第6話 欲をかけば……
「なによ、これは」
昨日色々と入れたジュエリーボックス。念の為にゴミ袋三重の鉄壁の守りを敷いて待った翌日の朝。
結構楽しみにしてたのに。中に入っていたのは納豆の空きパックだけ。今回は異臭はしなかったけど、納豆の粘っこい匂いが大変だった。
確かに部屋の中の要らないものを入れたわよ。でもたくさん入れたんだから、せめて、魔石くらい出しなさいよ。全く。
かなりがっかりして朝食を食べる。食パンにバターを塗ってトマトの輪切り、タマネギスライス、ピーマンを載せたらテーズをパラパラ。そしてトースターで中火で5分。わたしの大好物のヘルシーピザトーストが出来上がる。それに今日はレモンバームのお茶を淹れる。では、いただきます。
「はあ〜、この朝のひとときは格別よね。これがないと日曜は始まらないわ」
いつもの勝負飯を食べてジュエリーボックスの敗戦を払拭した。
さて、じゃあ、行きましょうか。
昨日はジュエリーボックスの衝撃ですっかり忘れていた眼鏡。今日は忘れずに手に入れなければ明日からの仕事に大いに差し障る。
休日の午前中にも関わらず、わたしは駅前ビル街に向かう。目的地は庶民派大手メガネ販売店。カジュアルさを前面に出す若者に人気の全国チェーン店だ。
メガネのデザインを選び、レンズを合わせてもらい一時間程で出来上がる。なんとも便利な店だ。
さて、せっかく駅前まで来たんだし、ちょっとショップでも見ていこうかな。
わたしのショッピングは主にドラッグストアだ。笑いたければ笑えばいい。もうわたしは「ばえる」ことを求めないことに決めたんだ。ばえなくてもいい。わたしはわたしだ。それ以上でもそれ以下でもない。
うん、というのは、自分への言い訳だ。本当は「ばえ」たい。ばえてチヤホヤされたい。わたしという人間をもっとたくさんの人に知ってもらいたい。そして認めてほしい。それが本音だ。でも、向いていないのだ。見せかけの自分でいるのがしんどいのだ。
だから何が言いたいのかと言うと、わたしはお洒落なショップやカフェには行かないということだ。買い物は近所のスーパーとドラッグストア、時々コンビニと何でも屋。服は格安大衆向けのチェーン店で済ます。別にお洒落なショップが好きな人は行けばいいと思う。実際そんな人にわたしは憧れるし、たまにそんな人のSNSを見て凹んだりもしている。でもわたしはドラッグストアに行くのだ。
ドラッグストアで買うものは基本的な化粧品だ。今日は口紅を買いに来た。色は…鮮やかな赤とか試したい。何本か買ってみて気に入ったものを使うというのがわたしのやり方だ。
「はあ、疲れた。買い物はなんでこうも疲れるんだろね~」
誰もいない部屋で独り言ちるわたし。寂しいとかそう言うのじゃない。口に出すことで何かが発散される気がするのだ。だからだれに何を言われようがこれは止めるつもりはない。
とりあえず買った口紅を鏡面台に置く。そして早速パジャマに着替えるわたし。まだ夕方前だが、もう外に行く用事はない。それなら一番リラックスできる格好でいたい。
そうそう、今日もジュエリーボックスに何か入れてみよう。今朝は納豆の空きパックしか入ってなかったからね。ほんと、なんで空きパック…ん? 空きパック? あれ? 中身は? 中身はどこ行ったの? 空きパックが返ってきたということは中身を誰かが食べたって事だよね。誰? 誰が食べたんだ?
気になってしまったら動くしかないわたし。今度は違うものを入れたくなってしまった。急いで着替えなおして財布片手に外に出る。目指すはコンビニだ。ちょっと高いけど、コンビニで弁当を買って入れてみたい。
家に帰ってジュエリーボックスを開ける。もう異臭は全くしない。ああ、そうだ。今度また異臭がしたらあの頭の中の文字に聞いてみよう。臭い理由がわかるかも。
買ってきた焼肉弁当をジュエリーボックスに入れて蓋をする。当たり前のようにゴミ袋三重の守りを敷きベランダの隅に置く。
さあ、これでどうだ。昨日とは違うぞ。ちょっと高いし、美味しいはずだ。そして弁当の空きパックだけ返ってくるのか確認だ。もしそうだったら誰が中身を食べたのか、明日の朝はその辺をキッチリとさせてもらおうじゃないか。フフフ。
翌朝、起きたらすぐにベランダへ。そしてゴミ袋を確認。どうやら異臭はなさそうだ。ゴミ袋を開けて、ジュエリーボックスを取り出す。そして少しばかりの緊張と共に蓋を開ける。中には弁当のパックはない。あるのは鉛筆? みたいな黒っぽい棒が1本だけ。
【機械樹の枝】
なに、今度はなに?
黄金の人生Ⅱ~実家から送られてきた祖母の形見のジュエリーボックスが「開けると異世界の古代竜が説教してくる箱」だったので売却したいです みかん畑 @mikanbatake
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