ラジオ猫たち(下)

6.

 月曜日、何時まで立っても来ないエレベーターを待っていると、キオスクの店員から声を掛けられた。まだ二十代ほどに見える青年は、通りに目をやりながら、いかにもこっそり来いというような仕草で私を手招く。キネトスコープの無声映画に出てくるギャングか小悪党のようだ。


「あんたがたのオフィスは休業ですよ」

「どうしてわかるんだい?」

「電気が消えてます」


 私はエレベーターのボタンを押してみたが、確かに何の反応もなかった。何時もならば階数表示器のうちの一球が点灯するはずである。


「僕は良く知りませんがね、今いろいろと不安定なんでしょう? そうなると彼らは電気を切っちゃうんですよ」


 電気を切る? 言われてみれば、このエレベーターは”動作電圧直流100V エジソン社製”だった。

 田園を突っ切る様に伸び、都市部では蜘蛛の巣かおばあちゃんの毛糸球のようにこんがらがる直流送電線は、私の故郷だと実に一般的な風景だったが、この北側では全く見られない。 鉄道から電灯まで、工場の機械からトースターまで、一概に送電塔からの無線送電で動いているからだ。確かに考えてみれば、このエレベーターは実に珍しい。こちらでは直流送電は行われていないので、電流戦争の初期に作られた直流用設備がどうしても交換できない時は、水銀整流器をかませるか、特例的に”壁”を貫いて南側から電線を伸ばすことになっている。


「なんでも電気の流れにパルスを仕込んで、それで向こう側と通信を取っているらしいですよ。無線だとどのみち傍受されるとかで………ああいけない、失礼!」


 客から声が掛かって、彼は表へと引っ込んでしまった。

 残された私はしばらくその場に立ち留まり、ビルに反響する通りの喧騒を聴きながら、心の中に不安が膨らんでいくのを感じていた。

 私はトースターの会社をリストラされて、コカインやらアブサンのやりすぎで気が狂っているのではないか? スパイというのはすべて妄想なのではないか? 私はこの二週間で読んだ膨大な新聞たちに紛れていた、黄色新聞のくだらない漫画を思い出す。転んで頭を打った男が自分を保安官だと思い込み、ピストルを持って”悪人”たちの溢れる通りへ飛び出していく………。

 私はこの降って湧いた何時まで続くか分からない休暇を、自らの正気を確かめるために使おうと思った。頭の中へボスの警告や負傷したK、通話を傍受していた男の姿が何度も蘇ったが、あるかもわからない身の危険と自分の実存の問題を天秤にかけると、明らかに後者へ傾くようだった。


7.

 はたしてKの病室は記念病院の三階にあった。奥に窓が一つだけある相部屋だが、他の患者といえば、足を骨折した老人だけだった。見舞いに来ていた孫娘が出ていくのを確認した後、だだっ広く感じる病室に、私は花束をかかえて入る。一応見舞いという体にしておいた方がいいと思ったからだった。

 Kはなにか本を読んでいたが、私が声をかけると、驚いた顔をして目をこちらへ向けた。


「懐のを出せ」


 私は一瞬何のことだか分からなかったが、すぐ拳銃について言っていると気付き、取り出して出入口から見えない位置へ置いた。


「どこの指示だ」


 Kは私から花束を奪うと、一心不乱に茎と茎の間を引っ掻きまわしはじめた。赤いガーベラの花弁が白いベッドへとどんどん散っていくのを、私は呆然として眺めるしかない。


「どこの指示って?」

「お前にここへ来るよう指示を出した奴のことを言え」

「いや、勝手に来たんだ。オフィスが閉まってるし………」


 自分が正気か確かめたかった、とは言えなかったし、なんならKのほうがおかしい人に見える。


「自分の意思で?」

「ああ」


 彼は最後に花束をひっくり返して全てぶちまけた。無残に破壊された花々と紙、リボンがあたりに舞い散り、Kはため息をつく。


「盗聴器はないか。奴ら空中通信を牛耳ってるからっていつも好き勝手しやがる」

「そういうことが前にもあったのか?」

「情報が筒抜けになってると思ったら、植木鉢の中にくだらないおもちゃが仕込まれていたことがあった。”モニュメント”も猫に………」

「猫?」

「うちもそういうことをしようとしたんだ。お前なら覚えてるだろ? 偉い金をかけて体内に盗聴器を仕込んだ猫を訓練して、要人や相手のアジトへ向けて放つんだよ。ラジオ猫って言ってな」

