婚☆約☆破☆棄

稲荷竜

次回 ハメツ王国、死す

「公爵令嬢ウルティマ・アームストロング! 貴様との婚約を破棄する!」


「トラップカードオープン! 王太子殿下の浮気の証拠! あなた、わたくしの妹と浮気をしていらしたわね!」


「ぐわああああああ!? 私の婚約破棄魔法が!?」


 王太子殿下のライフポイントがみるみるうちに削られていく。


 しかしまだLPライフポイントは100残っている。

 王族のデッキには多くの一発逆転札がある。『王命』『国家叛逆罪』『近衛騎士による武力行使』などなどだ。まだ油断はできない。


 わたくしは荒く息をついて宣言する。


「わたくしのターン! 手札カードを1枚伏せてエンド!」


「ふっ、ふはっ、ふははははは! ……宣言したなぁ! 『エンド』を!」


 その時、王太子殿下の体から黒いオーラが吹き上がった。


 あの気配はまさか……!?


「では、私のターンだ。我が名は『スル・サイゴーニ・ハメツ』! ハメツ王家の名においてこの手札カードを切る! ━━出現せよ、王家の血筋にのみ許される暴虐なる手札」


 王太子殿下から強い風が吹き、わたくしのドレスをはためかせる。


 未だ場に出ていないというのにこの圧力ッ……!


 王太子殿下が高らかに掲げた手をスッと下ろし、その手札の名を宣言する。


「王家のみが切れるこのカードが、貴様と私の婚約を終わらせる。出でよ━━『寵愛』!」


「そ、その手札カードは!?」


「そう、『寵愛』は本来、成婚に使われるべき手札カード……だが、これの効果を発揮せずに除外することにより、隠された特殊効果が発動する!」


 王太子殿下の手から『寵愛』が消え去る。


 瞬間、殿下から吹き上がる黒いオーラが勢いを増す。


「特殊効果発動! 私は貴様への『寵愛』を盤面から除外した! 真の運命の相手は貴様の妹! 我が寵愛が貴様に向けられることはなく……貴様は次代に王家の血を残すための国母の役割を果たすことは叶わない!」


「くうッ……!?」


 そう、王とは国家であり、国家存続のためには王の血筋を残すことは必須……!


 国母の役割はもちろん子を残すことのみではない!

 けれど……けれど、次代に国をつなぐことは、無視できない大きな役目であることも事実ッ!


 子を成すことがないというのはかなりのマイナス!


 このままでは婚約破棄が成ってしまう……!


 わたくしのLPがすさまじい勢いで削られていく。

 直前まで4000もあったはずなのに、残すところすでに500!


 けれど……


「ふはははは! ターンエンドッ! そして私の手札には『濡れ衣』がある……。わかるか? 次に私にターンを回した瞬間、貴様は王家の宝玉を盗んだ罪により、LPを完全に失うのだ」


 なんて堂々と『濡れ衣』を宣言するの!?

 もはや手札を隠す必要もない、ということかしら……


 だとしたら━━


「なめられたものですわね、殿下」


「なにィ!? だ、だが、貴様には場に伏せた手札カードが一枚あるきり……! 手札はすでに出し尽くしたではないか……!」


「あなたに『次のターン』などございませんわ。わたくしのターン!」


 高らかに右手を掲げる。


 すでにわたくしの手札はなく、たしかに場に一枚の手札カードがあるだけ……


 けれど。


「ここで引けなければ、令嬢はつとまりません。ドロー!」


 なにもない虚空に手を伸ばす。


 天を向いた人差し指と中指のあいだ……


 そこに、新たな手札カードが出現するのを感じる。


「くううううっ!? まさか、その手札カードは……!?」


 王太子殿下がひるんだような声を挙げる。


 わたくしはつかみとった手札カードをゆったりと胸の前に置いて、


「まずは━━伏せた手札カードを公開いたしましょう。わたくしが場に伏せたのは『時間稼ぎ』! お互いの経過ターン数を2ターン進めるだけの、なんていうことのないカードですわ。けれど……おかげで、間に合いました」


 握りしめた手札カードを場に出す。


 その瞬間━━


 カツン。カツン。カツン。


 静まり返った学園卒業記念パーティー会場に、高貴なる足音が響き渡る。


 周囲でわたくしたちの超婚約破棄手札カード勝負バトルを見守っていた同級生たちの視線が、わたくしの後方……パーティーホールの入り口へと向いた。


「あ、あああ、ああああ、……」


 王太子殿下が悲鳴を漏らし、震える。


 足音は、わたくしの真横に止まった。


「これこそが、わたくしの、最強の手札カード━━『国王陛下への陳情』」


 隣に立った国王陛下を見上げる。


 すると陛下はうなずき、それから王太子殿下を見て、


「我が子スルよ。話はすべて聞いた。お前のウルティマ嬢に対する暴虐の数々、あまりにも目にあまる。よって━━お前を廃嫡とする」


 廃嫡バーストストリーム


 国王陛下の指先から真っ白い閃光が放たれ、王太子殿下を飲み込んだ。


 殿下はまとっていた黒いオーラごとかきけされ……


 ついに、LPを完全に失った。


 廃嫡による閃光が晴れると、あとにはお召し物をボロボロにして膝をつく王太子殿下……元王太子殿下の姿があった。


 超婚約破棄手札勝負は、わたくしの勝利に終わったようです。


 わたくしは元王太子殿下に近付き、その目の前に膝をつく。


「はは、はははは……なんだい、ウルティマ……? すべてを失った私を憐れんでくれるのか……?」


「ええ。憐れみましょう。今のはいい手札勝負デュエルでした」


「しかし、敗者にはなにも残らない。今の私には、もはや声をかける価値すらも……」


「いえ、殿下……スルさま。あなたにはまだ、できることがございます」


「なんだい? それは……」


「これを」


 そっと、手札勝負に勝利したことにより手の中に現れた手札を差し出す。


 その手札は━━


「今度はわたくしから、申し出ますわ。お受け取りくださいまし。『婚約破棄』のカードを」


「……」


「あなたさまからの婚約破棄手札勝負に勝利してしまったので、婚約破棄は成立しませんでしたからね。今度はわたくしから仕掛けさせていただきますわ」


「は、はは……降参サレンダー……それが私にできる最後のこと、か。いいだろう」


 こうして婚約破棄は適切な形で成立した。


 このあとわたくしは隣国の王子から超婚約成立手札勝負を挑まれそれに敗北するかたちで隣国に移り、なんやかんやでこのハメツ王国は滅びた━━


END

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

婚☆約☆破☆棄 稲荷竜 @Ryu_Inari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