8話 地獄の秋の強化合宿

 皆様はこのお昼頃どうお過ごしでしょうか。

 ちなみに僕は… 地獄の秋の勉強合宿真っ只中です☆


 『「うおおおぉぉおおおあああー!」

「うわああああー!」』


 「おらっまた間違えてんぞ!しっかりしろぉ!」


 『「イエッサー」「ホイッサー」』


 金曜日の放課後に行われた勉強会の延長で始まった、田中くんの家での勉強合宿は最終日ということもあり、最大の盛り上がりを迎えていた。


 僕は今まで動かしていなかった脳みそを急動かしたため頭がおかしくなり、田中くんは野球でしか使わなかったため、筋肉になった頭を動かしたせいで気分が高揚、彰は2人に崇められ尊敬されてテンションが上がり調子乗っているという図が出来上がる。



 だからこそ3人とも気がつかなかった、その3人の姿を見ている人影に。



(うわぁ…なにあれ。キモい…)


金曜日に奏から電話で言われたことを思い出す。


 はぁ、疲れた〜

 いつもより長引いた部活のせいで疲労困憊だよ。

 もう早くお風呂入って汗洗い流した〜い。


 早くお風呂に入りたいという気持ちが私の歩く足を速くさせる。

 家の鍵を開けると微かにお母さんが電話をしている声が聞こえる。


 お母さん電話してるな。

 こりゃまた、長電話になるだろうなぁ。


 そっと音を立てないようにドアを閉めていると、大きく目を開けたお母さんと目が合う。


「あっ、ちょうど今寧々が帰ってきたわ。

今すぐ変わるわね!」


 お母さんが私に手を洗う隙さえ与えず矢継ぎ早に電話を手渡す。

 

「…こんばんは。」


 電話の相手が誰なのかも教えてもらえないまま、恐る恐る挨拶をする。 


「夜分遅くに電話かけて、すまん。」


 聞き慣れた幼なじみの声にホッとする。


「なんだ、奏か!

急にお母さんが電話変わるもんだから

私怖かったよ〜

それでどうしたの?」


「ああ。

今日から秋の勉強合宿を俺の家でやるんだけど、隣の家だし下手したら寧々の家まで聞こえるかもしれない。

だから先に謝っておこうと思って…。」


 こんなことまでわざわざ言いに来るなんて本当に奏は律儀だなぁ。

 それとも私が北川くんが好きなのバレてるとか?

 ないか、奏だしな。


「そうなんだ。

 じゃあ暇になったらお菓子でも持って行ってあげてもいいよ。」


私も北川くんに会いたいし…


「それはすごく助かる!ありがとうな。」


「貸しひとつだからね!」


 私は彰くんと会いたいだけだけど、幼なじみに恩を売っても悪いことはないだろう。

 あばよくば私と彰くんが付き合うの手伝ってくれないかなぁ、なんてね。


 それで金曜日も土曜日も予定入ってたから空いてた日曜日で、彰くんと少しだけでも話せるかな?

 みたいにウキウキでお菓子を届けに来たら、この有様だし。

 私が後ろに立ってるの誰も気がついてないし…。



「失礼しまーすぅ!!!」


『「うわっ」「えー!」』


 鈴木くんと彰くんが大きな声を同時に出す。


 本当にこの二人は仲良いんだな〜


「なんでこんなところに女の子が…」


「あれだろ俺達が五月蝿さすぎて三河さん苦情入れに来たんだよ。」


 二人がコソコソと話している。


 普通に内容聞こえているけど、別に苦情入れに来たわけじゃないんだけどなぁ。


 奏は私が来た理由を知ってるくせに、訂正を入れないで、二人を見て肩を震わせて笑ってる。

 その顔があまりにもうざくて蹴りを入れたくなるけど、彰くんの前だからしちゃダメよ私。

 我慢するのよ!


「私がお菓子を差し入れに来たってのに、幼なじみさんは無視ですか?」


「ごめん、ごめん。

なんか面白くって、差し入れありがとう。」


 朗らかに笑う幼なじみ。

 その顔憎めないからやめて欲しいんだよ、これ以上責められないじゃない!

 

「三河さん差し入れに来てくれたのありがとう!」


 彰くんが顔をくしゃくしゃにして白い歯を出して笑う。

 かわいい!!好き!

 そうやって笑うところが好き!

 可愛いところも好き!いつも元気なところも全部好き!

 どうしよう一生分の幸せ受け取っちゃったかも。


「えっと三河さんありがとうございます。」


鈴木くんが正座をして私に頭を下げる。


「鈴木くん仰々しすぎるよ!」


鈴木くんいつもクラスで話しかけるなオーラ出してるから、話したことなかったけど意外と面白い人だったんだな。

 初めて知った。

 奏の友達がいい人そうで安心した。


「んじゃ、せっかく三河さんに差し入れ貰ったし休憩にする?」


『「やったぁぁぁぁ!」「よしっ!」』


 彰くんの言葉に鈴木くんと奏が喜びの雄叫びをあげる。


──そんなに彰くん厳しかったんだ。

 ちょっと意外、いつも優しいから…。


 また新しく北川くんを知れた。

 ふふっ、これだけで生きてて良かったと思える。

 すごいな北川くんはこんなに私の気分を変えられちゃうんだもん!



…三河さんずっと彰のこと見てるなぁ。

 もしかして彰のことが好きなのかな?

 だとしたらとても面倒な4角関係ができてしまうのでは?



 えっと、まとめると。

 彰は森先生が好きで、田中くんは多分三河さんのことが好き。

 それで三河さんは彰のことが…。

 うわーこれは拗れる。めちゃくちゃだ!



 とりあえず、相談されるまでほっとこう。

 うん。僕は人の恋路のことで頭をいっぱいにするわけにはいかないんだ!

 受験、受験!


「あっ、そういえば。」


 突然三河さんが思い出したかのように手を叩く。


「奏は関係ないけど、明日の朝。

文化祭の出し物の案だしやるってクラスLINEに来てましたよ。」



「ええ〜知らなかった。

教えてくれてありがとう、三河さん。」


「役に立てたなら良かったです!」


 コミュ力をサラッと見せつけてくる彰が答えると、三河さんが顔を赤らめて微笑む。


 これは確定、三河さんは彰に惚れている。



 確かに彰モテそうだもんな。

 顔が爽やかイケメンで、運動神経は悪いけど優しくて、勉強ができて、ノリが良くて、クラスのムードメーカーで…。

 考えれば考えるほど良く僕と友達になってくれたな。

 


 田中くんは今どんなふうになっているのだろうかと思って隣を見る。


──田中くん苦虫を噛み潰した顔してるよ!

 うわっすごい目で彰を見てる、怖い!

 こんな顔してる自覚田中くんあるのかな。



 これは相談されるまで待ってる場合じゃないな、彰と田中くんの関係が拗れるのは絶対に嫌だ。


 僕はここ数日で絶対なんとかしようと心に決めた。

 



 

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さよならは言えない 福神漬け @inu5rouFramboise

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