「知らない」


 そんな荒唐無稽な話はまったく身に覚えが無かった。Kの目がこちらを覗き込む。


「本当に覚えてないのか? 演技じゃなく?」

「一体何を?」

「お前の前の職を言ってみろ」

「セールスマン、トースターの」

「そういう再教育だったのか」

「なんだって?」


 話の流れが不穏な方へ向かっていた。Kは少しの間考え込んでいた。まるで何かを伝えることを躊躇しているかのようだった。


「本当にプレイヤーに返り咲きたいか?」

「頼むからもっとわかるように言ってくれ」


 私は絞り出すように言った。いつのまにか握り締めていた手が、びっしりと汗をかいている。

 体の中でなにかが脈動している。私は汗の粒をさらに握り締めて、付け加えた。


「私はただ自分の事を知って、自分で判断したいだけだ。末端の受信機のままじゃ嫌なんだ」


 Kはベッドに身を起こす病人なのに、まるでKが医師で、私は病状を知りたがる患者のようだった。Kは花弁をちぎる手を止めて言った。  


「”モニュメント”の調べによると、お前は学校を出た時点から北側のスパイだった。俺達はお前を”象”と呼んでいた。盗聴と電気工学と情報戦争のプロで、セールスマンなんかじゃない」


 私は気付いたら空き地の前にいた。多分病院を飛び出してメトロに乗り、ここまで走って来たのだと思う。

 空を見上げると、ビルに切り取られた白い曇り空が見える。私の目の前にある空き地は、私自身の記憶の中でなんども通い働いたはずの、トースター販売会社があった場所だった。ふくよかな兄と痩せた弟の兄弟が設立した、それなりの実績のある会社で、社員が五十名ほど働いていたはずだった。それがほとんど与えられた記憶で、あとは自分の無意識が勝手に補完した物だったと知った時、私の中に全く違う人間が目覚めていた。

 私はいつかの火曜日の昼下がりの事を思い出した。あるご婦人が新製品の、色々と立派な機能が付いたトースターを買ってくれることになり、引き換えに古いトースターの処分を手伝った記憶だ。手を覆う電工手袋の感触とペンチの硬さは本物の感覚だった。だが私がその時いじっていたのはトースターなんかじゃなくて、”タワー”諜報部のある部屋に設置された、新型の暗号解析器だった。入力された数字に対して夥しい数の機械式リレーが動作し、総当たりで可能性を探っていく物だ。

 私にしかけられた暗号は実にシンプルだった。

 葬り去られることを望まれた暗号を、Kが解いてしまった。”象” ——本当のコードネームは全然違うのだが——の私は明瞭になった頭で今すべきことを考えて、懐を確かめると、また走り出した。他の荷物はどこかに置き忘れてしまっていたが、今は銃さえあれば殆どの事をどうにかできると、もう分かっていた。


7.


 テスラ送電塔の地上五十メートルに”檻”と呼ばれる施設がある。

 建物の構造から分離されて電気的に絶縁されており、巨大な電力が渦巻き、放射されるこの施設の真っただ中にあるがゆえに、外部からのあらゆる影響を受けない。電磁波的な無風空間だ。普段は閉鎖されているものの、なにか両者にとって不利益をもたらすトラブルが起きた際にのみ、南北スパイたちの会合の場所となる。この場で起きた事は持ち出されず、たとえ”モニュメント”にも”タワー”にも知らされない。

