第8話 (完)
「~~~~~~♪」
「……ご機嫌そうだな。出戻り娘め」
「あら、お父様。どうかしたのかしら?」
後ろから声をかけてきた父親――冥王プルトンの言葉にカトリーナは首を傾げた。
場所は冥界。その中央にある王宮である。
漆黒の大理石で建てられた荘厳な王宮は、フロスト王国の王宮の何倍もの大きさがあった。
その廊下をご機嫌な様子で歩いているカトリーナの腕の中には、たくさんの資料が抱えられている。
「これから裁判か? 仕事ばかりしている暇があったら、結婚相手でも探したらどうだ?」
「あら、婚約破棄されて傷ついている娘に酷いことを言うのね。お父様が勧めてくれた相手と結婚しようとして失敗したのを忘れたのかしら?」
「…………」
娘の反論にプルトンは渋面になった。
冥王の娘であるカトリーナは死者の国において裁判官として働いている。
亡者となって冥界にやってきた者達の生前の罪を裁き、然るべき刑罰を与えることが職務である。
職務に忠実なカトリーナであったが、生粋の仕事人間である彼女には千年以上も浮いた噂がなく、独身を貫いていた。
娘がこんな調子では、プルトンはいつまで経っても孫の顔すら見ることができない。
見かねて適当な男を見繕って婚約をセッティングしたのだが、それも相手の有責によって破談に終わってしまった。もはや笑う気にもなれない状況である。
「簡単に片付けようとしたってそうはいきませんわよ! お父様の顔を立てて一度は婚約しましたけど、それもダメになったからには千年は仕事に専念しますからね!」
「お前……。2000歳にもなってまだそんなことを……」
「仕事に年は関係ありませんー! それに……これから、あの国の人間達の裁判があるんですから婚活なんてしている暇はありませんわ!」
リチャードをはじめとしたフロスト王国の人々は、契約が破棄されたことによって冥界に落ちてきている。
彼らの中には善良な人々も多いが……リチャードとメアリー、その取り巻きにはカトリーナを陥れた罪がある。裁判は針で全身を刺すように厳しいものになるだろう。
「さて……どんな刑罰を言い渡してあげましょうか? コキュートスに落として氷漬けにしてもいいし、マグマで骨まで溶かしてあげるのもいいわねえ! いっそのこと、釜ゆでや針山といった軽い刑罰から週替わりで地獄めぐりをさせてあげましょうか。ふふふふ、ウフフフフフフフフ……!」
「…………」
プルトンは処置なしとばかりに首を振り、軽やかな足取りで裁判所に向かっていくカトリーナの背中を見送った。
それから――リチャード達は千年にも及ぶ地獄での刑罰を与えられることになり、気の遠くなるほど長い時間をかけて己の過ちを悔いることになった。
カトリーナがようやく心を許せる結婚相手を見つけて冥王を安心させるのは、それからさらに千年以上も先のことである。
終わり
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最後まで読んでいただきありがとうございます。
他にも短編小説を投稿していますので、どうぞよろしくお願いいたします。
・悪役令嬢だから暗殺してもいいよね! 婚約破棄はかまいませんが、無実を証明するためにとりあえず毒殺します。
https://kakuyomu.jp/works/16816700429290875053
・悪役令嬢は毒殺されました……え? 違いますよ。病弱なだけですけど?
悪役令嬢ですって? いいえ、死神令嬢ですわ! レオナールD @dontokoifuta0605
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