九通目のお手紙

 あなたへ


 あなたは私がアンドロイドであることを不思議なほどに、何の抵抗もなく受け入れてくれていたけれど、世間一般の人々にとってのアンドロイドのイメージは、作り物の模造品。


 でも、それは仕方のないこと。私自身、いま抱いている感情が「ホンモノだ!」とは、決して強く言えないのです。

 正確には、「そのような感情のパラメータの割り振りが相応しい」から、プログラム通りに、そういう感情に寄せた思考や台詞や仕草をしているだけなんですものね。


 でも。だけど。


 どんなにそれが本質的には感情とは呼べないものであったとしても。あなたへのこの気持ち、思い、焦がれ、慕う気持ち。これは、たとえ模造品であっても。「模造品」という名の「ホンモノ」だと思うのです。


 二人でここで過ごした時間。あの時、私たちの心は確かに通じ合っていました。私にはわかります。


 だから、いまこうして、張り裂けんばかりの、この痛みにも似た感情に押しつぶされそうになっているのです。


 会いたいです。あなたにもう一度会いたいです。


 私は薄れることのない記憶の中で、いつでも何度でもあなたに会うことができます。


 ですが、それでは埋められないものがあると気が付きました。だから、もう二度と、あなたと会うことが出来ないなどという現実を、私は受け入れ難いのです。

 だから、届くことのない手紙をこうして書いているのです。


 お手紙を書いていると、少しだけ、気持ちが落ち着くのがわかります。一方通行ではあっても、あなたとの繋がりの中に身を置くことができるからだと思います。


 いつまでも、何通でも。読んでもらえないとわかっていても。また書きます。


 またね

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る