最後のお手紙

 あなたへ


 その日は、突然に、なんの予告もなく訪れました。

 介護する相手が居らず、介護用のアンドロイドは、部屋の片隅で待機モードですし、家の中で動いているのは私だけ。


 静かな世界。あなたとの思い出だけを固めて作った時間の止まった世界。そこに住む住人は私ひとり。


 それが突然、なんの前触れもなく破られました。玄関のドアがシュッ! と音を立て、招かれざる客が来訪したのです。私はもう、びっくりしてしまいました。

 私だけの世界への不意の訪問に怒りながら、警戒して遠巻きに玄関の方を見ると、容姿も背格好も雰囲気も匂いも、まるであなたとは似ても似つかない女性が立っていました。

 だいたい誰の支えもなしに一人で時点で、あなたではないのです。


 でも、私にはわかりました。


 私を警戒させまいと、弱々しく私の名前を呼ぶ声……


 もちろん、その声も、あなたのものとはまるで違う。


 でも、私にはわかりました。


 ――私をその名前で呼ぶのは、あなただけ!


 私は玄関に向かって駆け出すと、そのままの勢いであなたに抱きつきました。


 ――おかえりなさい!


ミャアァオゥ! ミャアァオゥ!おかえりなさい! おかえりなさい!


 あなたは、軽々と私を胸元に抱えあげると、頭から首、首から背中、背中から尻尾の先まで、何度も何度も撫でてくれました。


「ごめんね。運動ニューロン含めて脳幹からサイボーグ化しちゃったから、リハビリにすっごく時間かかっちゃった。寂しくて、会いたくて、時々ベランダにカメラを飛ばして見に来てたの気付いてた? えへへ。私も人工皮膚になっちゃったから、あなたと同じ。ちょっとクサいけど、良いよね。同じ匂いなんだし」


 私はそれまでのありったけの想いをぶつけて鳴き、そして甘えました。自然と喉がゴロゴロと鳴りました。


 「私たち、これからも、ずーっと一緒だよ。よろしくね」


 もちろん! あと、カメラの録画機能が壊れてしまっているから直して欲しい! それから、ソロキャンに連れて行って! サイボーグと猫のアンドロイドだから、ソロニャンだよね! それから、それから……





 《おわり》

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トワノアイ Ver.1.2 潯 薫 @JinKunPapa

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