 ”象”の私は過去二度、この場所に来たことがあった。一度目は北側の首相が不意の銃撃によって暗殺された際、南北の全面戦争を回避するため。二度目はある破壊的な発明の情報が流出した際だった。

 夕暮れの街を眼下に望みながら、私はひたすらに梯子を昇っていた。風が強く吹き荒んでいる。本当は発電所の職員に成りすまして昇降装置を使いたかったが、今日に限って警備が厳重になっていた。それはジュラルミンに覆われた歪な球体の中に今、ボスと”魔女”がいる事の証左となっていた。

 登り切り、送電塔を構成する夥しい数の電線や碍子に触れないようにしながら、”檻”に繋がる通路に入る。記憶によると入口の付近に南北のスパイ達が一人ずついるはずだが、今は影も形もない。床を探すと、まだ暖かい金属薬莢が落ちていた。私はそっと拳銃の弾倉を引き抜いて比べてみる。思った通り、私がボスに与えられた銃と同じ口径の物だった。


 私は考えに耽っていた。殺されて吊るされた”犬”はKの負傷に対するけじめで、”モニュメント”に対して取引をしたいという”タワー”のメッセージだった。ではKは一体何を追っていて”犬”に撃たれたのだろう? Kはなんで私の”モニュメント”による洗脳を解くような真似をしたのだろう? 午後になって病院へ戻った時、Kは病床から消えていた。初老の医師たちを残して、モルヒネでも打ちながら出ていったのだろう。

 私はただ、ある懸念を持っていた。ある復讐者が、その銃口を向ける先を誤る可能性だ。”檻”の鉄扉は鍵穴を強引に撃ち抜かれ、ひらきっぱなしになって風に揺れている。その向こうの空間にテーブルに着いた男女が居て、赤いコートの小柄な背中が、震える銃口を女へ向けている。駆けつけてきたのであろう見張りの二人は、その後ろから電発銃でCを狙っていた。まるで時間を停止したかのように、誰も身じろぎしていなかった。”魔女”が今気付いたかのようにこちらを見ると、ティーカップからソーサーへ紅茶をこぼして、そのまま皿から紅茶を啜った。


「しばらくぶりの顔ね。でもごめんなさい、客人の席はもう一つもないの。言ってもらえれば用意したのに」


 ”魔女”は透き通った声でボスへ話し掛けた。ボスは苦虫を噛み潰したかのような顔でこちらを見ている。

 私はなにかを話さないといけない気がしたが、いきなり単刀直入に本題を訊ねるのも違うと思ったので、別の事を聞く事にした。


「なぜ”トースターのセールスマン”だったんですか?」


 ボスは何かをあきらめたかのようにため息をついて、話に応じた。


「トースターは南側の電化の象徴だったからだ。私たちが本当に信仰していたのは偉大なるエジソン卿じゃなくて、トースターと電球なんだ。これでいいか?」

「ありがとうございます」


 私はまたサーカスの事を思い出していた。それは結局、華やかな嘘だった。でもひとつも嘘がないサーカスなんてこの世にあるのだろうか?


「どうして」


 舞台の真ん中で拳銃を構えるCの声は、やはり震えていた。白熱球が戸口から入り込んだ風で揺れて、原形質の影絵を作り出している。


「C、君の本当の仇は”魔女”じゃない。撃つ相手を間違えるな」

「じゃあ誰?」


 私はゆっくりと回想する。乱れた映画フィルムのように、今まで見てきたものが脳裏を駆け巡っていく。私はKの話したラジオ猫の事を、諜報資料を通じて知っていた。


「あの時、”モニュメント”が研究していたラジオ猫と勘違いして一匹の猫を撃った、その時の男の顔を覚えているか?」


 Cは今度こそこちらを見た。その眼は驚愕に見開かれていた。


「おぼろげだった。でもなんででしょうね。今、あんたの顔を見て思い出したわ」


 Cがこちらに注意をやったのを見計らって、おそらく彼女に一泡吹かせられたのであろう二人の見張りが襲う。私は彼らを殴り倒すと、外の通路へ転がした。


「なんで話したの? あたしがあんたを許さない事、知ってるでしょう?」

「そうしないといけないと思ったから」

「なによそれ」

 

