―34― 聖剣の在り処②

 聖剣が紛失している。本物がどこにあるのか見当もついていない。そう、ティルミお嬢様は語っていた。

 だというのに、目の前にいるメイドのエネはこう口にした。

「現国王ハーリアーナ・ナーベルがちゃんと所持している」と。


 そんなはずはない。

 調べてみてわかったが、何十年も前から聖剣は公の場から姿を消しているというのは、本当のようだ。

 もちろん民衆にはそのことが伝わらないように、レプリカを用意しているらしいが、聖剣が放つ神々しい光を再現できるはずがなく、聖剣紛失説が民衆たちに広がっているらしい。

 そして、それが現国王の不信に繋がっているらしい。


 だというのに、現国王が聖剣を所持しているだと? 正直、信じられない。


「本当に現国王が所持しているなら、聖剣を隠す理由がないと思うんですが」

「一つだけある」


 と、彼女が断言する。


「現国王が聖剣に認められなかった、とか」


 なるほど。

 ナーベル王国は特殊だ。

 本来、国王というのは血筋を重要視するのが一般的だが、ナーベル王国はそうではない。別名ナーベル聖剣領と呼ばれるように、この国の王になるには聖剣に認められることが絶対だ。

 それは、血筋よりも重要視される。


「現国王が聖剣に認められなかったって、そもそも聖剣に認められる条件なんてあるんですが?」

「聖剣に認められるには、勇者の血を受け継いでいることが絶対で、その上で、王の器を持っていないとダメ」


 例えば、過去、二人の王太子がいたことがる。普通の国なら、長男が次の国王になるのが一般的だが、その長男が聖剣に認められず、次男が聖剣に認められたため、次男が国王に即位したという事例がある。

 という話をエネは説明する。


「つまり、現国王は王の器を持っていないと聖剣に見なされた……?」

「いや、それ以前の問題。現国王は勇者の血を受け継いでいない」

「……は?」

「なにせ現国王は、前国王の王妃の不貞によって生まれた子供だから」

「な、なるほど」


 確かに、そういうことなら、現国王が本物の聖剣を隠す理由としては筋が通る。

 こんなことが事実として公表されたら処刑は免れないだろう。


「じゃあ、勇者の血はすでに断絶している?」

「いや、一人だけ勇者の血を引いている人物がいる」

「それは、誰なんですか……?」


 食い気味に僕はそう尋ねていた。


「ティルミ・リグルット」


 と、彼女は一人の少女の名をあげた。

 そんな馬鹿な。だって、彼女は、リグルット家の人間だ。


「そんなはずがありません。彼女はリグルット家の長女です」

「そう、リグルット侯爵家の長女と世間的には知られている。けど、本当は違う。前国王の一人娘。政権争いによって処刑されそうなところを、リグルット家に救い出された後、身を隠すためにリグルット家のフリをしていただけで、彼女はリグルット家の者ではない。彼女は立派な王族で、正式な名はティルミ・ナーベル」


 絶句していた。

 けど、同時に納得もしていた。

 ナルハにティルミお嬢様が王になろうとしている聞かされたとき、正直よくわからなかった。

 ただの侯爵家の娘がそんな大きな野望を抱くのか、よく理解できなかった。

 けど、彼女が勇者の血筋を引いているのだとしたら、話は変わっている。

 彼女は奪われた王位を取り返そうとしているだけに過ぎないのだ。


「とはいえ、事はそう単純ではない。聖剣さえ手に入れれば、ティルミ・ナーベルが王の血筋を引くことを証明できるけど、陛下は聖剣をそう簡単には渡さない」


 なるほど。

 つまり、ティルミお嬢様が王になるには、陛下から聖剣を奪う必要があるというわけか。

 けど、このことをティルミお嬢様は知っているのだろうか? ティルミお嬢様は僕に聖剣を探すように命じた以上、知らないと思うべきか。いや、彼女が僕を遠ざけるために、嘘を言った可能性のほうもありそうだ。

 どういうわけだが、彼女は僕の力を借りたくはないようだし。

 とはいえ、念のため、エネに聞いてみる。


「その、ティルミのお嬢様は聖剣について知っているんですか? もし、知らないなら、なんらかの手段を用いてそのことを伝えたいんですが」

「それなら問題はないかと。ティルミ・リグルット嬢なら国王陛下が聖剣を隠しているのは把握済みだと思う。とはいえ、どこに隠しているのかまではわからないでしょうけど」

「なぜ、そう言い切れるですか……」

「私の仲間は王都にも潜伏している。その仲間から教えてもらった。」


 そうなんのか。

 スパイって、けっこう色んなとこに潜伏しているんだな。


「じゃあ、もう一つ質問してもいいですか?」

「もちろん構わない」

「なぜ、現国王って不人気なんですかね? 聖剣紛失説が国王の不信に繋がっていると聞きましたが、理由としては少し弱い気がして」

「その疑問は最もかも。確かに、聖剣きっかけの一つでしかない。敗戦して領土を奪われたことと、汚職まみれで経済が困窮したこと、後は王位につくために親族をたくさん殺したこと、と不人気の理由ならたくさんある」


 なるほど、国王陛下が不人気なのは聖剣だけが理由ではないのか。


「国王が不人気なのはわかりましたけど、ティルミお嬢様が次期国王として民衆から支持される理由がわからなんですよね。ティルミお嬢様よりも国王に相応しい人いる気がして」


 ティルミお嬢様が民衆から人気なのは理解できる。

 とはいえ、人気だからという理由で、ティルミお嬢様が次期国王として支持されているのは理解できない。ティルミお嬢様よりも優先されそうな人物は多そうだ。例えば、第一王子とか。


「あぁ、それは、ティルミ・リグルット嬢が実は王族だという噂が、すでに民衆たちに広まっていますから」

「えっ、そうなんですか……」

「けっこう有名な噂だけど」


 そんなの知らない……。

 エネから、ティルミお嬢様が王族だと聞かされたとき、強い衝撃を覚えたと同時にとんでもない秘密を知ってしまったと思っていたが、実はそんなことなかったのかも。


「同時に、現国王陛下が王の血筋を引いていないから、聖剣を民衆たちに見せないんだという噂も近頃は広まっているみたい」

「……そうなんですか」

「噂を流しているのは十中八九リグルット派の貴族たちでしょうね」

「すでに水面下で争いが始まっているんですね……」

「ともかくティルミ・リグルット嬢が聖剣を手に入れて、その力を引き出してしまえば、全てが解決すると思う」


 と、エネが言うもののそう簡単にはいかないだろう。

 王位を奪われることがわかっていて、国王陛下が聖剣をみすみす手放すはずがない。


「ありがとうございます、色々と教えていただいて」

「私はただ、契約に従っただけ」


 と、エネはぶっきらぼうに答える。

 お礼を言ったんだから、素直に受け止めればいいのに。そうしたら、もう少しかわいいのに、と余計なことを考えてしまった。






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新作、書きましたのでこちらもよろしくお願いします!


タイトル

『実は最強の探索者、嘘ばかりつく鑑定スキルにまんまと騙されて、自分を最弱だと思い込む〜SSS級モンスターをF級だと言い張るんじゃねぇ!』


作品URL

https://kakuyomu.jp/works/16817330660928163051

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虐げられた奴隷、敵地の天使なお嬢様に拾われる ~奴隷として命令に従っていただけなのに、知らないうちに最強の魔術師になっていたようです~ 北川ニキタ @kamon

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