第7話 心の環境戦士、参上!
「じたばた、ときめいてましたね、先輩」
「はっ? なんで知ってんの! 知ってんのっていうか!」
「見てたんで」
「見てた!? 陰で見てるとか悪趣味! 完全に不審者に話しかけられたと思ったじゃない! あの写真も、とっとと消しなさいよ!!」
「久々に見ました。おじさんが笑ってるところ。あの日から笑わなくなっちゃったから」
「あの日から?」
「おじさん、孤独な男やもめなんですよ。奥さんに先立たれて」
「えっ!?」
わたし、今ショックを受けた?
もしかして、死別の衝撃より、結婚してたって知って、ショックを受けた?
笑わない? あの八重歯も隠して?
なんてもったいない!!
おい、今そこじゃないだろ……
「おじさん、以前はもっとキラキラしてたんです。永遠の少年みたいで。子供もいなくて、一人取り残されちゃってるみたいで。なんか先輩なら、おじさんを笑わせてくれる気がしたんですよね」
ハヤテ君の中の人にも闇があった。
寂しいおどけものだ。
初恋のあの人と同じように。
ポメラニアンさんからメッセージが届いた。
『今週末、動くハヤテ君だね! 検索しても、中野仁志さんってホント静止画だから(笑)』
すでに、静止画どころではない。
こんなこと、ポメラニアンさんには言えない。伝え方が分からない。
なんてことだ! わたしの唯一全てをさらけ出せる場所が!
何もかも、後輩君のせいだ!
イベントの日がやって来た。
わたしにとって声優イベントへの参戦は今回が初めてだった。
これも、ポメラニアンさんのお誘いである。
「環境戦士! 地球の平和と、人々の喜怒哀楽は俺達が守る!」
『環境戦士 喜怒哀楽』の声優が登壇し、4人による生アテレコが行われた。
登場したハヤテ君の中の人は、本当にあの日逢った中野仁志さんだった。
あの日から、この鼓動の高鳴りがおさまらないでいる。
「泣かないで! アヤメちゃん! 怒らないでリキヤ君! 僕が笑わせるから!」
「ライト! ってか、僕とキャラかぶってんだよぉ!」
彼の口癖が生で聞ける日が来るとは思わなかった。
中の人が、キャラクターさながらにジタバタ舞台を走り回るとは思わなかった。
中の人に、これまで興味を持ってこなかったが、戦士達が本当に生きているようで、わたしはその光景に見惚れていた。
ハヤテ君と中の人は、ギャップがなさすぎた。
後輩君のせいで、中の人の背景を知ってしまったせいか、より重みが出ているのかもしれない。
帰り道、わたしは、あの時計の下に寄り道した。
すると、どうしたものか、そこにはハヤテ君の中の人がいた。
「好きです!」
「え、また告白?」
「正直、今この気持ちがなんなのか、そもそも、二次元なのか、三次元なのか、分かりません。だけど、中野仁志さん! わたしは、あなたを笑わせたいです!」
「え……」
「ごめんなさい。中野君、あ、辰輝君から色々聞いてしまいました。その、奥さんのこととか……」
「ああ。でも僕は、ただのおじさんですよ?」
「わたしは、あなたの喜怒哀楽を守りたいです!! 真面目なピアノが弾けそうなガリ勉じゃなくて、無趣味で男もいない、仕事しかしてない女じゃなくて、バカやって、おどけて、ハヤテ君の時折見せる寂しそうな顔を、笑顔にできるような……」
「ハヤテを笑顔に?」
「だって、ハヤテ君は笑わせてばかり。ハヤテ君を笑わせてくれる人は、どこにもいないじゃないですか!」
「!」
「ハヤテ君の心の環境戦士! ハヤテ君の喜怒哀楽はわたしが守る!」
「ひなこちゃん、ってか、僕とキャラかぶってるよぉー」
中の人は、ハヤテ君の声でそう答えると、八重歯を見せた。
END
隠したくても隠せない、君の八重歯が突き刺さる!〜次元の狭間に落ちた恋〜 佐藤そら @sato_sora
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