何十倍も数が多いのに顧みられることなく死んでいるオスがいるのです。


 だから、オスの10万人や20万人、居なくなったところで世界は大して気にも留めません。せいぜい、一ヶ月ぐらい茶の間のテレビに流れるだけのこと。


 むしろ、各国にとっては良い事だとワタクシ、お胸をエッヘンと逸らしても許されると思いますわ。


 だって、どの国も保護もしないし面倒も見ないし、教育をしようとも致しません。


 求められるのは、その国では食っていくだけの低賃金でバリバリ働き、動けなくなったら勝手に消えてくれる……つまり、奴隷として働いてくれる労働力だけ。



 ならば、ワタクシたちが引き取ってもなんの問題もないと思いませんか? 



 もちろん、無理強いはしません。


 なにやら初対面の相手からは誤解されやすいのですが、ワタクシは平和主義、ラブ&ピースの住人なのですわ。



 ──言葉が話せない、問題ありません。


 大脳に直接情報を流し込めば良いのですから。その大脳が耐え切れないのであれば、調整した大脳を搭載すれば良いだけのこと。



 ──頭が悪い、問題ありません。


 ワタクシの細胞を打ち込んで培養すれば、それで貴方は明日から歩くプロフェッサー、円周率10万桁ぐらい流し読みで覚えられましてよ。



 ──容姿が悪く相手にされない、問題ありません。


 ワタクシの細胞(?)と、『惑星ゾルダ』の人から採取した細胞を掛け合わせたホムンクルスなので、容姿の上下など無意味。



 ──暴力的な手段でしかコミュニケーション取れない、問題ありません。


 ホムンクルスは人間よりもはるかに頑丈かつ再生能力を持っております。それこそ、全身の骨を叩き折ろうが頭を砕こうが、半日で復活します。




 あとは……まあ、その都度考えましょう。




 多少なり不具合で亡くなる方が出て来ても、問題ありません。ワタクシたちと一つになれば、また一緒に活動出来るのですから。


 ワタクシってば賢いですからね、高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応すれば、だいたい何とかなると思いますから。



 ……。



 ……。



 …………さ、そんな感じで色々と案が固まりましたので。



「レッツらGoでございますわ、ワタクシたち、気張るのですわー!!」



『──へいへい、肉体労働は何時もあたしらっすね』


『くんずほぐれつ! くんずほぐれつ!』


『ちょっと待って……私がロリになれば、ロリは実質微笑ましい恋の一幕?』


『精神年齢を考えなきゃだめだよ(真顔)』


『真面目なワタクシが居る……異分子だ、殺せ、慈悲は無い』



「相変わらず、ワタクシたちってば協調性の欠片もございませんのね、誰に似たのかしら?」



 ──前途多難。



 そんな言葉がワタクシの頭を過りましたが、まあ、何とかなるでしょうと突っ走ることにしました。


 あと、せっかくですしワタクシも地上に降りました。


 『シンボル号』の中でダラダラ過ごすのは退屈ですし、地上にはいっぱい娯楽があります。


 だいたい、30年ぐらいを目途に、次の星へ向かうかどうかを見定めましょう……そう、ワタクシは決めたのですわ





 ……。



 ……。



 …………で、それから早30年後の、そろそろ次に向かうべきかな……と、考えていた、とある日の事。



『──ところでさ、前から気になっていたんだけど、Gの出産報告はめっちゃ出ているのに、Bが妊娠させたって報告0じゃない?』


『──え、知らんかったんか? Bって妊娠させる能力強過ぎて、人間の卵子では着床できんやで』


『──は、マジで?』


『──マジやで、今度顕微鏡で確認してみ。ゾルダの女の卵子、Bの精子で穴だらけにされて、例外なく着床能力0にされとるで』


『──映像寄越せ、それはかなり重大な問題だと思いますわ』


『──見たけりゃ見せてやるよ』


『──うわぁ、マジで蜂の巣過ぎて草。こんなんで妊娠出来たら、そりゃあもう人間じゃありませんでしてよ』


『──Bの調整担当したワタクシたち、弁明はよ。なんやねん、あのマシンガンのように忙しない精子は』


『──想定していた以上に卵子ヨワヨワ。なにあれ、あんな脆さでよくもまあ繁殖出来ていたなと褒めてやりたいところだ』


『──それは、そう。人間さん、マジで何もかもが脆すぎて困りますわ』


『──人間が弱いのではなくて、ワタクシたちがあまりに無頓着すぎるだけ定期』


『──ま~たワタクシ基準で考えちゃいましたか、マジで頭ヨワヨワですね、ワタクシたち』


『──はあ(くそデカため息)、どうすんの、これ?』


『──平気へいき、Gがポンポン産んでくれますから』


『──司令塔のワタクシ、気付いていますの、それ?』


『──気付いていないんじゃないの? ほら、ワタクシだし? 面倒臭がって報告しないワタクシ、多いですし?』


『──うわあ、ワタクシってば……もうちょっと、報連相の大事さを認識しないと駄目だと思いましてよ』


『──文句はワタクシに言いなさい、ワタクシは関係ございませんわ』


『──てめえもワタクシ、定期』



 256時間耐久ゲーム縛りで遊んでいたところに入って来た、ワタクシたちの雑談……その中で、聞き捨てならない話が出たことに気付いた私は。



「……バレなきゃOKですわ!!」



 ワタクシ、想定外のあまり、たまげることしか出来ませんでしたわ。



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銀河の果てより、こんにちわ 葛城2号 @KATSURAGI2GOU

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