 ほとんど絶叫に近い声が、金属質な音を含んで反響する。


「今わかったわ、これってマクガフィンの話ね。そこのお嬢ちゃんは猫の仇討ち、そっちは与えられた動機を捨てて、この話を動かす原動力が何かを知りたいと思ったのね」


 ”魔女”の声はどこまでも明るくて無邪気だった。


「マクガフィン?」


 ボスが困惑を口にする。


「それも”タワー”が見た未来の話か?」

「未来じゃなくて平行世界のお話。ヒッチコックという男の発明品なの。でも残念、あんまり楽しい物じゃなかったわ。聞いて驚くわよ、その世界の電流戦争の勝者は誰だと思う?」

「エジソン卿か?」

「ウェスティングハウス」

「ウェスティングハウス!?」


 ボスは椅子から飛び上がる様にして驚いた。「あの裏切り者のウェスティングハウスが!?」


「エジソン卿は直流送電網を撤退させ、私たちのテスラは”システム”を完成させられずに無一文。ウェスティングハウスはナイアガラの大瀑布に水力発電所を作って、交流送電で覇権を取るのよ」

「仮想戦記でも無さそうな筋書きだ。挑戦的だな」

「でもあったかもしれないの。私たちの”システム”は共鳴できる全ての世界を覗き、傍受することができる。あなたたちの”幽霊電話”と違ってね」

「””だ。それ以上は侮辱と捉えるぞ」

「あら恐い」


 私たちはただその場に立ち尽くしていた。私はCの瞳を覗いた。彼女の眼には多少の怒りの残滓が漂っていたが、どちらかと言うと困惑の方が多く思えた。

 私はおぼろげに”魔女”がかつて私に語ったことを思い出していた。”モニュメント”とは南側の巨大な国防省ビルの事だが、”タワー”は建物ではない。ニューヨークの自由の女神の跡地に作られた、非常に巨大でグロテスクな装置群の事だと。一般には航法用の電波塔と説明されていたが、実際は違う。テスラ送電塔が地球を覆う電離層と定常波に共振する装置だとしたら、”タワー”は他の無限に存在する宇宙の中の、地球の大気と共振する装置だった。”魔女”は二コラ・テスラの娘として、また弟子として、テスラの研究を引き継ぎ、やがて無数に枝分かれした運命を、バリコンをいじってラジオ電波へ周波数を合わせるように、観測できるようになったという。

 株価の変動、戦争や国際政治の趨勢、科学や技術の発達………平行世界から諜報された情報は、北側の繁栄に役立てられた。私が北側でやっていた仕事の多くは、”タワー”の見た可能性を元に、北側に不都合をもたらす出来事を防ぐ仕事だったのだ。

 でもそんなことはどうでも良かった。手にはまだペンチの感触と、あの晴れた公園で猫を撃った引き金の感触が残っている。

 私はCの手を取って、その手にある拳銃をしっかりと握らせた。少女の手にその鉄の塊は大きすぎるように感じたが、さっき見せていた構え方は綺麗な物だったから、多分大丈夫だろう。


「復讐を遂げてくれ」


 Cは虚ろな顔で拳銃を見て、私を見た。手が持ち上がっていって水平になると、照準を介して、また目が合う。

 不敵な目だった。何故? わからない。あれはまるで、なにか面白いことを思いついたような顔だった。

 考える間もなく、銃声が聞こえた。

 それきり私の意識は連続性を失って、どこかへと遊離しはじめた。

 病院、タクシー、モニュメント。

 まるでこの二週間を逆まわしにしたかのようなイメージが錯綜して、はじけて終わった。

 あのポプラの樹より背の低い私は、まわりの大勢の観客たちと一緒に、拍手喝采を送る。奇妙なサーカスだった。悪い夢にもってこいの出し物だ。

 夜が遠ざかり、覚醒へと向かっていく。






8.


