7話 先生との面談

「鈴木、今の成績じゃ本城は難しい。

いやほぼ不可能なことは理解できるか?」


「…はい。」


 進路希望調査を提出した後すぐに森先生に職員室へと呼び出された。


 勢いで本城と書いてしまったけど、今高校3年の9月だし。

 これじゃあビリギャルならぬ、ビリネクラになっちゃうよ。


「塾とか通っているか?」


「…多分行ってません。」


「?多分とは?」


「行ってないです!」


「そうか…」


 森先生が「第一志望 本城」と書かれた僕の進路希望の紙と睨めっこしている。

 僕のような生徒のせいで頭を悩ませてしまって申し訳ない。


 彰に本城舐めるなよ!って思ったけど自分が一番舐めてることに今頃ながら気がつく。


「家庭に鈴木の家庭教師や塾の費用の余裕はあるか?」


「えっと、家庭教師とまでは少しきついと思いますけど塾なら…。

でも塾の授業に追いつけるかどうかは…

多分難しいですね」


押し黙ってしまった。

どうしようやっぱり無理だよね。

うん、なんかもう浪人考えた方がいいのかな?

 でも本城なんて最難関校だから何回か浪人して彰と田中くんが卒業した後に入学…。

 なんてことになりかねないんだよな。

 もし、入学できても留年しまくって卒業できないなんてことも考えられるし。


「確か…鈴木は北川と仲が良かったよな?」


「えぇそうですね」


 ──急になんの話だろうか?

 もしかして成績悪い友達がいると内申下げられるとかあるとか?

 そうだったらすごくまずい。

 彰に迷惑が掛けることになる。


「北川さんとは別に…」


「そうか、わかった。もう帰っていいぞ」


「へ?」


「どうかしたか?」


「なんでもないです!

じゃあ失礼しました!」


 すぐに職員室のドアを閉めて廊下に出る。


 とりあえず良かったのか?

 でも問題がまだ解決していない。どうしよう二人と同じ大学行けないよ。

 僕が行ける大学選んだら彼女に会ってしまうかもしれないし、もう諦めて就職を考えた方がいいのかな?

 高卒で雇ってくれる会社ここの近くにあるといいなぁ。


 そういえば彰の好きな人って森先生なんだよね、意外かも。

 彰はもっと女の子らしい子が好きそうなイメージなのに森先生は結構男の人っぽいから。

 彰は結構ヘタレなところとか、抜けてるところがあるから森先生みたいな意志の強そうなしっかりした人がいいのかな?

 それにしても森先生のこと「森ちゃん先生」って呼ぶの彰くらいでしょ!

 今のところ彰以外そう呼ぶ人見たことないよ…多分これから先も見ないと思うけど…。


「森ちゃん先生!

なーに?話って!!!!!」


──声デカっ!?

彰の大きな声が職員室を出た後も廊下へ聞こえてくる。


 職員室のドアを少しだけ開けて中の様子を確認する。


 そこにはいつもに増して目に光が入ってる彰がいた。


なんか、大型犬が森先生にしっぽ振ってるように見える。

 かわい…くない。

 全然可愛いなんて思ってないし!

それにこんなに喜びながら話してたら告白する前に気持ちバレちゃうよ。


「鈴木に勉強を教えてあげてくれ。」


 僕の勉強を?彰が?


「えっ?…一応俺受験生よ?」


「北川なら大丈夫だ。

余裕で合格館内だったし、もう大学の勉強も始めてるんだろ?」


「それは…そうだけど…」


「それなら大丈夫だ。

期待してるぞ。

あっ…余裕があったら田中の勉強も見てやってくれ」


 田中君の勉強も見るの!?

 絶対重労働じゃん。

 田中くん、めちゃくちゃ成績悪いよ。

 僕も人のこと言えないけどね。


「あいつならスポーツ推薦でいけるんじゃ…」


「スポーツ推薦はあるが、多少は勉強できないと困る。」


「まぁ確かに…」


「じゃ、頼りにしてるよ」


「はぁ…頼りにされました〜」





 放課後、彰からの呼びかけで僕と田中くんが教室に集まった。


「というわけで、毎日放課後に勉強教えてくれる。

 奏くんと研吾くん専用、本城合格講座のお時間です!

今回の講師はなんと、あの北川彰さんです!

皆さんありがたく時間を無駄にしないように耳の穴かっぽじってお聞きください!!」



「すまないが、全然理解ができない。

なぜ北川が俺らの勉強を教えることになるんだ?

普通は森先生が教えるんじゃないのか?」


「ごめん。それ多分僕のせい…」


 僕のせいでこんな状況に陥っているから伝える声が小さくなる。


「森ちゃん先生は忙しいんだぞ!

過労で倒れちゃったらどうするんだよ。

そうなったら二人とも呪うからな〜!」


 彰、笑ってるけど目の奥が笑ってないよ。

 重いよ、愛が重い。

 マジで森先生が倒れたら問答無用で呪ってきそう。



「北川は本当に森先生のことを慕っているんだな。

俺は尊敬する先生が出来たことないから気持ちが良くわからないが…。

とてもいいと思う。」


「だろ?流石奏!お前は話がわかる奴だなぁ!」


 ねぇ。

 これってもしかして、もしかしての話だけどさ。

 田中くん彰が森先生のこと好きなの理解はしてるけど…。

 likeの方でloveだと理解してないとかないよね?


「ねぇ、彰」


「どうしたんだよ小声で話しかけて」


「彰、田中くんに森先生のこと好きだって話したことある?」


「研吾と違って奏は普通に人に興味を持って接しているから、言わなくてもわかってると思うぞ?」


──どういう意味だよ!


 はぁ、つまり田中くんにはハッキリ恋愛的な意味で説明したことがないってことか。

 多分だけど理解してないよ、田中くん鈍感そうだもん。

 でもどうやって話せばいいんだろう。

 直球で言ったらやっぱりおかしいよね。


ドンッ


彰が机の上に問題集をずらっと並べる。


「おぉ、すごい量だな」


 田中くんが感心の声を出した。


「何感心してんだよ」


「え?」「へ?」


「全部お前らが今日終わらせる量だぞ?」


悪魔あきらの言葉が僕たちを絶望へとたたき落とした。















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