第10話 秘書と先生方

 A教授は普段は穏やかな方ですが、ご機嫌を損ねると怖いです。まあ誰でもそうでしょうけど。激高される方ではありませが、圧がすごいのです。

 しかし、意外な面もあります。

 あるとき、口笛を吹きながら教授室へ入って行ったことがあったそうです。

 その日は某医会の出張へ行く前日。その場所は娘さんのお住いの近くらしく、きっと夕食を一緒に取るのだろうという秘書たちの推測に至りました。

 またあるときも口笛を吹きながら秘書室を通り過ぎていかれました。このときは私も聞いてビビりました。

 そういえば、その日はクリスマスイブでした。他県から単身赴任している教授は、きっと奥様とラブラブなクリスマスを過ごすのでご機嫌がよかったのでしょう。

 A教授はお弁当を頼まれていらっしゃるのですが、秘書がお弁当屋さんに注文したお弁当を食べいるのをご覧になり、

 A教授「へー。それいいね。今の弁当飽きちゃったから、それ頼もうかな」

 とおっしゃっていました。

 松さん「でも、そのお弁当って実は今頼んでるお弁当屋さんの前に頼んでたんだよねー」

 教授はお忙しいので、前にどのお弁当を頼んでいらしたかなんて覚えている余裕はないのです。

 もちろん、そのことは教授にはお伝えしたりしません。

 B医局長は普段はまあなんとかやりすごせますが、機嫌が悪い時に関わるとすぐ怒鳴られます。怖いです。極力関わり合いにならないようにしていますが、それでも仕事上どうしても関わり合うときは覚悟をして胃を押えながらお話しします。

 コミュ力の高い桃さんや桜さんとはいつもにこやかにお話しされているので、そこらへんは仕方ありません。コミュ力の低い私は、ゼロ距離でお話しできる彼女たちと違って、十メートルくらい離れた場所から長い棒で相手をつついて大丈夫かどうかを確認してから、徐々に距離を詰めていくことしかできない性格なので。

 しかし、機嫌がよい時は結構やさしいのです。

 患者さんからいただいた果物やお米などを秘書に分けてくれたりします。B医局長、またお願いいたします。

 某科では、ロッカーが足りないので医局長のお部屋にロッカーがあります。そのため、書類を置きに行って医局長が着替えている場面に何度か遭遇しました。全裸ではありませんでしたが。

 私「すみません!」

 B医局長「いーよいーよ」

 と言ってくださいますが、そのうちセクハラで訴えられないか心配です。

 ノックをするたびに、「俺は妻に操を立ててるんだ!」言われないかドキドキしながらドアを開けております。

 退職理由:セクハラ。とか目も当てられません。

 秘書の仕事は、先生方がいかに余計なことをしないで医師の仕事に専念できるかを考えなければならないので、日々どうすればいいか頭を悩ませております。

 さて、今日は何から手をつけようか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

医局秘書日記 結糸 @yuito09

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画