 


 ある冬の朝の事だ。

 無線トースターが小気味良い音を立て、二枚のブレッドを吐き出す。私は棚からバターを取り出し、バターナイフで白い面に塗り拡げる。

 もう路地を抜けて通りの喧騒が聞こえてくる時刻だった。昨日は色々あったせいか、普段から十分も早く目が覚めた。だが転職と職場の変更によって出勤が二十分早くなったため、もう余分な時間は残されていない。急いで朝食を食べてしまうと、コートを羽織り、帽子を取ってドアを開く。早朝のつんと冷えた空気が、階段ホールに沈んでいた。


 今日もキオスクで新聞を買うと、駅のホームからメトロに乗る。新しい会社は四駅向こうの地区にある、トースターを売る企業だった。そこはまだ小さい会社だったが、立ち上げられたばかりの団体だけが持つ、ある種の活気があった。

 私はとりあえず、なりたかったトースターのセールスマンになることが出来て、こうしてメトロの座席へ収まっている。私の本当の人生を始めるにあたって、どうしてもトースターのセールスマンになる必要があったのだ。なぜだかは分からないが、確かな直感があった。まるで不条理小説のような話だが、それを言ったら誰の人生だってある程度の不条理さを抱えていて、ただ濃度が違うだけに過ぎないだろう。

 人込みを掻き分けて、女が私の前に立った。小柄で、まだ学生に見える。通学途中だろうか? 女はこちらを見つめているから、さっきから目が合ったままになっている。


「あの」


 声を掛けようか少し迷ったが、もうすぐ降りる駅がやってくることに気付いた時、思わず口を開いてしまっていた。


「何か御用ですか」


 女はふん、と鼻を鳴らしたきり、コートのポケットに手を突っ込んだまま動かなかった。交流モーターの音が弱くなってゆき、やがてメトロが揺れながら停車すると、私は鞄を持って席を立つ。

 なにかが私の背に突き付けられた。硬くて丸い物だ。私は硬直する。ゆっくりと後ろを見ると、女が筒を突き付けていた。

 彼女は仏頂面のまま、その丸めた紙を渡してきた。私が戸惑いながらも手を差し出し、紙を掴んだ事を確認すると、すぐにホームへと降りる人混みの中へ消えていく。


 駅の出口で、私は握ったままになっていた紙を開いてみた。

 それは小ぶりの不鮮明な写真プリントだった。象の写真? 動物園の象じゃない、と直感した。亜大陸の湖水にいるような、束縛されない象。裏返して丸まった紙を手で伸ばすと、ペンで文が添えてあった。


「………”わが復讐は達せられた”?」


 全く意味が分からなかった。だが私の心は不思議と温かくなっていた。

 私は鞄を開き、ちょっと考えて三枚の朝刊の間に写真を挟んだ。


 今日もこの街のどこかの玄関先で、私は便利な新機能が付いたトースターを売る。タクシー運転手は客を運び、花屋は花を売っているし、医者は患者を診察しているだろう。きっと今、この街にある数えきれないほどのキオスクで沢山の新聞が売れているのだから、この街のどこかには、新聞を読むだけの仕事もあるのかもしれない、と得体もないことを考えてみる。

 新聞を隅から隅まで読んで、どこか気になる事件があったら、タイプライターでまとめるのだ。昼、なにかの拍子に同僚へこの話をしたら、「そんな職業がもし存在するとしたらきっと、あくびが出るほど暇な仕事に違いないよ」と言われてしまった。

 与えられたわが社の新製品のカタログをめくりながら、確かに、と思う。例えいくら適性があったとしても、自分ならきっと数週間で辞めてしまうだろう。

 どこかで猫が鳴く、そんな昼下がりだった。朝のもやが晴れてきて、坂の向こうのテスラ送電塔を光が照らしている。


 今日も実に平穏な日だった。




《終わり》

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ラジオキャッツ・テスラシティ ボンタ @hahahanoha

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