第5話
気付けば漫画の世界にいて、主人公の技が使え、そこに居合わせた主人公怪しまれ、虎太は割といっぱいいっぱいになっていた。
自分が何故か主人公の技を使えた。この事について考える事は幾つかある。
例えば、もう一度使えるのかだったり、他の技も同じように使えるのか、何か技を使用するのにコスト、デメリットは生じるのかという問題である。
もしも技がもう使えないのであればトビタカに見せた技を教える、という話は難しくなる。
だからこそ彼はトビタカになにか技を使えるのか、という事を聞いた。
虎太は原作のあらすじは一通り覚えている。だから何の技を使えるのかを知ることが出来れば自分が分かっていなかった事柄であるこの世界がどの程度の進行度の世界なのか、ということがわかると同時に、才能を見抜き、主人公に技を教える師匠ポジションというキャラクターを演じてこの場を乗り越えることが出来るかの判断ができると考えた。
その結果、主人公であるトビタカから得られた答えは未だ技を使えないという言葉。
これは虎太にとって最高の状況であると言っても過言ではなかった。先程危惧していたように、もしもう虎太が一度使用した技である[ファルコンストライク]を使えないにしても弁が立つのだ。例えば、虎太が使った[ファルコンストライク]は闘気と呼ばれる力を操る事で使えるようになる技なのだが、原作ではその闘気を自在に操る為の修行パートがあり、それまで主人公は闘気の存在を知らないのだ。
つまり、仮に[ファルコンストライク]が使えなかったとしても基礎体力を鍛える、などと言って適当に筋トレをやらせても怪しまれることは無いという事。
次に、現時点でのこの世界の危険度は低いという事。最終的に神様と戦ったりするこの世界は文字通り海を割り山を砕くような一撃がわんさかと登場する。
しかし技が使えないということは原作序盤であることを表しており、これはまだ戦う相手がチンピラや少し腕に覚えのある悪党だとかその程度で、あからさまな漫画的戦闘力のインフレが起きていないのだ。
今はまだ戦いは優しい難易度のであるが、物語が進むにつれて戦いは激しさを増し、インフレする事は確かだ。そうなってしまえば虎太は巻き込まれれば死しかない。
主人公は今はまだ弱いものの成長し、とても強くなる。この世界で生き残るにはまだ弱い今のうちに恩を売って後々戦いが激化すれば主人公に守ってもらうような感じで立派になったな、とでも言いながらフェードアウトしていけばいいだろう。
その為に虎太は不敵な師匠ポジの演技をすることにしたのだ。
まずは打ち解けてもらう必要がある、と虎太は感じた。そのために適当に嘘を交えつつ、原作知識を披露して流れに乗れば自然と打ち解け、力を見抜いた師匠ポジになることが出来るだろう。
虎太はなるべく親しみやすそうに笑顔を作り、ゆっくりと声をかける。
「改めて自己紹介をしよう、私の名は武田虎太。君の名前を、教えてくれるかな。」
「鷲空トビタカです。でも貴方は聞く必要無いですよね。」
一応は答えたものの未だにとけぬ警戒心。
さっき名前言ってたろ、と伝えるそれに対して、ここが踏ん張りどころだ、とさも漫画のキャラをイメージし、強者であるように表情を作る。
「もちろん知っているとも。でも私の調査が間違っている可能性もゼロではないからね。」
あえての肯定。否定するのは明らかに怪しいからこそここは肯定するしか有り得ない。それに間違っている可能性を示唆するとことで自分も完璧ではないと印象を持たし、正体不明の硬すぎる印象を無くそうと言う考えの元だった。そして虎太は、話の流れを作るように会話を続ける。
「私は才能のある者を弟子にしたいと思いながら旅をしていてね。ある日立ち寄った村で君を見かけた際に眠れる力に気付いたから素性を調べていた、という訳さ。」
「はぁ……なるほど。」
ストーカーかよ、と思いつついまいち眠れる力というのにピンと来ないながら一応は頷くトビタカに矢継ぎ早に話を進めていく。
「君は母を助けるためにこの町の大会に参加するつもりだろう。一緒に行こうではないか。」
「え、分かるんですか!連れていってください!」
「いや、だからそう言ってるだろ。それなら今すぐ行こうではないか。」
道がわかると知って手のひら返すトビタカに若干呆れつつも話がどうにか進んでまあ、いいかと会場へ向かう。虎太は会場の場所は厳密には知らない。
漫画で出てきた会場の場所をいちいち覚えてる読者もいないだろうが、時系列的に始めの方なら間違いなく大会に出場、それなら会場へとなるのが物語だと推測して持ちかければ案の定であった。
場所は知らないがどうせ真ん中の方にあるだろう、と適当に思い、共に歩いていたら。
「ヒヒャハハハ!!!おいお前!!!金よこせ!!!」
いきなり大声で金品を要求するモヒカン姿のパンクな男に絡まれる。
(ん?)
どうも見た事がある男だが、こんな展開漫画に無かったような気がする。おかしいな、と考える虎太。まあ正直怖いし走って逃げようかと思い、トビタカに声をかけようと口を開いた瞬間だった。
「なんだ、悪いヤツめ!かかってこい!相手になってやるぞ!」
威勢のいい声で虎太が少年のような口調で威勢よく啖呵をきる。その姿に少し不思議に思うトビタカ。
(この人、先程までは冷めて掴めないような男だと思ったが正義感の強い人だったのか?)
一方いい顔で啖呵をきった虎太はと言えば。
(ウェッ!?口が勝手に動いた!?)
自分の意志でもないのに勝手に喋った事に驚愕して混乱していた。しかしそこではた、と気づく。
(ん……?これもしかして漫画の世界じゃなくてゲームの導入じゃね?だとしたらこれは、チュートリアルイベント!って事は俺は、ゲームのプレイヤー……ってことか!?
ネット対戦メインの格ゲーのプレイヤーキャラになったから誰の技でも使えるんだが 恵那氏 @misozuke616
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